フランチャイズオーナーが知っておきたいインボイス制度とは

2023年10月からインボイス制度が開始されますが、この制度の導入により、消費税の課税業者、免税業者ともに取引上の影響を受けることになります。近年、様々な分野や業種に普及してきたフランチャイズ業界もインボイス制度への準備を進める必要がありますが、フランチャイズ特有の事情があるため、対策を講じる上で特段の注意が必要です。

今回の記事では、インボイス制度の基本的事項を解説するとともに、フランチャイズ事業におけるインボイス制度の影響やフランチャイズオーナーが準備するべき対策などを紹介しています。フランチャイズ事業に携わる方は、ぜひ参考にしてください。

インボイス制度とは

インボイス制度とは

インボイス制度は、「適格請求書等保存方式」という消費税にかかる新たな取扱制度です。

インボイス制度は、仕入税額控除を行う際に適格請求書を用いることからこのような名称となっています。すなわち、2023年10月以降、消費税の課税事業者が仕入税額控除を行うためには、仕入先の事業者から適格請求書を交付してもらい、それを保存しなければならないということがルール化されました(一定期間の経過措置があります)。

〇課税事業者とは

消費税法では、税金を納める義務がある課税事業者と納める義務がない免税事業者が定められています。基本的に、個人であっても法人であっても、事業者は消費税を納める義務がありますが、以下のように、年間売上高が1,000万円以下の小規模事業者は、消費税の納税が免除されています。

①課税事業者

個人は前々年、法人は前々事業年度の課税売上高が1,000万円超の事業者

②免税事業者

個人は前々年、法人は前々事業年度の課税売上高が1,000万円以下の事業者
この要件を満たしても、個人は前年の上半期、法人は前年度の期首から6か月間の課税売上高が1,000万円超の場合は、課税事業者となります。

インボイス制度では、仕入税額控除のための適格請求書は、適格請求書発行事業者としての登録を済ませていなければ発行できないことになっています。年間売上額が1,000万円超の課税事業者であっても、適格請求書発行事業者としての登録を済ませていなければ適格請求書を発行することはできないのです。

適格請求書発行事業者は、納税地を管轄する税務署に申請書を提出して登録番号を取得した事業者をいいます。適格請求書発行事業者は、取引相手に適格請求書を発行することができると同時に、消費税の納税義務を負うことになります。

課税事業者、免税事業者のどちらも申請書を提出して登録事業者になることができ、そうすることで適格請求書を発行することが可能になります。

やや複雑なので整理すると、消費税の課税事業者、免税事業者は年間売上高によって振り分けられ、課税事業者には納税義務が生じます。しかし、課税事業者であっても、税務署に登録しなければ、適格請求書を発行することはできません。

一方、年間売上高では免税事業者の区分になっていても、税務署に登録することにより、消費税の課税事業者として適格請求書を発行することができます。すなわち、元々免税事業者であっても、適格請求書発行事業者の登録を行った場合は、課税事業者として消費税の申告納税が必要になるのです。

〇仕入税額控除とは

仕入税額控除は、消費税を納める際に、仕入や経費で払った消費税分を差し引いて納める制度です。

国に納める消費税 =
商品・サービスの販売時に受け取った消費税額 - 仕入や経費などで払った消費税額

例えば、衣料品店が、問屋からシャツを仕入れて消費者に販売しているとしましょう。

このシャツの問屋からの仕入れ価格は770円(本体700円、消費税70円)で、消費者への販売価格は1,100円(本体1,000円、消費税100円)です。

このシャツが売れたら、衣料品店は消費者から預かる消費税100円を納税する義務が生じます。しかし、衣料品店は、問屋からシャツを仕入れる際に既に70円の消費税を払っているため、さらに100円の消費税を払うとすると、70円+100円=170円と二重に消費税を払うことになってしまいます。

このため、今回の消費税納税額=今回預かった消費税額100円-既に払った消費税額70円=30円と、二重課税を避けるために、仕入れの際に既に払った消費税額を控除します。

