葬儀屋のフランチャイズに加盟するメリット・デメリットや経営のポイントは?
幅広い業種で普及・拡大してきたフランチャイズですが、少し変わった分野として葬儀業があります。葬儀屋は頻繁に利用するものではありませんが、人生で何度かは必ずお世話になる地域に密着した業者です。
葬儀屋をフランチャイズで始める場合、事前に押さえておきたいポイントがあるので、今回の記事では、葬儀屋のフランチャイズに加盟するメリットやデメリット、葬儀屋を上手に経営するポイントを解説しています。フランチャイズで独立開業を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
葬儀屋とは
初めに、葬儀屋の基本を整理しましょう。
葬儀屋とは
葬儀屋とは、葬儀一式をサポートする業者をいいます。人が亡くなったとき、遺体の管理や葬儀の手配をし、葬儀当日は式の進行管理などを行います。葬儀屋のフランチャイズに加盟すると、フランチャイズの系列店として葬儀屋の業務を行うことになります。
葬儀の種類
葬儀は、その形態などにより以下の種類があります。
①一般葬
これまで一般的に行われてきた葬儀で、故人の親族のほか、近隣住民や友人、仕事関係者、趣味サークルの仲間など広い範囲の人を葬儀に招待するものです。一定規模の儀式を行うため、それなりに費用をかけた祭壇を準備し、参列者には返礼品や清めの席での飲食を提供するため、最も費用がかかる葬儀の形式です。
②家族葬
近年広まってきた葬儀の形式で、参列者を故人の家族や親族などの身内に限定して行なうものです。参列者が身内だけの少人数であるため祭壇は小規模で、返礼品や清めの席も簡素な形式が多くみられます。
③自宅葬
葬儀を自宅で行う形式です。
自宅葬は一昔前までは広く行われていましたが、核家族化が進展して住宅面積が小さくなったこともあり、近年は自宅外の式場で葬儀を行うことが多くなりました。しかし、コロナ禍などにより葬儀の形態や招待者が見直され、葬儀自体が小規模になってきたこともあり、自宅でも行うことが可能になってきています。
④一日葬
葬儀を1日のみで完了させる形式です。従来、葬式は1日目に通夜、2日目に葬儀・告別式と2日間にかけて行われてきましたが、通夜を省略して1日だけで儀式を完了させる形態が増えてきています。
葬儀屋の仕事内容
それでは、葬儀屋はどのような仕事を行うのかをみていきましょう。
①遺体の搬送・保管
遺族の連絡を受けて、遺体を死亡場所から自宅または葬儀会場に搬送します。
遺体を綺麗に清めて正装し、棺に保管します。
②通夜・葬儀の打合せ
遺族と通夜・葬儀の日程や内容について打ち合わせを行い、葬儀費用を見積ります。
③葬儀会場・火葬場の手配
葬儀会場・火葬場を手配します。
④遺影の準備
遺族から故人の写真を借り受け、それを基に遺影を準備します。
⑤葬儀会場・祭壇設営
葬儀会場や祭壇を設営します。
⑥葬儀の進行管理・サポート
葬儀当日は、式の司会進行を行うとともに、喪主や遺族をサポートします。
また、遺体や参列者を火葬場に搬送し、火葬後は遺骨を葬儀会場に搬送します。
清めの席を設ける場合は、飲食の準備や配膳を行います。
⑦葬儀後のサポート
葬儀後の各種行政手続きなどについてアドバイスするなど、遺族のサポートを行います。
葬儀屋のフランチャイズに加盟するメリット
それでは、葬儀屋のフランチャイズに加盟するとどのようなメリットがあるかをみていきましょう。
葬儀のニーズはなくならない
葬儀の規模や形態は、時代の流れやその時々の社会情勢などにより変わっていきます。しかし、葬儀の規模や形態は変わっても、葬儀そのものがなくなることはありません。生前お世話になった人が亡くなった場合に、最後のお別れをして送り出す儀式が葬儀です。いつの時代になっても、近しい人が亡くなった際に最後のお別れをして送り出したいという人の気持ちが失われてしまうことはないのです。
また、将来的に一層の進展が予想される高齢化も、葬儀がなくならない理由です。医療技術の発展や社会的な公衆衛生の整備、健康への志向などにより、国民の平均寿命は伸びてきています(コロナ禍などによる停滞はありますが)。高齢者が多いということは、それだけ葬儀の潜在的なニーズがあるということです。
