福祉施設のフランチャイズに加盟するメリット・デメリットや成功のポイントは?
少子高齢化の進展などにより、介護・福祉事業の必要性が高まっています。介護・福祉事業では、福祉施設におけるサービス提供が中核的な役割を担っていますが、その福祉施設の運営をフランチャイズに加盟して行うことができます。
そこで今回の記事では、福祉施設のフランチャイズに加盟するメリットやデメリット、福祉施設のフランチャイズで成功するポイントなどを解説しています。フランチャイズ事業に関心がある方は、ぜひ参考にしてみてください。
福祉施設とは
福祉施設(社会福祉施設)とは、老人、児童、心身障害者、生活困窮者など社会生活を送る上で様々なサービスを必要としている人を援護・育成し、または更生のための各種治療訓練などを行い、これら要援護者の福祉増進を図ることを目的とする施設をいいます。
福祉施設の主な種類は、老人福祉施設、障害者支援施設、保護施設、婦人保護施設、児童福祉施設、その他の施設に分けることができます。
①老人福祉施設
老人福祉施設には、特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホーム、介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、介護老人保健施設、サービス付き高齢者住宅、グループホームなどがあります。
特別養護老人ホーム(特養)は、65歳以上で要介護度3以上の介護が必要な高齢者を受け入れる施設で、入居費用が介護保険で賄える利点があります。
養護老人ホームは、65歳以上の家庭で日常生活を送ることが難しい高齢者を受け入れる施設ですが、特養と異なり介護を目的にはしていません。
軽費老人ホームは、高齢者の日常生活の援助を行う施設で、有料老人ホームより料金が安い利点があります。
介護付き有料老人ホームは、介護スタッフが常駐する施設で、介護のほかレクレーションサービスも充実しています。
住宅型有料老人ホームは、比較的自立度が高い高齢者を対象とする生活支援サービスの付いた施設です。
介護老人保健施設(老健)は、入院治療を終えた高齢者がリハビリを行い、家庭復帰を目指す施設です。
サービス付き高齢者住宅は、自立した高齢者に安否確認や生活相談などのサービスを提供する施設です。
グループホームは、認知症の高齢者が共同生活をする施設で、介護や機能訓練などのサービスがあります。
②障害者支援施設
障害者支援施設には、障害者更生施設、障害者授産施設、生活施設、地域利用施設などがあります。障害者更生施設は、障害者が社会生活に適応していけるようリハビリや機能訓練、治療などを行う施設です。
障害者授産施設は、施設内で仕事を行うことを通じて技術や労働意欲を身に付ける施設です。
生活施設は、24時間体制で介護が必要な障害者を受け入れる施設です。
地域利用施設は、デイケアやレクレーションなどの文化的なサービスを提供する施設となっています。
福祉施設のフランチャイズに加盟するメリット
それでは、福祉施設のフランチャイズに加盟するとどのようなメリットがあるかをみていきましょう。
社会的な需要が大きい
福祉施設のフランチャイズに加盟する最大のメリットは、何といっても社会的な需要が大きいことです。高齢者・障害者等に対する介護・福祉事業に対する社会的なニーズは非常に大きく、そのニーズに対する供給が追い付いていない面があります。近年の高齢化や核家族化の進展により、高齢者福祉の必要性は一層高まっています。
また、障害者の社会参加に向けた取組みも従来に増して強く求められています。介護・福祉事業といってもその内容の幅が広いため、供給がほぼ満たされた分野と不足している分野とがありますが、全体的にみると、まだ満足のいく水準には達していません。
社会的な需要があるということは、それだけ福祉施設を利用したい人や利用せざるを得ない人が多いということであり、事業として十分にやっていける背景や環境が整っているということです。
フランチャイズ事業で成功する秘訣は、何よりも社会的なニーズがある事業を行うことです。介護・福祉事業は、広い意味でその社会的なニーズにマッチした事業であることから、安定した収益を期待することができます。
将来的に成長が期待できる分野である
