コロナで96%の飲食店が売上減の中、売上を増やしたKFCの秘密とは?

KENTUCKY FRIED CHICKEN JAPAN LTD.
KENTUCKY FRIED CHICKEN JAPAN LTD.

テレビでは連日コロナの感染者数が発表され、一喜一憂している状態が続いていますよね。緊急事態宣言で人の流れを止めればたしかにコロナの感染は広がりませんが、同時に経済も止まってしまうことが大きな問題となっています。

コロナ禍で消費が冷え込んだ結果は、売り上げという数字にすぐに出てきました。外食事業を展開している上場企業66社のうち、2020年3月分の売上が前年同月よりも減少した企業は、なんと96.8%にも上りました(帝国データバンク調べ)。

緊急事態宣言が7都府県に発令されたのは、2020年4月7日からですので、この期間はまだ本格的にステイホームしていたわけではありませんでした。それでもこれだけ売上が低下していたとは驚きですよね。しかしほとんどすべての飲食店が売上を落とす中、KFC(ケンタッキーフライドチキン)だけは、売上を伸ばしているのです!

このケンタッキーフライドチキンの信じられない快挙の秘密は、どんなところにあったのでしょうか。新型コロナウイルスの収束が全く見えない今、これからの飲食店の手本となりそうなケンタッキーフライドチキンの販売戦略についてお伝えします。

売上が低迷していた頃のケンタッキー

売上が低迷していた頃のケンタッキー

ケンタッキーフライドチキンが日本に来たのは1970年、大阪万博が開催された年ですので、2020年は日本に登場してちょうど50周年となります。KFCは、今では日本人のクリスマスには欠かせないほど大人気のフランチャイズ店ですが、実は2017年10月から2018年6月までは、9か月連続で前年同月よりも売上が下がっていました

ケンタッキー2017年10月

出典:日本KFCホールディングス株式会社

ケンタッキー2018年6月

出典:日本KFCホールディングス株式会社

その頃のことを思い出すと、ケンタッキーフライドチキンは「特別な日に食べるちょっと高い店」というイメージだったかと思います。実際、アンケートの結果を見ても、ケンタッキーを「年に1回利用する」人が約4割、「年に2回利用する」人が約2割で、決まった時期に売上が集中していました。この年に1回というのは、クリスマスの利用のことですよね。

毎年、クリスマスにはケンタッキーの店の前に長蛇の列ができるというのは当たり前の光景になっています。しかし世界のケンタッキーフライドチキンの中でも、クリスマスの売上が突出している国は日本だけだったのです。日本のケンタッキーは、お盆やクリスマスを含む時期だけ経営が黒字で、その他の時期が赤字ということも問題でした。

V字回復の秘密

V字回復の秘密

ずっと売上が低迷していたケンタッキーがV字回復した秘密は、2018年4月に日本KFCのマーケティング部長に着任した中嶋祐子氏の戦略にありました。ファミリーがクリスマスに利用するケンタッキーのイメージはそのままに、日常的に気軽に利用できる店へとイメージの転換を図ったのです。

詳しい戦略内容を見ていきましょう。

ケンタッキー詳しい戦略内容

500円ランチセットと高畑充希の新CM

500円ランチセットと高畑充希の新CM

出典:KENTUCKY FRIED CHICKEN JAPAN LTD

ケンタッキーフライドチキンは、2018年6月に新しいCMシリーズ、そして翌月には期間限定で500円のランチセットをスタートさせました。「食べたいけどちょっと高いケンタッキー」は、ワンコインランチと気さくなイメージの高畑充希さんCMによって「普段使いできるケンタッキー」へとイメージ転換を図ったのです。

この500円のケンタランチ(ランチS)は、税込み500円で内容は次の4点のセット商品です。

  • ・オリジナルチキン
  • ・ビスケット
  • ・ポテトS
  • ・ドリンクS

この4点を単品で頼んだ場合は、オリジナルチキン250円、ビスケット230円、ポテトS230円、ドリンクS200円です。つまり合計910円の価値がある商品を、ランチタイムで期間限定とはいえ500円で提供したのですから、これはお得だと伝わりやすかったでしょう。

そしてこちらが話題となったケンタッキーのCMとそのメイキング動画です。

高畑充希さんは演技力に定評がある女優さんですが、自然体で気さくなイメージの方です。その高畑さんに「今日、ケンタッキーにしない?」と満面の笑みで言われたら、「うん!そうしよう!」という気持ちになるのもわかりますよね。