このように、葬儀の社会的なニーズがなくなることはなく、葬儀業は将来的にも安定した収益を見込むことができます。
葬儀関連のニーズが増える
もう1つのメリットは、葬儀関連のニーズが増えることです。厳密に捉えると、直接葬儀と関連があるわけではありませんが、人生の終末期と関連が深い分野です。その葬儀関連の分野は、以下のものです。
- 生前の遺品整理
- 死後の遺品整理
- 死後の各種手続き
①生前の遺品整理
近年は「終活」という名目で、自分が生きている間に遺品などの身の回りを整理しようとする活動が盛んになりました。しかし、終活に入る時期は高齢化が進んだ年代であることから、気力・体力ともに頑張りがききません。自分1人で身の回りを整理しようとしても難しい高齢者も多くいます。そのような場合に、葬儀屋の業務の一環として、遺品整理のお手伝いをすることができます。
②死後の遺品整理
近親者の死亡後は、遺族が遺品を整理することになります。しかし、遺族も仕事を抱えて忙しい、または高齢になっていて体力がないなどのケースがあります。そのような事情を抱えた遺族に変わって、葬儀社が遺品整理の代行を行うことができます。
③死後の各種手続き
近親者が死亡すると、役所や金融機関に対し各種の手続きを行う必要が生じます。
【死後の手続き一覧】
市区町村 | ・死亡届の提出 ・火葬許可申請書の提出 ・住民票の世帯主変更 ・故人の保険証の返却 ・葬祭費の申請 |
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年金事務所 | ・故人の年金の受給停止 ・遺族年金の受給手続き |
金融機関 | ・故人の預金の相続手続き |
保険会社 | ・故人の生命保険金の受取手続 |
医療機関・介護施設 | ・故人が入院・入所していた医療機関・介護施設への費用支払い ・故人の遺品引取り |
遺族が仕事で多忙である、または高齢で体力がない場合などは、葬儀屋が手続きを代行することができます。最近は、高齢化の進展などにより遺族も高齢で、故人の遺品整理や各種手続を行うのが難しい例が増えています。このため、遺品整理や手続きの代行ニーズは今後も増えることが想定されます。
特別な資格はいらない
葬儀屋を始めるのに、特別な資格はいりません。始めるのに、国家資格などを取得しなければならない仕事は数多くありますが、葬儀屋を始める場合は資格を取得する必要はありません。また、行政庁の許認可を受ける必要もありません。葬儀屋は、開業費用を準備して営業ノウハウを身に付ければ、誰でも始めることができます。
商標・商号を利用できる
フランチャイズに加盟する最大のメリットは、フランチャイズの商標・商号を利用できることです。商標・商号を利用できるということは、それを屋号として看板に掲げて営業ができるということです。
一般的に、葬儀屋に葬儀一式を依頼するときは、信頼・信用できる業者に任せようとします。遺族は、故人を丁重に見送り安らかな眠りに就いてほしいとの気持ちを持っており、また、近隣住民や仕事関係者などが参列する葬儀は気品や荘厳さが求められるため、一定以上の力量がある業者に頼みたいと考えます。さらに、葬儀費用面でも、良心的な価格を設定している業者を希望します。
そのため、今までに聞いたこともないような葬儀屋は不安だが、よく宣伝を行っている名前が知れた業者であれば、良心的な価格で立派な葬式をやってくれるだろうと誰もが思うのです。
フランチャイズに加盟する最大のメリットは、正にここにあるわけです。例え葬儀屋を始めたばかりの初心者であっても、有名なフランチャイズの屋号を使っていれば、仕事の依頼が入ってくることになります。フランチャイズに入るということは、個人営業の葬儀屋に比べスタートラインが大きく前に出ているのと同じメリットがあるのです。
経営ノウハウを提供してもらえる
フランチャイズに加盟すると、経営ノウハウを提供してもらえるメリットがあります。葬儀屋は、葬儀一式の挙行を任されるため、責任は重大です。また、このような儀式には、昔からのしきたりやタブーなども残っています。葬儀場における言葉遣いにも注意を要します。
このため、素人の初心者が個人で葬儀屋を始めると、相当な苦労を伴うことが予想されます。しかし、フランチャイズでは、葬儀一式を組み立てて挙行するための業務マニュアルが用意されており、開業前には本部で研修も行ってくれます。