介護・福祉事業は、現在の社会的な需要が大きいばかりでなく、将来的にも大きく成長が期待できる分野です。今後、わが国は一層の少子高齢化が進展していく見通しであり、少数の若年世代が多数の高齢世代を支えていかなければならない社会になっていきます。社会が多数の高齢者を支えていくということは、年金などの経済面だけでなく、家庭で生活することが難しくなった高齢者や単身で日常の世話をしてくれる人がいないお年寄りなどに対し、その生活全般を支えていくことを意味します。
それが、日常生活における家事代行、通所デイサービス、在宅介護サービス、入居サービスのいずれであるにせよ、自分1人で生活することが難しい高齢者を支えていくことが社会全体で求められ、その必要性が一層高まっていくと想定されます。
フランチャイズ事業で成功するためには、将来的に成長が見込める事業を見極めることが重要です。この点で、介護・福祉事業は、将来的に大きな成長が期待できる分野です。
社会に貢献できる
介護・福祉事業は、高齢者や障害者の生活を支え、社会参加や社会復帰のお手伝いをする仕事です。このことから、社会で求められている仕事を行うという、いわゆる社会貢献ができる仕事です。
自分が携わっている事業が誰かの役に立っている、自分の仕事で喜んでもらえる人がいるということは、フランチャイズ事業を進める上で強い動機付けになることは間違いありません。
「事業を始めるなら、お金のためだけでなく社会に役立つ仕事がしたい」と考えている方に適した分野といえます。
補助金を活用できる
福祉施設は、その種類によって補助金を活用できるメリットがあります。福祉施設というと、事業者が運営する介護付き有料老人ホームを思い浮かべますが、老人ホームは開設にあたり補助金・助成金の対象になりません。国は、「施設から在宅へ」という基本的な方針により、要介護者が在宅で過ごせる方向で施策目標を立てています。老人ホームは分類が施設に該当するため、補助金・助成金の対象になりません。
開設する際に補助金・助成金の対象になるのは、分類が住宅に該当する「サービス付き高齢者住宅」です。サービス付き高齢者住宅を新築する場合は、1戸あたり135万円を上限として、工事費の1/10以内が助成されます。
また、サービス付き高齢者住宅は、固定資産税や不動産取得税などでも優遇措置を受けることができます。
介護保険に支えられた事業である
介護・福祉事業は、介護保険制度に支えられた事業であるため、長期に安定した収益が見込めます。
介護保険制度は、要介護認定を受けた被保険者が、かかる費用の1~3割を負担することで各種の介護サービスを利用できる制度です。かかる費用の残り7~9割は、公費・保険料で賄われます。つまり、介護サービスを提供する事業者は、かかる費用の1~3割を利用者に支払ってもらい、残りの費用である7~9割分は保険者である市区町村に請求します。
以上のように、地方自治体が介護保険の保険者となっているため、請求する費用が不払いや支払い遅延になるリスクがありません。事業で提供したサービスにかかる費用は、安定的に収益として事業者に入ってきます。
条件の悪い土地でも活用できる
福祉施設のフランチャイズに加盟すると、所有している土地を有効活用できるメリットがあります。通常、一定規模のまとまった面積がある所有地を有効に活用しようとする場合は、不動産賃貸を思い浮かべます。その土地にアパートを建て、貸し出して家賃収入を得る投資法です。
しかし、アパート経営で成功するには、その立地場所が、大都市圏などの人口集積地にあり鉄道駅や商業地に近いなど、優良な条件を備えていることが必要です。人口が少なく駅から遠いなど、人が集まらない不便な場所で不動産賃貸を始めても、成功することは極めて難しいでしょう。
一方、そのような人が集まらない不便な場所であっても、福祉施設であれば事業として十分にやっていける可能性があります。福祉施設の種類にもよりますが、老人ホームなどであれば、人口密集地よりも郊外の自然豊かな場所の方が環境面でマッチしているともいえます。高齢者やその家族が老人ホームを選ぶ基準は、入居金や毎月の負担額、介護サービスの内容、介護スタッフの面倒見の良さなどのウェイトが大きく、必ずしも賃貸アパートのように通勤や買物に便利な場所にあることが重要視されるわけではないからです。
