フランチャイズは事業譲渡可能?定義、方法、ポイントを解説
近年は、フランチャイズに加盟して種々の事業を行っている事業者の方が増えていますが、様々な事情から、フランチャイズ事業を第三者に譲渡せざるを得ない場合があります。通常、フランチャイズ契約では、加盟店の事業譲渡について禁止または一定の制限がかけられています。しかし、禁止または一定の制限がかけられていても、フランチャイズ本部との交渉により事業譲渡を認めてもらうことができます。
そこでこの記事では、フランチャイズで事業譲渡を行う方法や事業譲渡を円滑に進めるポイント、注意点を解説しています。フランチャイズで事業に携わっている方は、参考にしてください。
フランチャイズの事業譲渡とは
はじめに、フランチャイズの事業譲渡の基本について整理してみましょう。
フランチャイズとは
フランチャイズは、個人や法人の事業者が、フランチャイズ本部から商標・ブランドの利用権や店舗の経営ノウハウなどの提供を受け、その対価をフランチャイズ本部に支払う事業形態です。
すなわち、事業者は、フランチャイズと契約して加盟することで、フランチャイズの商標やブランドを使った事業を行うことやフランチャイズ本部から様々な経営上の支援を受けることができます。加盟店が負う対価は、主にフランチャイズ加盟時に支払う加盟金、および契約期間中に毎月かかるロイヤリティなどになります。
フランチャイズ事業は、本部から経営ノウハウの提供をはじめとする様々なバックアップを受けることができるため、事業経験が浅い初心者でも創業しやすい事業形態です。
事業譲渡とは
事業譲渡は、事業者が行っている事業を他者に譲渡する行為です。譲渡する事業の範囲は、事業の一部だけの場合と事業の全ての場合があります。
例えば、食料・酒類の輸入・卸売りを行っている事業者が、その事業のうち酒部門だけを切り離して他の事業者に譲渡すること(一部譲渡)もあれば、全ての事業を譲渡すること(全部譲渡)もあります。譲渡する事業の範囲は、譲渡元と譲渡先との契約で決められます。
譲渡対象となる事業には、事業経営のための有形資産、無形資産、ブランド、人材、各種ノウハウなどの財産が含まれます。
フランチャイズの事業譲渡
フランチャイズの事業譲渡は、フランチャイズ本部またはフランチャイズ加盟店がその事業を他者に譲渡することです。
多くのフランチャイズでみられる事業譲渡にかかる取扱いは、①フランチャイズ本部は、事前に加盟店に通知した上で、その事業を第三者に譲渡することができる、②フランチャイズ加盟店は、事前に本部の承諾を得なければ、その事業を第三者に譲渡することができない、となっていますがフランチャイズにより取扱いは異なります。
フランチャイズ本部は、事前に加盟店に通知さえすれば自由に事業譲渡を行うことができるのに対し、加盟店は、事前に本部の承諾を得なければ事業譲渡することができないとされている場合が多くなります。
このルールは、通常フランチャイズ契約書に定められますが、このようにフランチャイズ本部に有利な内容になっています。
上記ルールは、多くのフランチャイズでみられる例で、全てのフランチャイズが同じ定めをしているわけではありません。しかし、加盟店の事業譲渡は、多かれ少なかれ一定の制限または禁止がかけられているとみてよいでしょう。
しかし、事業譲渡に一定の制限または禁止がかけられているとしても、フランチャイズ本部との交渉次第で認められる場合も少なくありません。
それでは、加盟店の事業譲渡に一定の制限または禁止がかけられているのにかかわらず、どうして交渉によって認められるケースが少なくないのでしょうか。それは、フランチャイズ本部側に、加盟店の数を減らしたくないという事情があるからです。
加盟店が他者に事業譲渡したいと希望しているのに、どうしても本部が承諾しない場合は、加盟店が事業を止めて脱退してしまう危険があります。その場合は、フランチャイズ契約の中途解約となり違約金の問題も生じてきますが、本部が頑なな姿勢を崩さなければ結果的に加盟店が1つ減ることになり、本部の事業戦略にとって損失となります。