このように、フランチャイズに加盟すると、営業するための知識やノウハウを提供してもらえることから、短期間で葬儀屋の業務をこなすことが可能です。
本部のバックアップを受けることができる
フランチャイズでは、様々な面で本部のバックアップを受けることができます。葬儀場の場所選定や物件探し、人材スタッフの確保、式場で使う備品の用意など、葬儀屋を始めるためには様々な準備が必要ですが、開業までの各ステップでフランチャイズ本部がサポートを行ってくれます。
また、開業後も、営業や経営面で困った場合は、本部に相談すれば随時指導・助言を行ってくれます。
初心者でもできる
フランチャイズの葬儀屋は、初心者でも始めることができます。葬儀屋を始めるのに、特別な資格はいりません。また、葬儀関連の知識やしきたり、風習などは、マニュアルや研修を通じて、フランチャイズ本部から営業ノウハウを提供してもらえます。
難しいのは、葬儀の司会進行や花祭壇の製作などですが、それらは素質や適性がある人材を採用して研修を受けてもらうか、経験者を雇えば解決ができます。
葬儀屋のフランチャイズに加盟するデメリット
次に、葬儀屋のフランチャイズに加盟するデメリットをみていきましょう。
一般葬が減る
近年、葬式の中で一般葬が減る傾向にあります。一般葬が減る理由は以下のとおりです。
①コロナ禍により葬儀の規模が見直された
コロナ禍により、大勢の人が密集する場を作らないということで、大規模な葬儀やお清めの席が自粛されてきました。コロナ禍を契機に葬儀の規模が見直されたことにより、仮にコロナ騒ぎが去ったとしても、この傾向は将来的に続くことが想定されます。
②社会の風潮が変化した
「儀礼的なことは最小限にする」という人が増え、葬儀のような儀式は大規模にしなくてもよいという考え方に変わってきています。また、葬儀は本当に近しい近親者に参列してもらえば十分と考える人も増えています。
このような風潮は、葬式だけでなく結婚式にもみられます。一昔前は、豪華な披露宴を開いて大勢の客を招待する人が多かったのですが、近年は、お金は披露宴で使わず新婚生活に回そうということで、親族や親しい友人を招いて小規模な食事会で済ませようとする人が増えています。
このように、葬儀の規模が見直されたことにより、一般葬から家族葬や自宅葬に切り替える人が増えています。一般葬が減ると、葬儀屋の収益も減少します。その理由は、一般葬が減ると以下の儲けが減少するからです。
①祭壇費用
一般葬では、親族以外に、近隣住民、会社や取引先関係、友人、趣味の会のメンバーなど広く参列者を招待します。参列者が多いと葬儀の規模が大きくなり、祭壇もそれに釣り合うよう豪華な仕様で作ります。
祭壇の作成・レンタルは葬儀屋にとって大きな収入源ですが、一般葬が減って家族葬や自宅葬が増えると祭壇が小規模になり、その分儲けも減ってしまいます。
②返礼品費用
返礼品も葬儀屋にとって大きな収入源ですが、一般葬が減って家族葬や自宅葬が増えると、返礼品の数が減る分儲けも減ってしまいます。
③飲食費用
家族葬や自宅葬が増えると、清めの席も小規模になり、飲食費用全体が減ってしまいます。
④葬儀の進行費用
一般葬は規模が大きく参列者も多いため、葬儀屋が司会進行を行う例が多くみられます。しかし、家族葬や自宅葬は参列者が身内で数も少ないことから、喪主自身で進行することができます。この場合、司会進行手数料の収入が減ることになります。
事業規模を決めるのが難しい
葬儀屋は、事業規模を決めるのが難しいデメリットがあります。この場合の事業規模は、店舗規模と従業員数です。よりわかりやすく言うと、①葬儀場を設置するかどうか、②葬儀場を設置する場合は、何部屋設けるか、③従業員数を何名にするかを決めるのが難しいのです。
①葬儀場を設置するかどうか
葬儀場を設置する場合は、まとまった額の開業費用が必要になります。自分で土地を取得してそこに建物を建設するか、葬儀場として使える土地・建物を取得する必要があるからです。葬儀場として使える土地・建物を賃借するという方法が経済的ですが、手頃なエリアにそのような物件がある保証はありません。