ただし、「有料老人ホームの立地場所は、住宅地から遠く離れた不便な地域ではないこと」など一定の立地基準は定められており、その基準は守る必要があります。
以上のことから、土地を所有している人が、その土地を有効活用するために福祉施設のフランチャイズに加盟すれば、遊んでいる土地を有効に活用できる可能性があります。しかし、このようなケースでも、施設の建物は建設しなければならないため、まとまった資金は必要になります。
また、土地の有効活用や相続税対策のために老人ホームを建設する場合は、フランチャイズには加盟せず、その代わりに介護・福祉事業者に貸し出すという方法もあります。自分が土地・建物のオーナーになって事業者に貸し出せば、貸出料が収入となり、事業は専門家である介護・福祉事業者が行うので自分はタッチせずに済みます。この方法は本記事のテーマから外れてしまうため、これ以上は触れませんが選択肢の1つとなるでしょう。
相続税対策になる
福祉施設に投資すると、相続税対策になります。被相続人が死亡した場合、相続税の算定において、被相続人の現金は100%の評価額として評価されます。しかし、現金を不動産に変えておくと、相続税評価額を圧縮することができます。
例えば、被相続人が持っていた1億円の銀行預金は、そのままの金額に課税されてしまいます。しかし、生前にその1億円を不動産に変えておくと、建物は30~70%程度、土地は20~30%程度、評価額を減額することができます。
したがって、まとまった現金を持っている場合は、土地を購入して老人ホームを始めとする福祉施設を建設・運営すれば、相続税対策になります。
さらに、より相続税を減らしたい場合は、その福祉施設を賃貸不動産にする方法があります。すなわち、土地を購入してそこに福祉施設を建設し、それを介護・福祉事業者に1棟貸しします。その場合は、アパートやマンションと同じく賃貸用不動産ということで、より相続税評価額を圧縮することができます。
今回は、「福祉施設のフランチャイズに加盟するメリット」がメインテーマなので、フランチャイズに加盟して自分で福祉施設を経営する方法が軸になります。そのため、施設を介護・福祉事業者にストレートに貸してしまうと本題から外れてしまいますが、福祉施設を展開するフランチャイズに貸し出すというやり方も検討の余地はあるでしょう。
経営ノウハウを提供してもらえる
福祉施設のフランチャイズに加盟する大きなメリットは、経営ノウハウを提供してもらえることです。
介護・福祉事業未経験の初心者が、開業資金を貯めたからといって、福祉施設の運営を始めることは難しいといっても過言ではありません。福祉施設を運営していくためには、介護・福祉事業に対して何が求められているかの社会的ニーズの把握、介護・福祉業界の現状と直面している課題、医療保険や介護保険についての正しい情報など、様々な知識やノウハウを身に付けている必要があります。
しかし、フランチャイズに加盟すれば、開業前の研修や指導・助言などを通じて、本部が福祉施設の経営ノウハウを提供してくれます。フランチャイズ本部のバックアップを受けながら次第に事業経験を積んでいけば、1人前の介護・福祉事業者になるのも遠い話ではないでしょう。
有利に人材を確保することができる
フランチャイズに加盟すれば、有利に人材を確保することができるメリットがあります。福祉施設では、現場の人材をいかに確保するかが大きな課題となっています。現場の人材不足は、その勤務の内容や実態、給与・労働時間・休暇などの労働条件と密接に関係しており、1施設だけの努力で解消できるものではありません。
しかし、フランチャイズに加盟すれば、早急に人を手当しなければならない場合などに、フランチャイズ本部の伝手を頼りに人材を集めやすくなります。また、フランチャイズ本部は、人間関係などを理由に施設を退所するスタッフの情報を把握しているため、そのスタッフを他の施設に紹介してくれるケースもあります。
人材不足が大きな課題である介護・福祉業界において、フランチャイズ本部の組織力やネットワークは人材確保の面で強い味方になってくれます。
福祉施設のフランチャイズに加盟するデメリット
次に、福祉施設のフランチャイズに加盟するデメリットを見ていきましょう。
初期費用がかかる