消費税を払っているのは、上記のように商品や材料を仕入れた時だけではありません。事業を行うための必要経費である設備・備品購入費、消耗品・事務用品購入費、建物・設備の修繕費、水道光熱費、広告宣伝費などを支出する際にも消費税を払っています。このため、商品やサービスを販売した際に預かった消費税額から、これら必要経費とともに払った消費税額も控除して納税額を決める必要があるのです。

以上のように、材料や商品、必要経費などで既に払った消費税分を差し引いて納税することを仕入税額控除といいます。

インボイス制度では、課税事業者である衣料品店がこの仕入税額控除を行うためには、仕入先である問屋(売手事業者)から適格請求書を発行してもらい、それを保存しなければならないとされています。

なお、現行の制度では、1回の取引にかかる取引金額が3万円未満の場合は、請求書等を保存しなくても一定の帳簿を保存することで仕入税額控除が認められていますが、インボイス制度では、3万円未満の取引でも仕入税額控除を行うには適格請求書が必要となります。

〇適格請求書とは

適格請求書は、買手に対して、取引に適用した消費税率や消費税額を正しく伝えるための書類です。適格請求書には、以下の項目を記載しなければならないこととされています。

①適格請求書発行事業者の氏名または名称、および登録番号

適格請求書を発行する売手の氏名または名称(屋号も可)を記載します。それと併せて、適格請求書発行事業者として登録された登録番号も記載します。登録番号の記載がないと、適格請求書として認められません。

②税率ごとの合計金額および適用税率

10%と8%のどちらの税率が適用されたかがわかるように、税率ごとの合計金額(税込または税抜)と適用した税率を記載します。

③税率ごとの消費税額

税率ごとに算出した消費税額を記載します。

④書類の交付を受ける事業者氏名または名称

適格請求書の交付を受ける事業者の氏名または名称を記載します。

⑤取引内容

提供した商品やサービスの名称など取引の内容を記載します。軽減税率の適用がある場合は、その旨も記載します。

⑥取引年月日

商品やサービスを提供した取引年月日を記載します。

2019年10月から実施された区分記載請求書等保存方式では、税率ごとの合計金額などが記載されてきましたが、インボイス制度における適格請求書では、さらに、適用税率、税率ごとの消費税額、適格請求書発行事業者登録番号などを記載することになっています。

〇適格簡易請求書とは

適格簡易請求書は、不特定多数の人に商品やサービスを提供する事業者のために設計された制度です。

インボイス制度における適格請求書には、取引相手の氏名を記載する必要がありますが、不特定多数の人と取引を行う場合で相手方の氏名を確認することが困難な場合には、相手方の氏名記載が不要な適格簡易請求書を交付することができます。領収書やレシートは、適格簡易請求書として認められます。

この適格簡易請求書には、以下の項目を記載することとされています。

  1.  適格請求書発行事業者の氏名または名称、および登録番号
  2.  税率ごとの合計金額および適用税率
  3.  税率ごとの消費税額
  4.  取引内容
  5.  取引年月日

適格簡易請求書を発行できる業種は、次のものに限られています。

  1.  小売業
  2.  飲食店業
  3.  写真業
  4.  旅行業
  5.  タクシー業
  6.  駐車場業(不特定かつ多数の者に対する事業に限る)
  7.  その他これらの事業に準ずる事業で不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業

インボイス制度が導入される理由

インボイス制度が導入されるのは、次の目的のためとされています。

①適用税率が把握できるようにする

目的の1つ目は、適用税率が把握できるようにすることです。消費税は、軽減税率制度が導入されたため、8%と10%の複数の税率があります。従来の請求書では、どの商品にどの税率を適用したかが明示されず、税率ごとの合計金額が記載されるだけでした。そのため、どの取引に何%の税率が適用されたかを把握できるようにするのが、インボイス制度の目的です。

適用税率を把握できるようにした結果、売手が買手に対し、どの商品にどの税率を適用したかを正確に伝えることができるようになります。

また、取引ごとの適用税率が把握できると、取引上の不正や誤りを未然に防ぐ効果があります。また、取引に不正や誤りがあったかどうかを後で確認する場合にも、調査しやすいメリットがあります。

②消費税額が把握できるようにする

目的の2つ目は、消費税額が把握できるようにすることです。複数の消費税率が存在するため、税率の異なる商品を同時に複数購入したような場合は、それぞれの商品の消費税額を調べるのに時間や労力がかかります。

しかし、インボイス制度の導入により、請求書に税率ごとの合計金額や税率ごとの消費税額が明示されるため、消費税額が正確に把握できるようになります。このことにより、売手が買手に対して正確な消費税額を伝えることができ、また、取引上の不正や誤りを未然に防ぐことができるようになります。

インボイス制度が始まるとどうなる?