そうは言っても、本部としては、経営能力がなさそうな得体の知れない第三者に事業譲渡されたのでは、安全な事業運営が困難になってしまいます。そのため、経営経験がある同じグループ内の加盟店に事業譲渡するのであれば反対しない、などと一定の条件を付けた上で承諾するケースが多くなります。
フランチャイズで事業譲渡するメリット
次に、フランチャイズで事業譲渡すると、どのようなメリットがあるかをみていきましょう。
譲渡益収入が見込める
事業譲渡すると、譲渡益収入が期待できます。人生は、いつ何時まとまった資金が必要になるかわかりません。病気や事故などお金が必要になる理由は様々ですが、あまり時間の猶予がない、すぐにでもお金が必要という事態も起こり得ます。そのような場合に、フランチャイズ事業を行っていると、その事業を譲渡することでまとまった資金を手にすることが可能になります。
実際の事業譲渡の対価は、事業の譲渡先との交渉になりますが、この場合にできるだけ高く売るには、店舗をそのままの状態で譲渡する方法が効果的です。店舗をそのままの状態で譲渡することができれば、こちら側の撤去・原状回復・後片付けの労力や費用を節約することができ、また、譲渡先も開業するための準備費用を大幅に圧縮することができます。
同じ業種・業態で事業を引き継ぐのであれば、店舗や内装に手を加えない譲渡の方が、譲渡益も高くなります。
後継者問題が解決できる
第2のメリットは、後継者問題が解決できることです。事業を行っている場合は、経営者が高齢になってくると後継者問題が浮上してきます。従業員をある程度抱えている法人の場合は、社長が引退しても、その他の役員が代表者になることで法人の活動は維持されます。しかし、個人事業の場合は、後を継いでくれる後継者がいなければ、ゆくゆくは廃業せざるを得ません。
フランチャイズの加盟店でも個人がオーナーである場合は、後継者がいなければ事業を続けていくことが困難になります。
フランチャイズの事業譲渡は、加盟店オーナーが自分の年齢や体力、そして事業の状況を総合的に勘案し、事業を止めようと決心した場合に有力な選択肢となります。事業譲渡することにより一定の譲渡益収入を得ることができ、後継者問題に頭を悩ませる必要もなくなります。
従業員の失業を防ぐことができる
事業譲渡には、従業員の失業を防ぐことができるメリットもあります。様々な事情から、フランチャイズ事業を止めざるを得ない場合があります。その場合に、単純にフランチャイズ契約を解消して廃業するとしたら、店舗の従業員は仕事を失い無職となってしまいます。
しかし、単純な廃業ではなく、フランチャイズ事業を第三者に事業譲渡すれば、店舗は従業員を抱えたまま譲渡先の事業者に移ることができます。フランチャイズ事業を譲渡する場合は、従前の業種・業態がそのまま新しいオーナーの下に引き継がれるため、従業員を解雇・入替えする必要がありません。むしろ、仕事に慣れた従前からの従業員がいてくれる方が、営業的にも安全で効率的です。
この場合は、従業員も安心して慣れ親しんだ仕事を続けることができるのです。
倒産のリスクを回避できる
事業譲渡すると、倒産のリスクを回避できるメリットもあります。この場合、「経営不振で倒産しそうだから、自分で事業をするのはやめて他人に譲渡しよう」ということではありません。この世の中、事業譲渡しようとしても、経営不振で倒産しそうな事業を譲り受けたいという人はいません。また、フランチャイズ本部も、経営不振で倒産しそうな状態になるまで、加盟店を放っておくことはありません。
それでは、倒産のリスクを回避できるとは、どのような意味なのでしょうか。それは、現在はフランチャイズ事業が比較的順調で利益も程々に上がっているが、将来的に何が起きるか分からないため、事業が比較的順調なうちに事業譲渡することで将来のリスクを回避できるということです。
現在は社会経済状況が安定していても、将来的にリーマンショックやコロナ禍のような状況変化で不況の波が押し寄せ、事業が倒産しないという保証はありません。このことから、そのような事態が生じる前に事業譲渡することで、将来的な倒産リスクが回避できるのです。