葬儀場として営業を始めるならどこでもよいというわけにはいかず、近隣住民の理解を得る必要があるからです。住宅地のすぐ隣でいきなり葬儀場を始めたりすると、トラブルの原因になってしまいます。そのようなことから、葬儀場を設置する場合は、自分で土地を取得してそこに建物を建設するか、葬儀場として使える土地・建物を取得することを基本にしておく必要があります。
また、葬儀場を設置しない場合は、集会所などどこかの場所を手配して葬儀を行うか、自宅葬を中心に引き受けることになります。
②葬儀場を設置する場合は、何部屋設けるか
葬儀場を何部屋設けるかは、同時並行的に何組の葬儀を取り扱うことができるかということです。葬儀が行われる時期に規則性はなく、何組もの申込が重なる場合があると思うと、全く予約が入らない時期があります。何組もの申込が重なる場合にキャパオーバーで断るのはもったいないと考えると、同時並行的に複数の葬儀を取り扱うことができるよう複数の部屋を設置することになります。
しかし、その場合には葬儀場の規模が大きくなるため、それなりの費用が必要になります。また、葬儀の予約が入らないときは、部屋が遊んでしまうことになります。
③従業員数を何名にするか
これも上と同じで、同時並行的に何組の葬儀を取り扱うことができるかということです。
同時並行的に複数の葬儀を取り扱おうとすれば、多くの従業員を雇用する必要があります。しかしこの場合も、葬儀の予約が入っていないときは、多くの従業員を抱えていても無駄になってしまいます。
以上のように、葬儀屋の忙しさは葬儀予約の入り方次第で決まることから、どの辺に照準を合わせるかによって事業規模が違ってくるという難しさがあります。
初期費用がかかる
上でみたように、葬儀場を設置する場合はまとまった額の初期費用が必要になります。土地を取得して建物を建設しようとすると、場所にもよりますが、1,000~数千万円の費用がかかります。土地・既存建物をセットで取得する場合は、建物の経過年数により新築よりは費用を圧縮できる可能性があります。
取引先の新規開拓が簡単ではない
葬儀屋は、取引先の新規開拓が簡単ではないデメリットがあります。この場合の葬儀屋の取引先とは、病院・介護施設・警察・宗教施設などです。これらの施設は、いずれも人が亡くなった場合に、遺族に対しつき合いのある葬儀屋を紹介してくれるからです。
しかし、病院・介護施設・警察・宗教施設などを新しい取引先として開拓するのは簡単ではありません。いずれの施設・機関も、従前から入り込んでいる葬儀業者がいて、新参者が後から入ることが難しいからです。
病院・介護施設・警察・宗教施設などを回って、葬儀の内容や価格がわかるパンフレットを置いてくることは簡単です。しかし、ただ挨拶してパンフレットを置いてくるだけでは、その施設・機関に入り込んだことにはなりません。
それらの施設・機関に入り込むには、他の業者より有利な条件を提示し、繰り返し訪問して説明を尽くす必要があります。
人材の確保が難しい
葬儀屋は、人材の確保が難しいデメリットがあります。葬儀屋において人材の確保が難しいのは、「人手であればどのような人材でもよい」というわけにはいかないからです。より正確に説明すると、葬儀屋の仕事には、普通の人材でよい部分とよくない部分とがあります。
普通の人材でよい仕事は、一般事務や会場設営などを行う仕事です。一般事務は、従業員の給与や旅費の計算・手続、備品や消耗品の購入、各種の支払い、事業収支の記帳などです。これらの仕事は、普通の能力を持ち仕事に慣れれば誰でもできます。また、会場設営は、祭壇の基礎を作る、清めの席を設けるなどの力仕事が中心であり、これも誰でもできる仕事です。
問題は、普通の人材では務まらない分野の仕事です。どのような分野が普通の人材では務まらないかというと、①葬儀の司会進行、②葬儀費用の見積り、③喪主と打ち合せ・アドバイス、④葬儀の予約受付、⑤花祭壇作りなどとなります。
①葬儀の司会進行
葬儀は厳正な雰囲気で進行させる必要があり、手順の間違いは許されません。その司会進行役を務めるには、品の良さや真面目な雰囲気を持ち、丁寧な言葉遣いと心に響く話し方ができるプロでなければなりません。未経験者で最初からこのような人材はいませんが、素質や適性を持っている人であれば、研修を積むことにより、気品を身に付け滞りなく話ができるようになります。
②葬儀費用の見積り