このCMがスタートした日は6月29日だったのにもかかわらず、新しい戦略の効果は翌月にもう出ています。6月に前年同月比97.3%だった売上は、たった一ヶ月で107.6%にまで上がりました。寒い時期に食べるイメージだったケンタッキーフライドチキンが、熱い時期に一気に10%も売上を上げたというのは、快挙といってもいいのではないでしょうか。

女性マーケティング部長の戦略

女性マーケティング部長の戦略

日本人にとって年に1度の贅沢となっていたケンタッキー。クリスマスに売上が集中するのは強みではありますが、ファミリークリスマスのイメージが強すぎるゆえに、日常使いがされにくいという弱みがありました。そのことが戦略にどう影響したかを見ていきましょう。

計算したところ、クリスマスだけ購入するようなライトユーザーがもう1回利用するだけで、全体の客数が数%も上がることがわかりました。なので、とにかくもう1回食べてもらいたいと思っていました。自分で自分のブランドを褒めるのもなんですが、美味しいので一度食べると、もう一度食べたくなりますよね。
日本KFC 中嶋祐子氏の発言より

「クリスマスのケンタッキーをより強く打ち出す」というやり方もあったかもしれません。しかし中嶋氏はその弱みにこそチャンスが潜んでいると考えて、戦略を組み立てました。そして「とにかくもう1回食べてもらいたい」との思いから、今までのようにクリスマスの時期に一大キャンペーンをするのではなく、細く長くキャンペーンやプロモーションをおこなうことにしたのです。

具体的には「バリュー(お得価格)プロモーション」と、「新商品や季節イベントのキャンペーン」を同時に展開して「ランチでもお一人様でも利用しやすい店」を目指しました。これをケンタッキーフライドチキン内では、「デュアルカレンダー」と呼んでいます。デュアル(dual)とは、「二重の」という意味の英単語ですので、常に「2つのキャンペーンを同時におこなう」という意味がこめられているのでしょう。

客を飽きさせないよう、客足が途絶えないように、常にイベントがおこなわれているというイメージでしょうか。ケンタッキーフライドチキンには期間限定のキャンペーンも多いので「今行かなきゃ損」という気持ちで、消費者が動くきっかけになりそうですよね。

「デュアルカレンダー」で客足が途切れない

「デュアルカレンダー」で客足が途切れない

実際におこなわれている「デュアルカレンダー」の例を見ていきましょう。デュアルカレンダーとは、「バリュー(お得)」+「新商品や季節イベント」を組み合わせたキャンペーンのことでしたよね。

ケンタランチS(500円)+ホットチリチーズサンド(450円)

ケンタランチS(500円)+ホットチリチーズサンド(450円)

出典:KENTUCKY FRIED CHICKEN JAPAN LTD

ケンタランチS(500円)+ホットチリチーズサンド(450円)

出典:KENTUCKY FRIED CHICKEN JAPAN LTD

30%OFFパック(1100円)+ベリーレモネード(290円)

30%OFFパック(1100円)+ベリーレモネード(290円)

出典:KENTUCKY FRIED CHICKEN JAPAN LTD

30%OFFパック(1100円)+ベリーレモネード(290円)

出典:KENTUCKY FRIED CHICKEN JAPAN LTD

この例からもわかるように、今でもデュアルカレンダー戦略は続いています。ケンタッキーフライドチキンの客足が途切れない理由は、こんな部分にもあるのでしょう。

デジタルマーケティングにも力を入れる

デジタルマーケティングにも力を入れる

出典:KENTUCKY FRIED CHICKEN JAPAN LTD

メニューの見直しと新しいCMとともに、ケンタッキーフライドチキンはデジタルマーケティングにも力を入れるようになりました。中嶋氏の発言からはきめ細やかなデジタル戦略が見えてきます。

また、LINEやオウンドメディア、公式アプリを使ったコミュニケーションにも積極的に取り組んでいます。特に公式アプリのユーザー数が拡大しているため、もう少しインサイトを探りながら、ユーザーごとのコミュニケーションを実現したいと思っています。
日本KFC 中嶋祐子氏の発言より

ケンタッキーフライドチキンの公式アプリには、お得なクーポンに加えてケンタッキーを利用すると貯まっていく「チキンマイル」というシステムがあります。チキンマイルを貯めれば貯めるほどステージが上がっていき、ステージに応じてよりお得なクーポンがもらえるので、ゲーム感覚で楽しめそうですよね。

次のYouTube動画はケンタッキーの会社説明ですが、最初の白黒映像部分にカーネル・サンダースさんが出ていることが、ちょっとした驚きです。ケンタッキーの店の前に立っている人形のモデルが実在するということを、知らない人もいるかもしれませんので…。