もっとも、「将来的な倒産リスクを回避したい」と事業譲渡の理由を説明しても、そのような緊急ではない漠然とした目的では、フランチャイズ本部は納得してくれないでしょう。したがって、倒産のリスクを回避できるというのは、事業譲渡から派生するメリットというだけで、事業を譲渡する目的や理由にはならないことに注意しましょう。
フランチャイズの事業譲渡方法
それでは、どのようにしてフランチャイズの事業譲渡を行うかをみていきましょう。
フランチャイズ本部との交渉
まず、フランチャイズ本部に対してフランチャイズ事業を誰かに譲渡したい旨を伝え、どのような問題点があるかを探ります。当然、事業譲渡せざるを得ない理由も説明し、本部に理解・納得してもらうよう努めます。
加盟店オーナーが事業譲渡すると、以下の点が問題点として考えられます。
- 加盟店が1つ減ってしまうと、本部の事業計画に支障が生じる
- 事業譲渡先が外部の人の場合は、フランチャイズの事業運営上の機密事項や経営ノウハウが漏えいしてしまう危険がある
- 事業譲渡先が経営能力や事業適性を持っていなければ、将来的に業績不振に陥る危険がある
このため、これらの問題点が生じないよう、また生じても解決できるよう本部と相談しながら進めることになります。
仲介会社への相談
次に、加盟店オーナー1人では、事業譲渡に関する知識やノウハウが不足するため、加盟店と本部の間で事業譲渡を仲介してくれる専門会社を探し相談します。専門会社の候補としては、企業買収や合併を仲介するM&A仲介会社があります。M&A仲介会社であれば、事業譲渡全般についての指導・助言を受けることができます。
事業譲渡先の選定
フランチャイズ本部と仲介会社に相談した後、事業譲渡先の選定に入ります。上記の通り、加盟店オーナーの事業譲渡により生じる問題が生じないような事業譲渡先としては、事業を譲り受けた後も同じグループ内で営業ができ、営業機密を漏えいさせる虞がなく経営能力や事業適性を持つ事業者ということになり、自ずと対象が絞られてきます。
基本的合意事項の確認
事業譲渡先の選定により候補対象が決まり、譲渡元、譲渡先候補、フランチャイズ本部の3者で条件面など基本的な事項を合意します。この段階では基本的な合意であるため、譲渡金額や譲渡スケジュールなど基本的な事項を決定して合意書を作成します。
譲渡先による調査
事業譲渡について基本的な合意ができたら、譲渡先による調査が行われます。この調査は、譲り受ける事業の安定性や将来性、問題点や課題などについて、業績、財務、労務など複数の視点から調べるものです。この調査に対しては、譲渡する側は、譲渡先の希望する資料やデータなどの情報を可能な限り提供しなければなりません。
譲渡契約の締結
譲渡先の調査により、譲渡対象の事業に問題やリスクがないとされれば、譲渡元と譲渡先との間で最終的な合意を交わし、譲渡契約を締結します。譲渡契約書には、譲渡年月日、譲渡対象事業の範囲、譲渡対象事業の内容、譲渡金額、契約違反の場合の損害賠償などについて定めておきます。
事業譲渡を円滑に進めるポイント
それでは、フランチャイズで事業譲渡を円滑に進めるには、どのような点がポイントになるかをみていきましょう。
フランチャイズ契約の内容を確認する
まず、ポイントの1つ目は、フランチャイズ契約の内容を確認することです。フランチャイズ契約は、加盟店オーナーとフランチャイズ本部との間でフランチャイズ事業にかかる権利義務関係を規定したものです。この契約に定めた事項は契約当事者双方が遵守しなければならず、それに違反した場合は、契約を解除される、または違約金を課されるなどのペナルティがあります。
したがって、フランチャイズの事業譲渡においても、フランチャイズ契約の内容に違反しないよう手続きを進めていく必要があります。
通常、フランチャイズ契約書には、加盟店の事業譲渡に対して制限、または禁止する条項が定められます。
〇条文例:権利義務の譲渡にかかる制限
フランチャイジーは、事前に書面による承諾を得なければ、本契約に定める自己の権利または義務を第三者に譲渡し、または担保に供することはできないものとする。
(注)フランチャイジーとは、フランチャイズシステムを利用して事業を行う個人または法人をいいます。