インボイス制度が始まると、適格請求書は、適格請求書発行事業者でなければ交付できなくなります。すなわち、納税地を管轄する税務署に適格請求書発行事業者として登録を行っていなければ、適格請求書を交付することができなくなるのです。

既に説明したように、商品やサービスの買手事業者が、仕入税額控除を受けるためには、売手事業者から適格請求書を交付してもらう必要があります。適格請求書以外の一般的な請求書では、仕入税額控除はできなくなります。

その結果、買手事業者が課税事業者で仕入税額控除の適用を求めている場合、売手側の事業者が適格請求書を発行できる事業者であれば問題ありませんが、そうでない免税事業者の場合は取引に影響が生じることが想定されます。

売手が免税事業者で適格請求書発行事業者の登録を行っていない場合、買手の課税事業者は適格請求書を交付してもらえないため、仕入税額控除ができなくなります。そのため、買手の課税事業者が免税事業者に対し、以下のような対応を講じる可能性があります。

①消費税を払わない

売手の免税事業者が請求書に消費税を記載しても、買手の課税事業者が消費税を無視して払わない可能性があります。

ここで、「インボイスがスタートした後、免税事業者は消費税を請求できるの?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。結論から申し上げると、インボイス開始後も免税事業者(適格請求書を発行できない事業者)は消費税を請求することができます。

免税事業者が消費税を請求することについては、消費税法上に定めがありません。国税庁作成の「消費税の軽減税率制度に対応した経理・申告ガイド」には、次のように記載されています。

免税事業者は、課税資産の譲渡等に課される消費税がないことから、請求書等に「消費税額」等を表示して別途消費税相当額等を受け取るといったことは、消費税の仕組み上、予定されていません。

このことからわかるように、消費税法では、免税事業者が消費税を請求することは想定されていなのです。

しかし、免税事業者も仕入段階では消費税を払っているため、商品やサービスを売却する時点で消費税を貰わないと、払った消費税分を損してしまいます。上の衣料品店の例のように、商品の仕入段階で770円の仕入額のうち70円分の消費税を払っているのです。

免税事業者が消費税を請求することが当初は想定されていなくても、インボイス開始前の現行の商慣習では違法とされずに認められています。インボイス開始後も、この点について変わりはないため、引き続き免税業者は消費税を請求することが可能です。

しかし、理屈上は消費税請求が可能であっても、相手方が応じてくれるかは別の問題です。売手の免税事業者が適格請求書発行事業者の登録を行っていない場合、買手の課税事業者は仕入税額を控除することができず、消費税を余計に納めることになってしまいます。その対応策として、買手の課税事業者が請求書の消費税分だけを抜いて払い込んでくる可能性があります。

②本体価格を下げるよう要請する

2番目は、買手の課税事業者が売手の免税事業者に対して、本体価格を安くするよう要請する可能性があります。これは、本来仕入額110円(うち本体価格100円、消費税10円)の商品について、本体価格を91円に下げるよう要請するような場合です。この場合、買手は、消費税10円についての控除ができないため、トータルで損しないよう本体価格を下げさせようとするのです。そうすれば、本体価格91円、消費税9円で仕入額が100円になるため、消費税の9円について控除できなくても、買手のトータル的な負担に変化がありません。

③取引を見直す

免税事業者が、適格請求書を交付できないまま消費税の請求を行うと、取引相手と上のような摩擦が生じる可能性があります。買手の課税事業者は、そのような面倒なことになるくらいなら、いっそのこと取引先を適格請求書発行事業者に代えようということにもなりかねません。適格請求書を交付できない免税事業者は、取引先から取引を見直され、仕事が減ってしまう危険があります。