介護・福祉事業の中で、施設が必要な分野は開業時の初期費用がかかるデメリットがあります。介護・福祉事業の中でも、例えば介護タクシー業を開業する場合は、自宅を事務所兼車庫として営業すればよいため、それ程初期費用はかかりません。しかし、福祉施設を使う事業の場合は、施設用の土地・建物の購入または賃借、そして建物の改造工事などが必要となります。
経済性を考えて土地は賃借するにしても、介護・福祉事業に使う建物は特有の構造や設備が要求される場合があります。例えば、介護付き有料老人ホームとして開業するためには、介護保険法に基づき、建物構造や設備などが一定の基準を満たす必要があるのです。具体的には、1人あたりの必要床面積を満たす入居者それぞれの居室、食堂・談話室、浴室・脱衣室、トイレ、洗濯室、洗面設備、汚物処理室、機能訓練室、医務室・健康管理室、看護・介護職員室、事務室などを設置する必要があります。
そのため、建物を賃借しても、介護・福祉事業用に改造する必要が生じますが、賃借物件で改造工事が許される範囲は貸主との契約内容で変わってきます。いずれにしても、大規模な改造工事は承諾されない可能性があることから、土地は賃借できても建物は自分で建てざるを得ないケースも出てきます。そうなると、土地と建物の所有者が異なり権利関係などが複雑になるため、いっそのこと、土地・建物まるごと自分名義で進める、すなわち土地を購入して建物を自分で建てるやり方に落ち着いてしまいます。そうなると、土地購入費と建物建築費の両方が必要となり、初期費用が高くかかってしまいます。
最も経済的な方法は、以前福祉施設で現在廃業している土地・建物をそのまま賃借するやり方ですが、そのような物件が都合良く身近にあるとは限りません。また、その福祉施設が廃業に至った経緯や原因も十分に調べないと、自分も同じ轍を踏むことにもなりかねません。
福祉施設は、このように建物構造の特殊性から、一般の賃借契約に馴染み難い面があり、そのため、土地・建物の取得費に資金がかかるデメリットがあります。
他の事業への転用が難しい
福祉施設は、総じて他の事業への転用が難しいデメリットがあります。福祉施設は、その事業の種類にもよりますが、特有の建物構造や設備などを有していることから、他の事業に転用することが簡単ではありません。例えば、介護付き有料老人ホームを廃業して、その建物をアパートとして一般に貸し出そうとすると、大規模な改造工事が必要になります。老人ホームには各居室が配置されていますが、アパートやマンションのように明確に独立した部屋の機能は持っていません。
つまり、各部屋には寝る場所や洗面設備はあっても、風呂やキッチンなどがないため、そのままではアパートとして使うことができません。また、食堂や看護室、事務室など、アパートとして不要な部屋が多く残っています。これをアパートとして改造しようとしたら、まとまった費用が必要になります。
また、事務所や店舗として貸し出すことも、建物構造の点から困難です。ただし、病院や同じ福祉施設であれば、賃貸することは可能でしょう。
以上のように、福祉施設は、廃業して建物を他の事業に転用するのが難しいデメリットがあります。
競争が激しい
介護・福祉事業の競争は激しい点もデメリットになります。介護・福祉事業は、社会的な需要が非常に大きいことから参入者が多く、それだけ競争も激しくなっています。少子高齢化や核家族化、未婚化の進展により、今後、介護・福祉分野の社会的なニーズが一層高まっていくことは、誰もが予想しています。
介護・福祉事業は、始めようとすると、施設的にも人員的にも様々な基準をクリアする必要がありますが、事業が軌道に乗れば、旺盛な需要に支えられて安定した事業収益を得ることができると考えている人が多いのも事実です。このことから、新たに介護・福祉分野に参入する事業者が多く、競争が激しさを増しているのです。
介護・福祉分野に対する社会的なニーズは確かに大きいといえますが、そうだからといって、介護・福祉事業が必ず成功するとは限りません。介護・福祉事業は、事業を進める上で法規的な制約はありますが、事業が軌道に乗るかどうかは、そのサービスや看護・介護スタッフの質に負うところが大きいのです。
福祉施設の利用者層の中心は高齢者者であり、利用者間の情報交換が盛んです。「どこの施設のトイレはあまり綺麗でない」「あの施設のスタッフは親切でよく教育が行き届いている」などの噂話により、様々な施設の情報が多数の人々に伝わります。その影響は、施設の利用状況の差となり、ゆくゆくは人気があって人が集まる施設と人気がなく利用者が少ない施設とに分かれていく可能性があります。