上は、事前に書面による承諾を得れば事業譲渡が可能な例ですが、その他、異なる形で制限をかける、禁止するなどの場合もあります。中には、事業譲渡について何も定めていないフランチャイズ契約書もあります。
このことから、①自分が締結しているフランチャイズ契約に事業譲渡にかかる定めがあるかないか、②事業譲渡の定めがある場合、どのような制限を設けているか、禁止しているかについて確認することが先決です。確認ができたら、契約の定めに違反しない形で、事業譲渡の手続きを進めていきます。
事業譲渡の目的・理由を明確にする
フランチャイズ事業の譲渡では、事業譲渡の目的や理由が重要なポイントになります。どのような理由でフランチャイズ事業を他人に譲渡しなければならなくなったのか、が問われるということです。
考えられる事業譲渡の目的や理由は、①加盟店オーナーが病気・怪我となった、②加盟店オーナーが家族介護をしなければならなくなった、③加盟店オーナーが高齢で後継者がいない、④事業の譲渡益収入が必要になった(急にまとまった資金が必要になった)など様々です。
一方、以下のように、フランチャイズ本部に理解してもらうことが難しい理由もあります。
- 加盟店オーナーの事業継続意欲がなくなった
- 事業に飽きてきたので、別の事業を始めたいと考えている
- 経営不振で倒産しそうなので、倒産前に事業を譲渡したい
どのような事業でも一旦始めたら最後まで頑張り抜く、という気持ちを持つことが事業者としての基本です。フランチャイズ本部としては、契約期間の途中で加盟店が減ってしまうと経営戦略上の支障になりかねないため、最終的には、譲渡先次第では事業譲渡を承諾する可能性がありますが、このような展開では円滑な交渉はあまり期待できないでしょう。
事業譲渡は、フランチャイズ契約の途中で事業を他人に譲渡するものです。フランチャイズ本部との交渉を円滑に進めるためにも、真にやむを得ない目的や理由があって初めて事業譲渡が可能になるという認識を持ちつつ、事業譲渡の目的・理由を明確にしておくことが大切です。
事業譲渡の目的や譲渡先をフランチャイズ本部に理解してもらう
事業譲渡の手続きで最も重要なことは、事業譲渡の目的や譲渡先をフランチャイズ本部に理解してもらうことです。フランチャイズ本部に理解・承諾してもらえないと事業譲渡は不可能となり、後は、フランチャイズ契約の中途解約しか方法がなくなります。
事業譲渡は、フランチャイズ契約期間の途中で、加盟店がフランチャイズ事業を他人に譲渡することです。フランチャイズ契約の満了時を待って事業譲渡するケースもありますが、それは例外的なことです。事業譲渡は、加盟店のやむを得ない事情により事業の継続が困難になることで行われるもののため、その多くが契約期間の途中で発生します。
通常、フランチャイズ契約では、契約期間の途中における事業譲渡は禁止または制限がかけられていますが、フランチャイズ本部との交渉により認められる場合があります。フランチャイズ本部との交渉で事業譲渡を認めてもらうには、①事業譲渡の目的や理由をフランチャイズ本部が理解し、やむを得ないこととして了解してもらう、②フランチャイズ本部の経営に支障が生じない相手を事業の譲渡先候補にする旨を説明する、などが必要です。
事業譲渡により経営能力のない者が新しい加盟店オーナーになってしまったら、フランチャイズ本部としても経営上の障害となってしまいます。事業譲渡が認められるかどうかは、フランチャイズ本部との交渉内容次第ということができます。
このため、事業譲渡の目的・理由をフランチャイズ本部に理解してもらうには、本部に交渉する前に、事業譲渡の目的・理由を明確にしておかなければなりません。事業譲渡が真にやむを得ない事情に基づくものとして、その理由を丁寧かつ真摯に説明し、フランチャイズ本部に理解・納得してもらうよう努力する必要があります。
また、事業譲渡先の候補には、フランチャイズ本部または同系列の加盟店を第一候補にしたいが、それが難しい場合は、フランチャイズに加盟することが確実な外部の事業者とする旨を説明し、大枠での了解を得ておくことが重要です。