このように、インボイス制度がスタートすると、課税業者、免税業者ともに取引に影響が及ぶ可能性があります。そこで、インボイス制度の開始にあたっては、以下のように、一定の期間について経過措置が講じられることになっています。

〇インボイス制度の経過措置とは

①2023年10月~2026年9月までの3年間は、仕入先が免税事業者で適格請求書を交付してもらえない場合、仕入税額の80%まで控除することが可能

②2026年10月~2029年9月までの3年間は、仕入先が免税事業者で適格請求書を交付してもらえない場合、仕入税額の50%まで控除することが可能

上記の期間を過ぎると、適格請求書によらなければ仕入税額控除を行うことは一切できなくなります。

インボイス制度への対策

インボイス制度への対策

それでは次に、インボイス制度に対して、どのような対策を講じるべきかをみていきましょう。

売手側事業者の対策

まず、売手側事業者の対策ですが、売手側事業者が課税事業者か免税事業者かによって対策が異なります。

①売手側課税事業者の対策

課税事業者であっても、適格請求書発行業者になるためには、税務署への登録が必要です。納税地を管轄する税務署に、適格請求書発行事業者の登録申請を行います。インボイス開始直後から適格請求書を発行するためには、2023年3月31日が登録期限となっています。

また、登録手続が完了すると登録番号が与えられ、その番号を請求書に印字することになります。適格請求書は記載事項が定められているため、その仕様に適合した経理システムを導入する必要があります。

②売手側免税事業者の対策

売手側免税事業者は、そのままでは適格請求書を発行できないことから、上で説明したように取引上不利な状況に立たされる可能性があります。このため、売手側免税事業者も以下のような対策を講じる必要があります。

〇取引先と協議する

まず、これまでと同様に消費税を請求できるかについて、取引先と協議する必要があります。

買手は、適格請求書がないと仕入税額控除を行うことができませんが、それは、買手が消費税納税義務のある課税事業者の場合です。買手が一般消費者や免税事業者の場合は、元々消費税の納税義務がないため、仕入税額控除を行う必要がありません。売手は、買手の課税事業者から請求されたら適格請求書を発行する義務がありますが、一般消費者や免税業者など課税事業者でない相手に交付する義務はないのです。

したがって、自分の取引先が課税事業者でない場合は、適格請求書発行の義務がないため相手方と協議する必要はなく、従来どおり消費税を請求することができます。

取引先が課税事業者の場合は、相手側が請求しても適格請求書を発行することができなくなるため、協議が必要です。すなわち、

  • ・引き続き、消費税を請求できるか
  • ・消費税を請求できない場合は、本体価格を上げることが可能か

このような内容で協議しても、消費税請求、本体価格アップがともに無理な場合、従前より利益が減る内容で取引を継続するかどうかは、自身の判断になります。

〇経過措置を利用する

インボイス制度の開始にあたっては、課税業者や免税業者に与える取引の影響を鑑みて、一定の期間について経過措置が講じられています。

したがって、その経過措置を利用すれば、適格請求書を発行できなくても、買手の課税事業者は、定められた期間に限り一定の割合について仕入税額控除が認められます。

インボイス制度の経過措置は、

①2023年10月~2026年9月までの3年間

仕入税額の80%まで控除することが可能

②2026年10月~2029年9月までの3年間

仕入税額の50%まで控除することが可能

となっています。

したがって、この経過措置期間中であれば、適格請求書を発行できなくても、取引先が納得してくれる可能性はあります。しかし、経過措置はインボイス制度開始後の6年間に限られ、仕入税額控除が認められる割合にも制限があります。このことからも、経過措置は、日本社会がインボイス制度に完全に移行するための補完的な手段であるといえます。このことを念頭に置いた上で、インボイス制度への対策を検討しつつ、応急的に経過措置を利用するという選択肢はあるでしょう。

〇課税事業者になる

取引相手と協議しても消費税請求や本体価格アップがともに困難であり、かつ経過措置の利用も根本的な解決策にならないと判断される場合は、課税事業者になるという選択肢もあります。