福祉施設で提供するサービスのメニューは他の施設と同じでも、利用者個々の条件や性格に応じてきめ細かいサービスが提供されているかどうか、また、それを担当する看護・介護スタッフが利用者の身体的・精神的な特徴や性格、家庭環境などに配慮して質の高い応対ができているか、などが非常に重要なポイントになるのです。
人材の確保が難しい
介護・福祉事業は、人材の確保が難しいデメリットがあります。ここでいう人材は、事務職や用務員などではなく、看護師と介護士のことです。看護師と介護士は、医療・福祉を担う中心的な人材ですが、新規に人材を確保するのは簡単ではありません。その理由は、看護師・介護士ともに、需要に対する絶対数が不足していることです。今後も看護・介護の需要は増え続けていくにもかかわらず、看護師・介護士の供給数が伸びず、人手不足は一層強まっていくとの予測もされています。
看護師や介護士は、勤務内容の大変さに対して賃金がそれに見合う水準になっていない、勤務時間や休暇などにゆとりがないなどで、看護師や介護士を目指す若者が増えないことも人手不足の大きな要因になっています。
また、人材の確保が難しいということは、新規に確保する場合だけではありません。施設で働いている、看護・介護スタッフが辞めることをいかに防ぐかという話でもあるのです。
言うまでもなく、看護・介護スタッフの仕事は、人命にかかわるミスが許されない仕事です。このため時として、施設のオーナーや施設長がスタッフに対して厳しく注意・指導せざるを得ない場合があります。
しかし、日頃からきつい仕事や当直が続いて疲れているときに厳しく叱責されると、不満が高じて辞めてしまうスタッフが出てきます。看護・介護職が不足している病院や施設は多くあるため、職探しで困ることはありません。「それ程うるさく言われるなら他に行こう」ということになるわけです。
また、労働条件が良くないこの業界に見切りをつけて、より高い収入や多くの休暇が見込める営業や事務など他の業種に転職してしまう例も多くあります。
看護・介護スタッフの人材を安定的に確保することは、福祉施設を円滑に運営していく重要なポイントの1つです。
人材を育成する必要がある
福祉施設では、常に人材を育成する必要があります。福祉施設での仕事の中核をなすのは、看護師や介護士であることを説明してきました。もちろん、事務職をはじめとするその他の職種も重要ですが、看護師や介護士が不足してしまうと、介護・福祉事業そのものが成り立たなくなってしまいます。このため、福祉施設では、看護師や介護士が充足された状況にしておく必要があります。
しかし、福祉施設では、看護・介護スタッフが様々な事情で辞めてしまうことがあります。結婚や出産、家族介護のためにやむなく職を離れなければならないスタッフは多くいます。また、職場の労働条件に不満がある、人間関係がうまくいかないなどの理由で辞める人もいます。
問題は、勤務経験が長いベテラン職員やリーダー的な立場にあるスタッフが辞めてしまった場合に、迅速な穴埋めが難しいことです。看護・介護職は、業務にかかる知識を学びながら、同時に実践的な技術を習得しつつ職場でのスキルを向上させています。その長年培われた知識・技術を持つ人材がいなくなった場合に、それに代わる人材を充当することは非常に困難を伴います。
唯一の対策は、職場が、日頃からスタッフの知識・技術の習得・向上を支援することです。勤務と並行して研修を受講してもらう、他の福祉施設に視察に行ってもらうなどの職場外研修に加えて、職場内でも未経験の仕事や経験未熟の業務を体験してもらうなど職場内研修を行うことで、ベテランやリーダー的なスタッフが欠けてもその代わりを務められるようになります。
さらに、医療や福祉の分野は、日進月歩で技術が進んでいます。それは、医療や福祉機械の技術だけでなく、看護や介護の技術も同様です。看護・介護の方法そのものが時代とともに進歩しているのです。その新しい看護・介護技術をスタッフに習得してもらうことは、福祉施設を安全に運用していく上で必須のことです。
このように、福祉施設では、日頃から人材育成に努めなければならない苦労があります。