事業譲渡の専門家に相談する
フランチャイズの事業譲渡を円滑に進めるためには、契約などの法律的な知識や譲渡先選定などのノウハウが必要となります。事業譲渡の手続きは、もちろんフランチャイズ本部と相談しながら進めることを基本としますが、事業譲渡したい加盟店オーナーとフランチャイズ本部が全ての利害関係で一致することは稀です。
場合によっては、事業譲渡の方法や譲渡先の選定で意見が一致しないこともあり得ます。このような時に、加盟店オーナーが一人で事業譲渡の手続きを円滑に行っていくのは困難といえるでしょう。したがって、信頼できる事業譲渡の専門家に相談し、その助言を受けながら手続きを進めていくのが無難です。
事業譲渡の専門家としては、例えば、企業買収や合併を仲介するM&A仲介会社があります。M&A仲介会社であれば、事業譲渡の手続きや進め方についての知識と経験を持っており、そのアドバイスを参考に手続きを進めるのが安全かつ効率的です。
譲渡先の選定は段階を踏まえて進める
フランチャイズ事業の譲渡先選定は、以下のような段階を踏まえて進めるのが効率的です。
①フランチャイズ本部に譲渡する
フランチャイズ事業の譲渡先選定は、フランチャイズ本部と交渉する際に当然議題に上がるものです。その場合に、フランチャイズ本部に事業を譲渡することができるかを相談します。逆に、フランチャイズ本部側から事業を譲り受けたい旨の申出がある場合もあります。
フランチャイズ本部は、傘下の加盟店を拡大し、グループ全体の売上・収益の向上を目標としています。そのため、譲渡の条件が合えば、事業を譲り受けて直営店として営業することも視野に入れています。
フランチャイズによっては、契約時に、加盟店が事業譲渡を希望した場合にフランチャイズ本部がその事業を買い取る権利、あるいは本部が指定する者が譲り受ける権利を留保する取り決めを行う場合もあるのです。
元々、フランチャイズの店舗は、㋐フランチャイズ本部が直接経営する直営店、㋑一般の事業者が経営する加盟店の2種類があります。直営店と加盟店それぞれの数や比率は、フランチャイズの出店戦略や経営方針に関わる事項であるため、フランチャイズ本部がどう考えるかにかかってきますが、直営店として買い取ってもらうことは有力な選択肢になります。
ただし、最終的に直営店として譲渡できるかどうかは、譲渡金額をはじめとする条件次第ということができます。
②フランチャイズ本部の紹介で譲渡する
次に、フランチャイズ本部の紹介で譲渡できるかを相談します。この場合、フランチャイズ本部が紹介するのは、㋐既存の加盟業者、㋑新たに開業しようとする加盟予定者など、傘下のフランチャイズ事業者になります。
㋐既存の加盟業者は、既存店の他に新たな店舗を加え複数店舗を経営しようとする事業者です。また、㋑新たに開業しようとする加盟者予定者は、フランチャイズで開業するために店舗を探している事業者です。いずれにしても、フランチャイズ本部が紹介してくれる先に事業譲渡するのであれば、トラブルも生じ難く、事業譲渡を円滑に進めることが期待できます。
③自分で譲渡先を探す
フランチャイズ本部に譲渡する、フランチャイズ本部の紹介で譲渡する、のいずれの方法も困難である場合は、自分で譲渡先を探すことになります。しかし、自分でフランチャイズ事業の譲渡先を探すのは、容易なことではありません。世の中、フランチャイズ事業を始めようとしている人が、都合よく自分の近くにいることは滅多にありません。そのため、自分で譲渡先を探すためには、ネットなどを使って広告を掲載し、事業の譲受希望者を募らなければなりません。
しかし、そのように個人が広告を出しても、条件が良くなければ簡単には希望者が集まらないでしょう。フランチャイズ本部では、加盟店募集に関して大々的に宣伝広告を行い、説明会まで開催しているのです。そのような大企業の宣伝広告に負けずに開業希望者を獲得するには、譲渡金額を下げる、居抜き店舗で譲渡するなど、譲渡条件を良くしておくしかありません。