消費税請求、本体価格アップがともに無理な場合は、仕入の際に払う消費税をまるまる損してしまうことになります。そのような事態にならないよう、自ら課税事業者となって取引相手から消費税を受け取り、仕入税額控除も行うことで損失を防ぐ方法です。

例えば、衣料品卸の免税事業者が、問屋からシャツを仕入れて課税事業者に販売しているとしましょう。このシャツの問屋からの仕入れ価格は770円(本体700円、消費税70円)で、課税事業者への販売価格は1,100円(本体1,000円、消費税100円)です。

従来、免税事業者は消費税が免税となっていたため、課税事業者から受け取った消費税100円から仕入れ段階で払った消費税70円を差し引いた30円を納めずに、自分の利益にしていました(本体の利益は別として)。

ところが、インボイス開始に向けた買手の課税事業者との協議で、消費税請求、本体価格アップがともに拒否された場合は、従来課税事業者から受け取っていた消費税100円が0円となり、仕入れ段階で払った消費税70円をまるまる損してしまうことになります。

そのため、免税事業者が自らの判断で課税事業者に転向し(適格請求書発行事業者登録を行うと課税事業者になる)、課税事業者から受け取る消費税100円から仕入れ段階で払う消費税70円を差し引いた30円を申告納税するという方法を選択しました。そうすることで、手元に残る利益はありません(±0円)が、仕入れ段階で払う消費税70円の損を避けることが可能となります。

課税事業者になるということは、税務署に手続きを行い適格請求書発行事業者になるということです。適格請求書発行事業者の登録を行った場合は、課税事業者として消費税の申告納税が必要になるからです。

〇消費税を請求しない

上のように課税事業者になると、消費税の申告納税義務が生じるかわりに、仕入税額控除ができるようになるため、変な言い方ですが、得も損もしない状態になります。これまで免税事業者で消費税を請求していた時は、本来納めるべき消費税額から仕入れ段階で払った消費税額の差額が利益として手元に残っていたはずです。課税事業者になると、手元に残るものはなくプラスマイナス0円の状態になるのです。

しかし、課税事業者になると、消費税の申告納税の手間が必要になる上、適格請求書を発行できるよう経理システムを変更しなければなりません。そのため、あえて免税事業者のままで消費税を請求しないという選択肢もあり得ます。消費税を請求しなければ、仕入段階で払った消費税額分が自己負担となってしまいますが、適格請求書を発行する義務も生じません。

仕入税額がそれ程大きくない業種や仕事であれば、仕入税額分の損を覚悟でそのような選択をする場合もあるでしょう。

買手側事業者の対策

次に、買手側事業者の対策について、課税事業者と免税事業者に分けてみていきましょう。

①買手側課税事業者の対策

買手側課税事業者は、売手から発行される適格請求書により仕入税額控除を行って消費税の納税額を決めることになります。そして、自分が適格請求書を発行できるようにしておくためにも、税務署への登録手続が必要です。

また、免税事業者から商品やサービスを購入している場合は、既に説明したように、適格請求書を貰えなくなる可能性があるため、事前に確認しておく必要があります。取引先の免税業者が課税事業者に転換(適格請求書発行事業者の登録手続)せず、免税事業者のままである場合は、仕入税額控除ができなくなることへの対策を講じておく必要があるでしょう(消費税請求をやめてもらう、本体価格を下げてもらう、別の取引先を開拓するなど)。

②買手側免税事業者の対策

買手側免税事業者は消費税の納税義務がなく、仕入税額控除も行わないため、取引先に適格請求書を交付してもらう必要はなく、インボイス制度への対応は特に必要ありません。しかし、それは業務の一面からみた場合の話であり、事業というものは、同一の業者が買手と売手双方の立場になる可能性が高いことから、自分が売手になる場合の対策も併せて立てておくことが肝心でしょう。

フランチャイズとインボイス制度

フランチャイズとインボイス制度

次に、フランチャイズとインボイス制度の関係についてみていきましょう。

フランチャイズ事業とインボイス制度

フランチャイズ企業においても一般の企業と同様に、インボイス制度の開始により事業に影響が及びます。フランチャイズ事業者は、材料や商品を仕入れて販売するシステムがメインであることから、業務の各方面で買手側事業者にも売手側事業者にもなり得ます。このことから、仕入税額控除のための適格請求書を交付される側、適格請求書を交付する側のどちらの立場にも立つことを前提としなければなりません。