介護報酬だけで運営するのが難しい
福祉施設では、介護報酬で人件費を賄うことが難しい実情があります。介護・福祉業界では、慢性的な介護スタッフの不足により、賃金を上げなければ人材の確保が難しくなっています。そのため、介護報酬では人件費を賄うことが難しく、賃金の上昇分が施設経営を圧迫する要因にもなっています。
介護報酬は、国の方針によって増減するため、施設側の努力だけではどうしようもない面があります。
人の命にかかわる仕事である
介護・福祉の事業は、人の命にかかわる仕事であるというリスクがあります。福祉施設は、高齢者や障害者など介護や日常生活の支援が必要な人たちが利用の対象です。高齢者や障害者は、施設の利用中に体の具合が悪くなる場合があり、配置されているスタッフがすべてのケースで間違いのない対応をとれるという保証はありません。人の命にかかわる仕事である以上間違いは許されないとの理屈はありますが、現実に対処しているのはロボットでもコンピューターでもない人間です。人間が対処しているからには、すべての点で間違いやミスがないとは言い切れません。
例えば、老人ホームで寝ている入所者が起きてこない場合に、様子を見に行ったスタッフが異変に気づき、急遽提携先の医療機関に搬送したが手遅れになってしまったというケースがあったとしましょう。施設はスタッフが確認して適格に対応したと考えていましたが、遺族側が、もう少し早く異変に気がついてくれれば間に合ったのではないか、と問題にする可能性があります。
また、施設でトイレ介助をしていた最中に利用者が転倒して骨折してしまい、利用者の家族が介助ミスではないかと非難してくることもあります。介助でミスがなくても、不可抗力で利用者が転倒することはあり得ることですが、このようなトラブルも想定されるわけです。
このように、介護・福祉の事業は、人の命にかかわる仕事であることから、1つ間違えば大きなトラブルに発展するリスクがあります。
福祉施設のフランチャイズを成功させるポイント
それでは、福祉施設のフランチャイズを成功させるためには、どのような点がポイントになるかを見ていきましょう。
社会的なニーズを把握して事業分野を選ぶ
福祉施設のフランチャイズを成功させるための最大のポイントは、社会的なニーズを把握して事業分野を選ぶことです。
福祉施設の種類は、高齢者福祉施設、障害者福祉施設、児童福祉施設、保護施設など多肢にわたっています。その中で、少子高齢化を背景に今後一層のニーズが高まることが想定されるのが、高齢者福祉施設です。しかし、一口に高齢者福祉施設といっても、その事業内容は様々に異なっています。入所型の介護施設もあれば、通所型のデイサービス施設もあります。入所型施設は、要介護度の重い高齢者を受け入れている施設から程度の軽い人を対象にする施設まで幅広く、また、入所も通所も受け入れない訪問介護支援施設もあります。
どのような施設が社会全体から求められているか、将来的に不足するのはどのタイプの施設かなどについて、十分に調査・研究を行ってから事業分野を選ぶことが重要です。
調査・研究は、各フランチャイズで実施している市場調査などの資料を請求して行えば、効率的に進めることができます。
軽度の利用者を対象とする事業分野を選ぶ
軽度の利用者を対象とする事業分野を選ぶことも重要なポイントです。介護・福祉事業の利用者は、高齢や障害により1人で生活していくことが難しくなった人や不安がある人です。1人で生活していくことが難しい、不安があるといっても、そこには程度の違いがあります。高齢のため介助なしでは移動できない、認知症が進んで日常の判断ができない、障害の程度が重いなど、症状や程度の重い人たちがいる一方、要介護度が軽く1人で日常生活に困らない人たちもいます。
新たに介護・福祉事業を始めるなら、このように様々な症状や程度の利用者のうち、比較的症状が軽度の利用者を対象とする事業分野を選ぶことがポイントです。例えば、通所デイサービス事業を始めるなら、1人で日常生活を送ることができるような要介護度が軽い人たちを対象にするのです。
その理由は、要介護度が重い人たちを対象にすると、様々な事故(転倒、誤嚥、心筋梗塞や脳卒中などの急な病状悪化など)が起きやすく、スタッフの負担も重くなるからです。施設に受け入れている最中に事故が発生すると大変な事態となってしまいます。このため、比較的事故が起き難い利用者層を対象とするフランチャイズを選ぶのが安全な方法です。