また、個人で探す場合に気をつけなければならないのは、事業を譲り受けたいがフランチャイズに加盟する意思がないという相手を見つけた場合です。このような個人または会社に事業譲渡する場合は、フランチャイズ契約を途中解約してから事業譲渡を行うことになります。この場合、フランチャイズ本部から契約の途中解約に伴う違約金を請求されることもあり得ます。
さらに、個人で探す場合に、他の系列のフランチャイズ本部や加盟店が見つかる場合もあるでしょう。他系列のフランチャイズに事業譲渡してもよいかどうかは、フランチャイズ本部の事業戦略の根幹にかかる事項であるため、本部の考え方に従うしかありません。
④専門家に譲渡先を探してもらう
上で説明したように、自分で譲渡先を探そうとすると簡単にはいきません。そのような場合は、事業譲渡の仲介会社などの専門家に譲渡先を探してもらう方が効率的です。
仲介会社であるため、それなりの費用がかかりますが、事業譲渡先の選定などには経験やノウハウを持っており、譲渡金額をはじめ譲渡条件の設定などポイントを押さえた助言を受けることができます。
仲介会社に譲渡先を探してもらう場合は、同じ系列のフランチャイズ事業者、または事業譲渡に合わせて同じ系列のフランチャイズに加盟する意思がある事業者に限定しておくと、譲渡先が見つかった時にフランチャイズ本部の承諾を貰いやすくなります。
事業譲渡先の選定以外でも、フランチャイズの事業譲渡全般については、そのような仲介企業の力を借りる必要もあるため、フランチャイズ本部との交渉で話がまとまらなければ、仲介会社に依頼するのが賢明な方法といえるでしょう。
店舗の経営状況や特徴を整理する
事業譲渡を円滑に進めるには、店舗の経営状況や特徴を整理しておくことが重要です。事業譲渡において譲渡先と大枠での合意ができると、譲渡先は、最終的に事業を譲り受けてよいかどうかの調査・確認作業に入ります。
譲渡先の調査・確認作業に対しては、可能な限りの情報提供を行っていく必要がありますが、それには店舗の経営状況を整理しておく必要があるのです。具体的には、以下の情報を整理しておきます。
〇店舗の基本情報
- 店舗の所在地・面積
- 建物の築年数
- 建物内の造作・内装・設備・備品
- 物件の所有・賃借の状況
〇売上・経費・利益など
- 売上総額、商品別売上額、月別売上額、曜日別売上額
- 年間売上額の推移、月間売上額の推移
- 仕入原価総額、商品・材料別仕入原価
- 人件費総額、1人あたりの人件費
- 光熱水費総額、光熱水費の内訳、光熱水費の推移
- 家賃額
- ロイヤリティの金額
- その他必要経費総額、その他必要経費の内訳
- 営業利益額、年間営業利益額の推移、月間営業利益額の推移
〇現金収支
- 年間、月間の現金収支
- 預金通帳
その他、事業や店舗の特徴などをまとめておきます。
〇事業や店舗の特徴
- 客層(年齢・性別・職業別など)
- 人気の商品やサービス
- フランチャイズ本部の評判
- 日々の営業の進め方(基本的にはマニュアルによる)
- 近隣の状況や苦情など
以上のように、フランチャイズ事業を譲り受けて開業しようとしている先方には、可能な限り丁寧でわかりやすい情報の提供を行うことが肝心です。
居抜き物件で譲渡する
事業譲渡を有利に進めるためには、店舗を居抜きで引き渡すことが肝心です。居抜きとは、従前のテナントが使っていた内装(造作)や設備、備品などを残したままの物件をいいます。
通常、事業を止めて店舗を閉じる場合、物件の借手は、自分で取り換えた内装を元に戻して原状回復し、備え付けた設備や備品を全て撤去した状態にして貸主に返還しなければなりません。
しかし、そのように店舗を原状回復するには、工事費や物品の処分費、清掃費などのコストがかかります。そのため、内装や設備、備品などをそのまま残した形で新しい事業者に引き継ぐことができれば、費用を大幅に節約することができます。
このように居抜きで譲渡するためには、第一に物件の貸主の承諾を得なければなりません。
しかし、物件の貸主は、家賃などの貸付条件が同じであれば、引き続き新しい借手に借りてもらえるため、特殊な事情などがない限り承諾してくれる確率は高いといえます。