葬儀費用の見積作成自体は、慣れればパソコンで誰でも作ることができます。しかし、遺族に葬儀メニューを説明し、やり取りを通じて、生花などのオプションをできるだけ付けてもらうよう=葬儀屋が儲かるように規模を膨らませる方向に誘導できるのは、一定の営業センスや話術に長けた人材になります。
③喪主と打ち合せ・アドバイス
喪主と打ち合せやアドバイスを行う仕事も一定以上の能力が要求されます。葬儀前に喪主と打ち合わせを行い葬儀の流れや手順を説明し、葬儀当日には随時喪主にアドバイスを行う仕事です。
葬式の喪主は人生でそう何度も経験するものではないため、葬儀の流れを事前に説明されても、その場になってみると次はどうすればいいかがわからなくなることがあります。そのような場合に、喪主に適確なアドバイスを行ってくれるスタッフは、大変ありがたいものです。
また、弔電紹介の順番助言や喪主の立ち位置誘導など、細かな配慮を要する仕事でもあります。
④葬儀の予約受付
葬儀の予約受付は、他の葬儀予約との兼ね合いや投入できるスタッフの調整などが必要になる場合があるため、ある程度葬儀屋の仕事全体を見渡せるスタッフでないと務まらない可能性があります。
⑤花祭壇作り
生花を使った花祭壇などは、その作成に高い技術が求められるため、熟練したスタッフでなければできません。
以上のように、葬儀屋の仕事には、普通のパートやアルバイトで間に合う分野の仕事以外に、一定の素質や適性、技術や経験が求められる仕事があります。この一定の素質や適性、技術や経験が求められる仕事をこなしてくれる人材を確保するのは簡単ではありません。
自由な経営が難しい
フランチャイズに加盟すると、自由に経営することが難しくなります。フランチャイズは、グループ内の直営店や加盟店が行う営業の形態や内容、料金価格などを統一的に決めています。例えば、葬儀屋のフランチャイズであれば、提供できる祭壇のメニュー、遺体搬送・保管の方法、葬儀の司会進行の方法、提供できる飲食のメニュー、それぞれの料金価格などを統一して決めているのです。
したがって、加盟店が独自に、創造的な祭壇を作って提供する、葬儀の司会進行のやり方を変える、飲食物のメニューを変えて安く提供するなどはできません。加盟店がメニューや内容を変えることができるのは、遺族側の強い希望がある場合のみです。遺族の希望であれば、できるだけそれに沿う形にメニューや内容を変える場合があります。
フランチャイズがこのように営業の形態や内容、料金価格などを統一的に決めているのは、グループのブランドを守る、経営の効率性を上げるなどの使命があるからです。仮に、加盟店が勝手に提供メニューを変えて安売りを行ったとしたら、長年グループで培ってきたブランドの価値が失墜してしまう危険があります。
長年にわたり築き上げてきたブランド価値が、「安かろう悪かろう」の評判とともに崩れ去ってしまうかもしれないのです。また、同じフランチャイズでありながら、加盟店ごとに提供商品・サービスや価格が違うと利用者が困惑してしまいます。このようなことから、グループのブランドを守るため、フランチャイズは提供商品・サービスの内容や価格を統一しているのです。
また、フランチャイズは、直営店や加盟店の営業成績を伸ばし、グループ全体を拡大・成長させる目標を持っています。そのため、どうすれば効果的な集客ができるか、どうやれば必要経費を圧縮できるかなどについて研究し、実験も重ねています。そして、現時点で最も経営効率が良いと判断される営業形態や営業方法を統一的に定めています。
例えば、コンビニフランチャイズで、売上額を伸ばし必要経費を減らすことができる営業時間の設定は、何時から何時までかについても検討しています。営業時間を延ばせば売上額は伸びるが、人件費や光熱水費などの必要経費も多くかかります。また、長い営業時間は、加盟店オーナーに大きな負担を強いることになります。そのように、営業時間1つをみても、様々な課題を検討した上で統一的に設定しているのです。
以上のように、フランチャイズに加盟すると、フランチャイズ本部の経営方針に沿った営業を行う必要があります。
葬儀屋のフランチャイズを経営するポイント
それでは、葬儀屋のフランチャイズを上手に経営するには、何がポイントになるかをみていきましょう。
地域のニーズを踏まえ事業規模を決める