実績が豊富でサービス内容の充実したフランチャイズを選ぶ
次のポイントは、実績が豊富でサービス内容の充実したフランチャイズを選ぶことです。
福祉施設を円滑に運営していくには、法律や制度の改正に合わせて可能な限り有利な形態で事業を展開していくことが求められます。そのためには、介護・福祉分野の法律・制度の研究やその時代のニーズに応じた事業戦略を立案していくことが重要になります。このような体制を整えているフランチャイズであれば、これまでに多くの実績を残すことができ、今後も一層の発展を期待することができます。
また、福祉施設に求められるのは、利用者が求めるサービスを提供できる能力であり体制です。福祉施設は、利用者のために存在し、利用者が求めるサービスを提供する施設です。施設の利用者が満足できるサービスを提供できることが、福祉施設の存在意義といっても過言ではありません。
このことからも、福祉施設のフランチャイズを選定するにあたっては、実績が豊富でサービス内容の充実したフランチャイズを選ぶことが肝心です。
入所者の変化に迅速に対応する
入所型の施設では、入所者の変化に迅速に対応することがポイントになります。施設入所者の心身は、常に同じ状況ではありません。特に、長期入所施設の場合、入所時期から期間が経過すると、様々な肉体的、精神的な変化が生じるケースがあります。例えば、歩行が困難で肉体的な介護が必要な高齢者が入所し、その後入所中に認知症などを発症してしまう場合があります。
施設スタッフは、常に入所者の体調変化に気を配り、異変が生じた場合は医療機関と連携して迅速に対応を図ることが重要です。
介護・福祉事業は、人の命にかかわる仕事です。対応の遅れが大きな問題を引き起こす可能性もあります。福祉施設を円滑に運営していくためには、入所者の変化に迅速に対応することが肝心です。
人材の確保に力を入れる
人材の確保に力を入れることは、重要なポイントです。福祉施設は、大きな箱ものです。老人ホームや老健は、入所者の居室、食堂・談話室、浴室、厨房、リハビリ室などを備え、多くの診察・健康器具、リハビリ用具が配置されています。最近の福祉施設は、どこも立派な外観を持ち、衛生的で綺麗に清掃されています。思わず、ここに入所したら快適だろうなと思いたくなるような建物・設備に出来上がっています。
しかし、どのように立派で綺麗な建物や設備が備えてあっても、その施設を運営し、そこで利用者にサービスを提供するのは人です。建物や設備は、人が施設を運営しサービスを提供するための道具でしかありません。そこを動かす人こそが、利用者に満足のいくサービスを提供することができるのです。
そのことからも、施設にとって、人材の確保は非常に重要です。人手不足の時代ではありますが、介護・福祉事業に携わることに適した優秀な人材を確保できるよう力を注ぐことが重要です。
看護・介護スタッフや事務職、調理員、用務員みんなが生きがいを持ちながら快適に働くことができるよう、労働条件を改善し福利厚生を充実させる、風通しの良い職場風土を作ることが非常に大切です。
スタッフの負担を軽減する
施設スタッフの負担を軽減することも重要なポイントです。介護・福祉事業で、施設スタッフの負担が過重になってしまうと、それが原因で辞めてしまう場合があります。また、仕事が忙しく負担が大きいと、ミスや事故を誘発する要因ともなります。このため、余裕が持てるようスタッフのシフトを組み、円滑に回していく必要があります。
また、通所型デイサービスを提供する施設では、できるだけスタッフに負担がかからないような体制を構築しておくことも重要です。スタッフに大きな負担がかかるのは、入浴やトイレ介助、食事提供などです。入浴サービスや食事を提供するフランチャイズに加盟する場合は、スタッフの負担を軽減するためのシフトや配置を工夫する必要があります。
地域に愛される施設を目指す
地域に愛される施設を目指すことは、非常に重要なポイントです。介護・福祉事業は、社会的なニーズが高い分野ですが、それでも利用者が集まる施設と集まらない施設とに分かれてしまいます。なぜそうなるかは、一言で表すと「評判」です。福祉施設は、介護や生活援助など本当に人の助けを必要としている人たちが利用します。遊びや冷やかしで福祉施設を利用しようとする人はいません。