次に、フランチャイズ事業の譲渡先との間で、居抜き物件で譲渡する旨の合意も必要になります。フランチャイズ事業の譲渡先は、同種の商売を始めるために事業を譲り受けるのですから、店舗が居抜きであっても大きな支障はありません。それどころか、居抜き物件であれば内装・設備・備品が一式揃っていることから、開業費用を大幅に節約することが可能となります。さらに、店舗としての機能や体裁が整っているため、開業までの準備期間を短縮することができます。
なお、譲渡する店舗が賃借物件でなく自前の店舗の場合も、居抜きでの譲渡が有利です。
居抜きで譲渡することができれば、譲渡元は造作・設備・備品の撤去・処分費を節約することができ、譲渡先は開業費用を削減してスピーディーに開業することができます。
居抜き物件での譲渡は、譲渡先にも大きな恩恵があることから、譲渡費(売却費)も高く設定することが可能です。
日頃から経営改善に努める
事業譲渡を円滑に行うためには、日頃から経営改善に努めることが肝心です。事業譲渡の重要なポイントに、譲渡先の選定があります。こちらが事業譲渡先を絞り、先方も事業譲受に向けて動き出すと、先方は譲渡対象事業の調査に入ります。譲渡対象事業の調査は、主に以下の事項について実施されます。
①現在の事業の状況 | 今年度の売上額、必要経費額、営業利益など |
---|---|
②事業成果の推移 | 売上額、必要経費額、営業利益の年度別推移など |
③店舗立地や商圏競合 | 店舗の立地条件、近隣既存店との競合など |
④事業の将来性 | 当該事業の将来性や成長見込み |
⑤事業が抱えている問題点 | 現在事業が抱えている問題点、将来的に抱える虞がある課題など |
⑥店舗・商品の資産価値 | 店舗物件、備品、商品・材料の在庫などの資産価値 |
⑦事業の購入費用と成果見込み | 有償で事業を譲り受けて、費用対効果はどうか |
事業譲渡先候補の事業者は、これらの調査結果を総合的に踏まえた上で、事業を譲り受けるかどうかの最終判断を行います。したがって、業績不振が続いている、業績回復の見込みが立たない、赤字が続いて借金があるなどの状況であれば、余程特別の事情がない限り事業を譲り受ける決断はしないでしょう。
フランチャイズ事業を譲り受けると決めるのは、比較的業績が好調で先行きの予想も明るい場合に限られます。これは、フランチャイズ本部が事業を譲り受ける場合も同じで、本部であれば、業績回復の見込みがない不採算店舗はこれを機会に整理してしまうでしょう。
以上から、事業譲渡を円滑に進めるには、日頃から経営改善に努めて業績を維持し、譲渡先候補の不安を払拭できる状態にしておくことが重要です。
フランチャイズで事業譲渡する際の注意点
次に、フランチャイズで事業譲渡する際には、どのような点に注意すればよいかをみていきましょう。
違約金を課されないことが前提
フランチャイズの事業譲渡で最も注意すべきことは、違約金が課されないように話を進めていくことです。
フランチャイズ契約は、一般的に3~5年などの契約期間が定められており、その契約期間の途中で解約すると、ペナルティとして違約金が課される場合があります。中途解約して違約金が課されるかどうかは、中途解約について契約書にどう定めているかによりますが、契約書中に、中途解約の場合は違約金を課す旨が定められていると違約金を徴取されることになります。
また、契約書中に中途解約に関する定めがない場合は、加盟店とフランチャイズ本部の話し合いにより処理方法が異なってきます。いずれにしても、事業譲渡の際に、中途解約の扱いにならないよう話を進めていくことが肝心です。
事業譲渡しても中途解約の扱いにならないようにするためには、事業譲渡先の事業者が、①フランチャイズ本部またはその直営店、②現在加盟しているフランチャイズの系列にある加盟店、③外部の第三者の場合は、フランチャイズに加盟して事業を引き継ぐ意思がある者であれば、中途解約の扱いにならないよう交渉を進めていくことができます。
なお、③外部の第三者でフランチャイズに加盟する意思がある者については、フランチャイズ本部がその人の経営能力や事業適性を把握していないため、簡単に同意してくれるとは限りません。その場合は、探してきた第三者にそれなりの能力や適性が備わっていることをしっかりと証明する必要があります。