1つ目のポイントは、地域のニーズを踏まえ事業規模を決めることです。葬儀屋の事業規模を決めるのは難しいと説明してきました。その難しさは、業務量の不規則性と初期費用にあります。
①業務量の不規則性
葬儀の予約は不規則・ランダムに入ってきます。予約が入らない時期を基準にして小規模(葬儀場数・従業員数)にすると、予約が重なった場合に断ることになってしまいます。逆に、予約が重なっても対応できる規模にすると、予約が入らないときは無駄になってしまいます。
②初期費用
葬儀場を設けるためには、土地・建物を取得する必要があり、初期費用がかかってしまいます。複数の葬儀場を設置しようとすると、物件規模が大きくなり費用が膨れてしまいます。葬儀場を設けず自宅で開業することもできますが、葬儀の予約が入るたびに葬儀場を探して確保する必要があります。また、自宅に祭壇の材料や備品類を保管するスペースが必要です。
葬儀場数と従業員数は、
- ・葬儀場を設置しない、または葬儀場を1つ設置=1つの葬儀を引き受けられる従業員数が必要
- ・葬儀場を複数設置=複数の葬儀を同時並行で引き受けられる従業員数が必要
という関係になります。
葬儀屋の規模をどうするかは、葬儀屋を始めようとする地域のニーズがどうかを見極めて決める必要があります。
フランチャイズ本部は、日頃から葬儀関連の需要動向を把握するための市場調査を行っており、そのデータも持っています。葬儀関連の市場調査では、その地域の人口や世帯数、年齢帯別の人口、平均年収、企業数、病院・介護施設数、競合する葬儀屋の状況などのほか、その地域の慣習や風習(自宅葬が多いか少ないかなど)を調べています。
加盟するフランチャイズを選定する際には、市場調査結果の資料をもらって検討することが重要です。フランチャイズ側も、加盟候補者に対しては協力的に資料を開示してくれるはずです。仮に、こちらが請求しても資料をくれないフランチャイズは、加盟を避けるのが賢明でしょう。そのような加盟候補者に非協力的なフランチャイズでは、加盟した後のサポートなどに大きな不安があるからです。
なお、安全策を提案するならば、初期費用や人件費が多くかかる「複数の葬儀を同時並行で引き受けられる体制」は保留にして、「1つの葬儀だけを引き受けられる体制」からスタートするのが安全でしょう。将来事業が軌道に乗り資金的にも余裕が生じた段階で、事業の拡大を検討すればよいのですから。
家族葬・自宅葬のニーズを取り込む
次のポイントは、家族葬や自宅葬のニーズを取り込むことです。すでに、一般葬が減少し、家族葬や自宅葬で行う人が増えつつあることをみてきました。その大きな原因はコロナ禍ですが、仮にコロナ騒ぎが収束したとしても、一般葬の減少傾向は続く可能性があります。世の中は、「儀礼的なことは最小限に」、「大袈裟なことは控える」、「経済性を考える」などの考え方をもつ人が増えています。
このため、豪華な祭壇を用意して大勢の参列者を招待する一般葬が減り、身内だけでコンパクトに行う家族葬や自宅葬が増える可能性があるのです。
このことから、将来的に葬儀業を軌道に乗せるには、家族葬や自宅葬のニーズに応えられるような体制を整えておくことが重要です。そのためには、日頃から家族葬や自宅葬、一日葬などに力を入れている旨のPRを継続して行うと効果的でしょう。
ただし、家族葬や自宅葬が増えるとはいっても、一般葬がなくなってしまうわけではありません。従来どおり一般葬を希望する遺族も相当数はいるはずなので、一般葬を基本に置きながら、その他のコンパクト葬儀も併せて対応していくという姿勢もよいでしょう。
花祭壇葬に対応できるようにする
花祭壇葬に対応できるようにしておくことも重要なポイントです。花祭壇は、生花を組み合わせて製作する祭壇です。従来の葬儀は、白木で組んだ白木祭壇を使う葬儀が主流でしたが、近年は四季折々の花や故人が好きだった花で飾る祭壇に人気が出ています。
白木祭壇は、葬儀屋が所有している祭壇をレンタルするのが通例ですが、花祭壇は1回ごとに生花を組み合わせて飾っていく必要があります。そのため、花祭壇を作ることができるスタッフを確保しなければなりません。
人材の確保は簡単にはいかない場合もありますが、花祭壇葬は今後もニーズが高まることも想定されることから、フランチャイズ本部の力を借りてでも技術スタッフを確保したいところです。
葬儀関連のニーズを取り込む