そのように、必要性に駆られて利用するため、利用者が満足できるサービスを受けることができるかどうかが施設の評判に直結します。身を持って体験したサービスの評価は、利用者の口コミで広く伝わっていくのです。「あの施設は、雰囲気も面倒見も良い」という評判が地域に広まれば、利用者が増えていきます。
地域に愛される施設であれば、各種のイベント、例えば夏祭りや花見などに家族を含めて大勢の人が集まり、ボランティアも参加してくれます。
福祉・介護分野の知識を身に付ける
介護・福祉事業を始めるなら、福祉・介護分野の知識を身に付けることが重要です。福祉施設のフランチャイズに加盟して事業を始める場合は、業界に関する知識や事業を進めるためのノウハウは、研修などを通じてフランチャイズ本部から教えてもらうことになります。しかし、いくら知識やノウハウを教えてもらっても、最終的には自分の采配で施設を運営していかなければなりません。
これが、自分が設置した福祉施設の運営を介護・福祉の専門業者に委託して運営一式をすべて任せれば、自分は経営にタッチする必要がなく、その分野の勉強もあまり必要がありません。しかし、フランチャイズに加盟して自分で運営するとなると、その分野について学習し、知識や技術を身に付ける必要があります。
フランチャイズにおける福祉施設のオーナーは、その事業へのかかわり方が様々です。例えば、あるオーナーは、日々の業務はすべて現場の専門スタッフに任せ、自分は収支計算などの財務管理だけを行っています。施設の改修や新しい設備の導入などまとまった費用がかかる案件は、周りの意見を聞いて最終判断を下します。
一方で、日々の介護・福祉業務に積極的にかかわるオーナーもいます。このオーナーは、専門の資格は持っていませんが、業務全般について雑用や介護の手伝いなどを積極的に行っています。
いずれのかかわり方でも、オーナーとしての役割を果たしているので問題はありませんが、共通して言えることは、両方のタイプのオーナーともに、常に介護・福祉分野の情報収集や学習を行っていることです。
介護・福祉の世界では、しばしば法律や制度改正により国の政策が変更になります。制度改正に適確に対応するためには、常に新しい情報を仕入れておく必要があります。また、利用者に訓練・リハビリを行う機械器具なども新しい製品が誕生します。訓練・リハビリ自体は、専門の療法士や介護士に任せておくしかないですが、新しい機械器具の導入は費用を伴うことから、その価格や性能について情報を収集する必要があります。
このように、介護・福祉事業を円滑に進め地域福祉に貢献するためには、その分野についての知識を身に付けることが非常に重要です。
まとめ
福祉施設のフランチャイズに加盟するメリットは、①社会的な需要が大きい、②将来的に成長が期待できる分野である、③社会に貢献できる、④補助金を活用できる、⑤介護保険に支えられた事業である、⑥条件の悪い土地でも活用できる、⑦相続税対策になる、⑧経営ノウハウを提供してもらえる、⑨有利に人材を確保することができる、をあげることができますが、その中で特に大きなメリットは、①~③の社会的な需要があり将来的にも成長が見込め、同時に社会貢献ができる仕事であることです。
一方、デメリットは、①初期費用がかかる、②他の事業への転用が難しい、③競争が激しい、④人材の確保が難しい、⑤人材を育成する必要がある、⑥介護報酬だけで運営するのが難しい、⑦人の命にかかわる仕事であるとなりますが、この中で大きいのは、①の初期費用と②の転用が難しい点です。また、⑦の仕事の性格も大きな特徴になります。
福祉施設の運営は、需要があって将来性もあり、社会貢献できるやりがいのある仕事であるが、人の命にかかわる重い仕事で、初期費用がかかり失敗したときの転用が難しいということです。すなわち、福祉施設の運営を始めるなら、それなりの覚悟を持ってスタートする必要があることを教えてくれています。
福祉施設のフランチャイズを成功させるためには、地域のニーズに合わせたサービスの提供や、優れたトレーニングとサポート、ブランド価値の向上、経営者の意欲と情熱、効果的なマーケティング戦略、継続的な改善とフィードバックが大切になるので、ぜひ検討してみてください。