したがって、上で説明したインボイス制度に対する売手側事業者の対策や買手側事業者の対策は、フランチャイズ事業者の場合にも当てはまるといえます。

ただし、やはり最も注意を要するのは、売り手側事業者として適格請求書を交付しなければならなくなることです。すなわち、2023年10月以降は、消費税の課税事業者が仕入税額控除を行うためには、仕入先から適格請求書を交付してもらわなければならないため、フランチャイズ加盟店は、商品やサービスの販売先事業者から請求されたら、適格請求書を発行しなければならないということです。

この場合、フランチャイズ加盟店が、適格請求書発行事業者の登録手続を完了していれば何ら問題はありませんが、適格請求書を発行することができない免税事業者のままの場合は、既に説明したような問題や対策が想定されるのです。

フランチャイズ特有の事情とは

適格請求書を発行することができない免税事業者の場合は、一般的には、これまでと同様に消費税を請求できるか取引先と協議することになります。そうして協議を行っても、消費税の請求や本体価格の値上げが困難な場合、消費税請求なしで取引を継続する途も残されています。すなわち、取引先を失うより、今まで110円(本体価格100円、消費税10円)で売っていたものを消費税なしの100円や本体価格値引きの102円(本体価格93円、消費税9円)で売る方がよいという経営判断も成り立ちます。

しかし、これは一般的な話の場合であって、フランチャイズでは少し事情が異なってきます。フランチャイズは、フランチャイズ本部の下に同じ系列の直営店・加盟店が連なってグループを形成しています。同じフランチャイズ系列店であれば、本部の経営方針に従って、同一歩調の営業を行うことになります。そこでは、商品やサービスの販売価格は統一され、加盟店が独自の判断で値下げや値引きを行うことは原則許されません

上の例でいえば、Aという商品を110円(本体価格100円、消費税10円)で販売するよう統一しているにもかかわらず、加盟店独自の判断や事情で消費税なしの100円や本体価格値引きの102円で売ることは許されないということです。

その理由は、加盟店独自の判断や事情で値下げや値引きを行うことを許せば、同一系列の店舗で同じブランド商品を売っているにもかかわらず、その価格が店によってバラバラに違ってしまい、ひいてはフランチャイズブランドの価値を維持することが困難になってしまうからです。また、統一的な仕様になっているフランチャイズの経理システムが煩雑な内容になってしまい、管理が難しいということもあります。

上の例では、消費税込みの110円で販売できる事業者は、適格請求書を発行できる課税事業者であり、消費税なしの100円や本体価格値引きの102円で売らざるを得なくなった事業者は、適格請求書を発行できない免税事業者です。フランチャイズの場合は、各加盟店舗の立地や規模、従業員数などが異なっている場合が多いことから、同系列のフランチャイズでも、年間売上高1,000万円超の課税事業者と1,000万円以下の免税事業者が混在する可能性は否定できません。

課税事業者と免税事業者が混在するかどうかは、業種により異なってきます。後でも説明しますが、コンビニや業務スーパー、旅館、ホテルなどは概ね年間売上高1,000万円超の課税事業者が多く、課税事業者と小規模な免税事業者が混在するのは飲食店などの業種が中心といえるでしょう。

課税事業者と免税事業者が混在する場合、年間売上高1,000万円超の課税事業者は、消費税の申告納税義務があるため、否応なく販売価格に消費税を上乗せして110円(本体価格100円、消費税10円)で売らざるを得ません。課税事業者には、販売時に消費税を徴取しないという選択肢はないのです。このことから、フランチャイズ本部としては、A商品の販売価格を課税事業者の加盟店に合わせて110円(本体価格100円、消費税10円)に統一するしかなくなります。