これからは、葬儀関連のニーズを取り込むことが重要なポイントになります。すでにみてきたように、葬儀の規模や参列者数が縮小傾向にあることから、一般葬のみに頼っていたのでは、葬儀業の収益は頭打ちになってしまう危険があります。
そのため、葬儀関連のニーズに対応していくことが収益を伸ばしていくポイントになります。葬儀関連といっても直接葬儀と関連があるわけではありませんが、以下のように、人生の終末期には必ず必要になる仕事です。
- 生前の遺品整理
- 死後の遺品整理
- 死後の各種手続
少子高齢化や核家族化の進展により、子供がいない高齢者や独居老人が増えています。このような人たちは、生前に自分の身の回りの物を整理する体力や気力が残っていない場合があります。また、老老介護で残された遺族も高齢だったり、仕事や家事で忙しく故人の遺品整理や死後の行政手続を行うことが難しい方もいます。
このように、人生の終末期にかかる仕事で困っている人や遺族をお手伝いする仕事の依頼は、今後一層増えることが想定されます。葬儀関連のニーズを取り込んで葬儀屋の業務の幅を広げていくことが、収益増加に向けた有効な方法です。
ただし、フランチャイズによっては、葬儀外の分野には手を出さない方針のところもあるかもしれないため、加入時に確認しておく必要があります。
お別れ会・偲ぶ会などに対応できるようにする
お別れ会や偲ぶ会などに対応することも重要なポイントです。お別れ会や偲ぶ会は、葬儀そのものではありませんが、参列者を招待して故人を思い返し見送るイベントです。一般の人でお別れ会や偲ぶ会を開いてもらうことは稀ですが、実業界や芸能界などで功績があった人の場合は、有志が集まり会を催すことがあります。
お別れ会や偲ぶ会では、生花などを使って装飾した壇上に故人の遺影を掲げ、司会役が会を進行させていきます。お別れ会や偲ぶ会は葬儀ではありませんが、その仕様は葬儀に類似しており、葬儀開催の技術やノウハウを持つ葬儀屋の得意とするものといえます。
これからの葬儀業は、減少傾向にある一般葬の代わりに、事業の幅を広げて収益拡大を目指すことが必要であることから、お別れ会・偲ぶ会に対応することは極めて重要です。
病院・介護施設に売り込む
葬儀屋を上手に経営する大きなポイントとして、病院・介護施設に売り込むことがあります。病院や介護施設は、葬儀屋の最大の得意先です。病院・介護施設は、入院患者や入所者が亡くなった際、遺族に葬儀屋を紹介してくれます。「不幸があったときは、葬儀をこの業者に頼もう」と故人の生前から依頼先を決めている人は稀で、身内が亡くなってどこに頼もうかと迷う人の方が多いのです。
このため、日頃から、病院や介護施設に売り込みを行っておくと、不幸があったとき遺族に紹介してくれる確率が高くなります。
しかし、病院や介護施設には、他の葬儀屋も売り込みをかけてすでに提携している業者もいるため、後から営業を行っても簡単には入り込めません。葬儀の内容や料金価格などで他の業者より売り込める点があれば、その点を中心にPRしていくと効果があるでしょう。
もう一つは、病院はそれ程数が増えませんが、老人ホームなどの介護施設は新しいものが次々にできる可能性があることです。新設の介護施設は、まだ他の葬儀業者が入っていないことから先んじて営業を行えば有利です。そのためには、広くアンテナを張って介護施設や福祉施設などの新設情報を収集することが大切です。
警察・宗教施設に売り込む
警察や宗教施設に売り込むことも重要なポイントです。人が亡くなった場合、病死など死因が明白で犯罪性がなければ警察が関与することはありません。しかし、死因に何らかの疑義がある場合などは、それを明らかにするために警察で検死を行います。通常、検死で問題がなければ遺体が遺族に返却され、遺族は葬儀の準備に入ることになります。
その場合、遺族に葬儀業者の心当たりがなければ、警察が業者を紹介してくれるケースがあります。警察に紹介された葬儀屋に連絡すれば、葬儀屋が遺体を警察から自宅や葬儀場まで搬送してくれます。
したがって、あらかじめ警察に売り込んでおけば、警察が自分の店を遺族に紹介してくれることになります。と言いたいところですが、商売はそのように簡単にはいきません。各警察署には、すでに古くからの葬儀屋が入っており、警察は毎回その業者を紹介する例が多くみられるからです。新参の葬儀屋が後から入り込むのは容易ではないのです。警察社会の体質からみて、新しく売り込んできた葬儀屋も加えて複数の業者を同等に扱うということは、あまり期待ができません。