フランチャイズ本部は、事業譲渡により加盟店が1つ減ってしまうと事業計画に狂いが生じてしまいますが、上記①~③の者、できれば①か②の者が事業を譲り受ければ、加盟店が減ることなくそのまま事業を継続することができます。
これが、仮に事業譲渡先がフランチャイズへの加盟を拒む者などの場合は、譲渡する側としては、一旦フランチャイズ契約を解除せざるを得なくなり、当然違約金の問題も出てきます。
このため、注意して事業の譲渡先を見つけ、本部との交渉によって中途解約の扱いにしないよう進めていくことが肝心です。
保証金を引き継ぐ場合がある
フランチャイズに加盟する際に、加盟金の他に保証金を徴される場合があります。保証金は、フランチャイズ事業を行う際に加盟店が本部に負った債務を返済できない場合に、それを担保するために預け入れているものです。したがって、フランチャイズ契約終了時に加盟店と本部の債権債務関係を清算する際、本部から加盟店に返還される性質のものです。
ただし、事業譲渡を行う場合は、保証金を清算して返還してもらう方法以外に、フランチャイズ事業の譲渡先にそのまま引き継ぐ方法もあります。保証金を清算・返却してもらうか、事業の譲渡先に引き継ぐかは、フランチャイズ本部および事業譲渡先との話し合いになります。
なお、フランチャイズ契約書で、フランチャイズ本部の承諾を得ずに保証金を事業譲渡先に引き継ぐことが禁止される(フランチャイズ本部の承諾を得ずに、保証金の返還請求権を第三者に譲渡することを禁ずるなど)場合があるため、注意が必要です。
秘密保持義務が課される
フランチャイズ契約では、フランチャイズ本部と加盟店オーナーの双方に、営業上知り得た情報について秘密を保持する義務が課されます。それは、事業を譲渡してフランチャイズ契約が終了した後も適用されます。
フランチャイズ本部は、加盟店オーナーに対し、企業秘密であるフランチャイズ事業の経営ノウハウや商品・サービスにかかる情報などを提供するため、契約期間中も契約終了後も、その情報を外部に漏えいされたら業務を遂行する上で大きな支障が生じてしまいます。
また、加盟店オーナーも、フランチャイズ本部に提供した自分の個人情報を外部に漏らされては困ります。
したがって、ほとんどのフランチャイズ契約書には、秘密保持義務の規定が盛り込まれています。
〇条文例:秘密保持の義務
フランチャイザーおよびフランチャイジーは、本契約履行の過程で開示者から開示された技術上、営業上その他業務上の秘密情報が開示者に専属する固有の権利(原権利者から正当に利用許諾を受けたものを含む)であることを確認する。なお、秘密情報には個人情報が含まれるものとする。
(注)フランチャイザーは、フランチャイズ本部をいいます。
以上のように、フランチャイズ事業の事業譲渡後も、契約期間中と同じく秘密保持義務が課されることには注意を要します。
競業禁止義務が生じる
フランチャイズ事業を事業譲渡した後は、同一の事業について競業禁止義務が発生します。
通常、フランチャイズ契約では、契約終了後の競業禁止義務が定められます。これは、加盟店がフランチャイズ契約を終了した場合、一定の期間は一定のエリア内で同種の事業を行ってはいけないというものです。
〇条文例:競業禁止の義務
フランチャイジーは、本契約終了後〇年間は、自営も含め、同一商業地域で同一の営業をしてはならないものとする。
例えば、フランチャイズでコンビニを営業していた人が、「フランチャイズを脱退してフリーになったのだから、引き続き同じ店で個人営業のコンビニをやろう」としても、許されない可能性があります。
まとめ
通常、フランチャイズ契約では、「加盟店は、事前に本部の承諾を得なければ事業譲渡することができない」など一定の制限または禁止がかけられています。しかし、事業譲渡に一定の制限または禁止がかけられていても、フランチャイズ本部との交渉次第で認められる場合も少なくありません。
いずれにしても、フランチャイズ本部の事業戦略や事業展開に支障が生じないよう配慮しながら事業譲渡の交渉を進めていくことが、最終的に円滑な事業譲渡が行える近道といえるでしょう。