ということは、免税事業者の加盟店もA商品の販売価格を消費税込みの110円にするよう、フランチャイズ本部から要請される可能性があるということになります。免税事業者の加盟店に対し「A商品の販売価格を消費税込みの110円にしてくれ」ということは、「適格請求書発行事業者の登録を行い、課税事業者に転向してほしい」ということです。しかし、免税事業者が課税事業者になるためには、販売時に徴取した消費税をすべて納税し(仕入税額控除は行いますが)、インボイス制度に合わせた経理システムを導入する必要があるため、その負担は小さくありません。

さらに、この問題が簡単に解決できそうにないのは、課税事業者に転向するようにとのフランチャイズ本部の要請は、加盟店に対する強制力があるか疑わしいことです。フランチャイズ加盟店は、フランチャイズ本部の支店でも子会社でもありません。加盟店は、それぞれオーナーという経営者が運営する独立した事業者です。フランチャイズ契約という縛りはあるものの、フランチャイズ本部のすべての要請に黙って従わなければならない義務はないのです。その点を盾にして、「課税事業者に転向せよ」との本部の要請を拒否する加盟店オーナーが出ても不思議ではありません。

ただし、一つ注意すべきは、本部が統一して決めた商品の販売価格を守らずに、加盟店が異なる価格で販売することが、フランチャイズブランドの失墜を招く行為に該当しないかということです。この本部と加盟店の主張の食い違いが、法的な争いに発展した場合、フランチャイズブランドを傷付ける行為に該当すると認定されれば、フランチャイズ契約違反となって加盟店が責任を問われることになります。

ポイントは、

  1.  ほとんどのフランチャイズでは、商品やサービスの価格が統一されている
  2.  グループ内には、大規模加盟店の課税事業者が存在する可能性が高い
  3.  そのため、消費税を上乗せした価格で統一される
  4.  従来の免税事業者は、消費税を徴収しないという判断を勝手にできない
  5.  従来の免税事業者の選択肢は、
    ・課税事業者に転向して消費税を請求する
    ・免税事業者のままで消費税を請求する(経過措置利用も含む)

などになりますが、免税事業者のままで消費税を請求するのは簡単なことではありません。

フランチャイズオーナーの対策

以上、フランチャイズには、インボイス制度が開始されると、フランチャイズ独自の事情により解決が難しい問題が生じる可能性もあります。それでは、加盟店、その中で特にこれまで免税業者だった加盟店オーナーは、どのような対策を講じればよいのでしょうか。

インボイス制度では、売手は、買手の課税事業者から請求された場合に適格請求書を発行する義務がありますが、一般消費者や免税事業者など課税事業者以外の相手に交付する義務はないことです。

近年、フランチャイズは様々な分野・業種に普及しており、年間売上高や加盟店の取引相手もそれぞれの分野や業種により異なってきます。フランチャイズの中で、年間売上高が1,000万円以下の免税事業者に該当し、消費税の課税事業者ではない一般消費者に商品やサービスを提供する業種を営業していれば、適格請求書を発行せずに引き続き消費税を徴取することができる可能性があります。

年間売上高と取引相手の観点から、個別に代表的な業種をみていきましょう。

①小売業

小売業の代表であるコンビニや業務スーパーは、年間売上高が1,000万円を超えるパターンが多いと想定され、適格請求書発行事業者の登録手続を行っておくのが安全です。

客層をみると、業務スーパーは一般消費者以外に事業者が利用しますが、コンビニはほとんど一般消費者です。しかし、年間売上高1,000万円に満たないコンビニは経営的に疑問符が付くため、加盟店はほとんどが課税事業者とみてよいでしょう。

②飲食業

飲食業は、年間売上高が1,000万円超の大・中規模店と1,000万円以下の小規模店が混在する可能性があります。飲食業は客がほとんど一般消費者であるため、小規模店であれば適格請求書を発行する必要はありませんが、一部例外もあります。それは、社費で購入する会議用の昼食などの注文があった場合で、その時は適格請求書を求められる可能性があります。

③教室

学習塾、英会話教室、スポーツジムなどは、概ね年間売上高が1,000万円を超えると想定され、適格請求書発行事業者の登録手続が必要です。しかし、一部に小規模店舗の免税事業者も存在する可能性はあります。これらの業種では、生徒や会員はほとんどが一般消費者ですが、例外として、企業の社員研修を目的として、英会話教室や健康教室などが利用されることがあり、その場合は適格請求書を求められるでしょう。