しかし、ここに1つのチャンスがあります。警察に入り込んでいる業者は、一般の相場より葬儀費用を高めに引き受けている場合があるからです。このため、その業者より安い見積額を提示できれば、警察も紹介名簿に加えてくれる可能性があります。
しかし、多くの場合葬儀の細目費用はフランチャイズ本部で決められているため、加盟店が勝手に安売りをすることは困難です。したがって、警察に売り込んで見込みがあるのは、自分が加盟したフランチャイズの葬儀価格がリーズナブルであることが前提となります。
また、寺や神社などの宗教施設にPRしておくことも重要です。わが国では、多くの家庭が仏式の葬儀を取り入れています。しかし、菩提寺に墓を持っていても、いざ近親者が亡くなった場合にすぐに依頼できる葬儀屋を知らない人が多くいます。
一般的に、身内が亡くなった場合は、まず葬儀の予定を立てるために菩提寺に連絡を入れます。菩提寺の住職と葬儀の日程を調整し読経の依頼を行いますが、その場合に葬儀屋を紹介してもらうことが可能です。
紹介してくれる葬儀屋は、普段から寺や神社とつき合いがある業者になるため、あらかじめ宗教施設にPRしておくことが重要なのです。
従業員採用・教育に力を入れる
従業員採用・教育に力を入れることも重要なポイントです。すでに説明したように、①葬儀の司会進行、②葬儀費用の見積り、③喪主と打ち合せ・アドバイス、④葬儀の予約受付、⑤花祭壇作りなどの業務に携わる人材は、それなりの素質や適性、または経験を持っている人が望ましいといえます。
しかし、葬儀業の経験者で求職している人はそれ程多くいるわけではないため、素質や適性を有する未経験者を採用して、業務経験を重ねてもらいながら教育していくことも必要です。丁寧に製作された祭壇で、荘厳な雰囲気の下スムーズに進行した葬儀は、必ず遺族や参列者の心に残り、その評判は口コミで広がっていきます。そのような評判を作り上げるのが、スタッフなどの優秀な人材なのです。
制限の厳しいフランチャイズは避ける
制限の厳しいフランチャイズは避けることも肝心です。これまで、葬儀屋を上手に経営するポイントをみてきました。しかし、中にはポイントで記載した内容を実行することが許されないフランチャイズがあるかもしれません。フランチャイズなので、それは仕方がありませんが、「あれはダメ、これもダメ」と制限が厳し過ぎては上手に経営することが難しくなってしまいます。
また、ポイントに掲載した以外の事項でも、葬儀屋を上手に経営するアイデアは数多くあるはずです。しかし、せっかく良いアイデアを考えてもフランチャイズ本部が許してくれないと実行ができません。
加入するフランチャイズを選定する際は、あまりに制限が厳しい、または業務の幅が狭く設定されているフランチャイズは、避ける方が賢明です。
まとめ
葬儀屋のフランチャイズに加盟するメリットは、①葬儀のニーズはなくならない、②葬儀関連のニーズが増える、③特別な資格はいらない、④商標・商号を利用できる、⑤経営ノウハウを提供してもらえる、⑥本部のバックアップを受けることができる、⑦初心者でもできる、となります。
このうち、①~③は葬儀屋を始めるメリット、④~⑦はフランチャイズに加盟するメリットとなります。特に重要なメリットは、①葬儀のニーズはなくならない、②葬儀関連のニーズが増える、④商標・商号を利用できるなどでしょう。
一方、デメリットには、①一般葬が減る、②事業規模を決めるのが難しい、③初期費用がかかる、④取引先の新規開拓が簡単ではない、⑤人材の確保が難しい、⑥自由な経営が難しいなどが挙げられます。
①~⑤は葬儀屋を始めるデメリット、⑥はフランチャイズに加盟するデメリットです。特に重要なのは、①一般葬が減る、③初期費用がかかる、⑥自由な経営が難しいなどでしょう。
将来的に一般葬が減っていく中で、収益向上のためには事業範囲を拡大し、家族葬・自宅葬や葬儀関連のニーズに応えていくとともに、様々な知恵を絞って営業を行っていくことが重要なほか、その障壁となるような過度に制限の厳しいフランチャイズは避けることも念頭に置くことが大切です。