コロナ禍でも売上増のフランチャイズ

コロナ禍でも売上増のフランチャイズ

さまざまな戦略が実を結び、外食事業を展開している上場企業66社のうち、ケンタッキーフライドチキンはコロナ禍でも売上増という快挙を成し遂げました。

タッキーフライドチキンはコロナ禍でも売上増

出典:帝国データバンク

ちなみに売上が上回った2社は次のとおりです。全店比はマイナスであるものの、モスバーガーもコロナ禍での生き残りに成功した企業といえるでしょう。

既存店で前年同月を上回った主な企業

出典:帝国データバンク

こちらの2社はフランチャイズチェーンとしても有名ですよね。ウィズコロナ時代は今後長く続くと言われていますので、今から飲食店を経営するのでしたら、コロナ禍で生き残れるフランチャイズに加入するというのも一つの手かもしれません。

コロナ禍でのケンタッキーの強み

コロナ禍でのケンタッキーの強み

出典:KENTUCKY FRIED CHICKEN JAPAN LTD.

ケンタッキーフライドチキンがコロナ禍で勝ち組となった理由を、違った側面から考えてみましょう。ウィズコロナ時代は店内飲食の感染リスクが高いと言われているため、飲食店は生き残りをかけて「テイクアウト」と「デリバリー」に力を入れ始めました。

東京都は2020年4月に新型コロナウイルス感染症の緊急対策として、「テイクアウト」「宅配」「移動販売」を始める人への支援策を発表しています。

考えてみると、ケンタッキーフライドチキンは、テイクアウトとデリバリーに適した商品といえるでしょう。ケンタッキーフライドチキンでしたら冷めてもそれほど問題なく美味しくいただけますし、温め直せば美味しさが戻ってきます。これが時間の経過とともに激しく劣化してしまうような商品でしたら、あまりテイクアウトしたいとは思いませんよね。

コロナ禍では人と人との接触をできるだけ減らすことが求められているため、インターネットで手軽に注文できることも大きなポイントです。インターネットで注文して家まで商品を配達してもらえば、コロナの感染リスクは最低限に抑えられます。テイクアウトするにしても、あらかじめネット注文しておけば店舗では受け取るだけですので、感染リスクはとても低いでしょう。

それから「みんなで楽しめる商品」であることも、コロナ禍に強いといえる一因かもしれません。コロナの感染リスクを減らすため、家で家族と過ごすことが増えている状況で、ケンタッキーフライドチキンの持つ「ちょっとした特別感」や「パーティーで食べるもの」というイメージは、外で楽しむことを我慢している人たちには嬉しいものではないでしょうか。

ケンタッキーフライドチキンは、家族で楽しむ「おうちパーティー」にもピッタリなのですよね。

まとめ

まとめ

今回は、コロナ禍で売上を増やしたケンタッキーフライドチキンの販売戦略についてお伝えしました。どんな内容だったか、あらためてふり返ってみましょう。

  • ・KFCは、2018年6月まで9か月連続で売上が下落
  • ・500円ランチセットと高畑充希の新CMで「普段使いできる店」
  • ・女性マーケティング部長の思いは「もう1回食べてもらいたい」
  • ・バリューと新商品などを組み合わせた「デュアルカレンダー」が決め手
  • ・「デュアルカレンダー」で、常にイベントがおこなわれているイメージ
  • ・デュアルカレンダー戦略は今も続いている
  • ・デジタルマーケティングにも力を入れている
  • ・公式アプリには「チキンマイル」を貯める楽しいサービスがある
  • ・コロナ禍でも売上増のフランチャイズは、「ケンタッキーフライドチキン」と「モスバーガー」
  • ・ケンタッキーフライドチキンは、テイクアウトとデリバリーに強い商品

こうして見ていくと、コロナ禍においてケンタッキーフライドチキンが勝ち組となったのは、けっして奇跡が起こったわけではなく、さまざまな戦略が功を奏した結果だったとわかりますよね。

新しい戦略は大成功を収めたわけですが、そこにはマーケティング部長の「とにかくもう1回食べてもらいたい」との思いがありました。戦略はこの思いを実現するための手段にすぎませんので、売上を伸ばしたいと考えたときは、まずシンプルな「思い」は何かと考えてみるとさまざまなアイデアが浮かぶのかもしれません。

先の見えないウィズコロナ時代が始まり、飲食店の未来が危ぶまれていますが、人間の食に対する情熱は決して冷めることがありません。ケンタッキーフライドチキンの戦略を参考に、あなたのビジネスに新たなチャンスが生まれますように…。