④宿泊業

宿泊業は、年間売上高が1,000万円を超える課税事業者が多いと想定されます。また、利用客も個人利用ばかりでなく、法人の社費による業務目的での利用もあると想定されます。また、旅館やホテルは、旅行代理店が取引先の場合も多く、その場合は仕入課税控除が必須となります。

年間売上高や利用客の種類などを勘案すると、宿泊業は、適格請求書発行事業者の登録手続を行うことが必要でしょう。

⑤清掃業

ハウスクリーニングは一般消費者相手ですが、ビルクリーニングは企業が相手の商売です。

年間売上高が1,000万円以下の小規模ハウスクリーニングであれば、個人相手ということで適格請求書の発行は必要ないでしょう。一方、ビルクリーニングの場合は、企業から仕入税額控除のための書類を求められるでしょう。

⑥買取業

買取業は、一般人から買い取った物をフランチャイズ本部または本部が紹介する業者に買い取ってもらうパターンが中心です。転売先は、いずれも仕入税額控除を行うと想定されることから、適格請求書発行事業者の登録手続が必要でしょう。

以上のように、フランチャイズの業種や店舗規模により、対応は異なってきます。しかし、自分の店舗の客が適格請求書不要の一般消費者で、かつ年間売上高が1,000万円以下の免税事業者である場合でも、免税事業者の立場のままで消費税を請求し続けるためには、事前にフランチャイズ本部の了解を得ておく必要があります。

「自分の店は小規模で免税事業者に該当し、また一般消費者相手のため適格請求書を求められることがない」ことをフランチャイズ本部に説明し同意を貰わなければ、勝手な行動をとることは系列店として困難でしょう。

また、仮に一般消費者の個人利用がほとんどで、フランチャイズ本部の合意を貰えた場合でも、時として企業利用などにより仕入税額控除が必要となるケースが生じる可能性があります。そのため、企業・団体・個人事業者などから申込みや予約が入った時点で、適格請求書を発行できない旨を説明する体制にしておく必要があります。

さらに、企業の従業員が社費を使って商品を購入しに来店するなど、急な飛び込みへの対策も講じておく必要があります。不意の来店に対しては、レジ前に「当店は、消費税免税事業者であるため、適格請求書の発行はできません」などの表示を客にわかるよう掲げておく必要があるでしょう。

次に、加盟店が買手になった場合の対策ですが、

①加盟店の年間売上高が1,000万円超の場合

課税事業者として適格請求書発行事業者の登録手続を行います。フランチャイズの仕入れ先は、フランチャイズ本部または本部指定の業者である場合がほとんどであることから、適格請求書を円滑に交付してもらえると想定されます。

②加盟店の年間売上高が1,000万円以下の場合

年間売上高が1,000万円以下でも、適格請求書発行事業者の登録手続きにより課税事業者に転向することができます。その場合は、仕入税額控除のために適格請求書を交付してもらいます。

適格請求書発行事業者の登録を行わず免税事業者のままであれば、消費税の納税は行わないため適格請求書を交付してもらう必要はありません。

まとめ

フランチャイズオーナーが知っておきたいインボイス制度

インボイス制度の導入に対して、フランチャイズオーナーが講じるべき対策は、一般の事業者に比べ限られてきます。それは、多くのフランチャイズで、商品やサービスの提供価格が統一されているからです。商品やサービスの提供価格は税込価格で統一されるため、消費税を請求する・しないの判断を加盟店が勝手に行うことは困難です。

グループ内には、大・中規模店の課税事業者が存在する可能性が高く、その事業者は、商品やサービスの提供時に否応なく消費税を請求することになります。そのため、フランチャイズの提供価格は課税事業者の価格に統一することになり、免税事業者の加盟店も横並びするしかなくなります。

このように、フランチャイズオーナーがインボイス対策を講じるには、問題や課題があります。そのため、事前にフランチャイズ本部と十分に相談し、両者が理解・納得した上でインボイス制度を迎えることが大切です。