フランチャイズ形式のホテル経営とは メリット・デメリット、ポイントを紹介
最近広く普及してきたフランチャイズには多くの分野がありますが、ホテル業も代表的な業種の一つです。ホテルは、他業種のフランチャイズに比べ規模が大きいことから、一定の開業資金を必要とする反面、得られる利益も大きいものがあります。
そこで今回の記事では、フランチャイズ形式のホテル経営について、そのメリットやデメリット、ホテルフランチャイズで成功するためのポイントについて解説しています。フランチャイズによる起業を考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
フランチャイズ形式のホテル経営とは
はじめに、フランチャイズ形式のホテル経営とはどのようなものかを整理してみましょう。
ホテル経営の形態
ホテル経営の形態には、以下の種類があります。
①所有直営方式
ホテルのオーナー自らがホテルの経営を行う方式です。この方式は、ホテルの所有者と経営者が同一人であるため、経営にかかる意思決定が迅速で、かつ責任の所在が明確となるメリットがあります。
②リース方式
ホテルのオーナーがホテルの物件を貸し出し、他者がそれを賃借して経営する方式です。
賃借した経営者は、ホテルの損益に関係なく、ホテルのオーナーに賃借料を支払うことになります。この方式では、土地・建物などのホテル物件を所有していなくても、賃借して経営することができるため、初期費用を抑えた開業が可能です。
③運営委託方式
ホテルのオーナーが、他者にホテルの経営を委託する方式です。ホテルのオーナーは、経営受託者に委託料を支払うことになります。この方式では、ホテルのオーナーがホテル経営の専門会社に経営を委託することで、安全に効率良くホテルを運営することが可能となります。
④フランチャイズ方式
ホテルのオーナーがフランチャイズに加盟し、その商標やブランドを利用する代わりに、フランチャイズへの加盟金や商標使用料をフランチャイズ本部に支払う方式です。ホテルのオーナーは、フランチャイズ本部から経営ノウハウや様々な支援を提供されるため、ホテル経営に経験の浅い初心者でも事業を始めることが可能です。
フランチャイズ形式のホテル経営とは
上でみたように、フランチャイズ形式のホテル経営は、ホテルのオーナーがホテルフランチャイズに加盟し、加盟金や商標使用料をフランチャイズ本部に支払う代わりに、フランチャイズの商標やブランドを利用することができる方式です。
現在稼働しているホテルフランチャイズで代表的なものには、アパホテルやホテルサンルート、スーパーホテルなどがあります。
ホテルフランチャイズのメリット
それでは、フランチャイズ事業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。次は、ホテル経営でフランチャイズに加盟するメリットを見ていきましょう。
商標・ブランドが利用できる
ホテルフランチャイズに加盟すると、フランチャイズの商標やブランドを利用できるメリットがあります。フランチャイズに加盟すると、他にも様々なメリットがありますが、この商標・ブランドを利用できることが、多くのメリットの中で最も大きいものです。
ホテル経営にかかわらず、事業を安定させ成功に導くためには、企業の信用が欠かせません。しかし、企業の信用というものは一朝一夕で築くことはできず、長期間に渡る地道な努力が必要です。長い期間、顧客や取引先に対し真摯な営業を続けることにより、企業は社会的な信用を少しずつ築いていくことができるのです。
また、事業を成功させるには、周知度の向上も必須です。顧客や取引先は、聞いたことがない無名の企業より、周知度が高い有名な会社と取引を行う方が安心・安全と考えます。ところが、この企業の周知度も、長期間に渡る地道な営業努力により、少しずつ高めていく以外に良い方法はありません。
以上のように、事業を安定させ成功に導くために必須の条件である信用や周知度をスピーディーに高める方法はないといわれていますが、実は一つだけあるのです。それが、有名フランチャイズに加盟して、その商標やブランドを利用することです。有名フランチャイズの看板を掲げ、そのブランド商品を利用することで、その企業の顧客や取引先は安心・安全なサービスや取引を期待することができるのです。
経営ノウハウを提供してもらえる
ホテルフランチャイズに加盟すると、フランチャイズ本部から事業にかかる経営ノウハウを提供してもらえます。
通常、ホテルを経営するためには、ホテル業界に関する豊富な知識やホテル業務に従事した経験が必要とされます。しかし、フランチャイズでホテル事業を始めようとする人は、そのような知識や経験がある方ばかりではありません。中には、知識や経験が乏しい、あるいは、ほとんどない人もいるはずです。
ホテルフランチャイズの本部には、ホテル経営に関する豊富なノウハウが蓄積されています。フランチャイズに加盟すれば、その蓄積された豊富なノウハウの提供を受けることができます。
また、日々のホテル経営については、業務の進め方を体系的に整理した業務マニュアルが用意されており、そのマニュアルに従って仕事をすれば支障のない営業を行うことができます。さらに、フランチャイズによっては、開業前や開業後に加盟店オーナーとしての研修を行ってくれるため、ホテル経営の知識や技術を深めることができます。
ビジネスモデルを提供してもらえる
ホテルフランチャイズに加盟すると、フランチャイズ本部からビジネスモデルを提供してもらえます。
ビジネスモデルは、フランチャイズ本部が加盟店の営業実績を集計・分析して得たデータで、標準的なホテルの売上額や必要経費、営業利益などを求めたものです。すなわち、ビジネスモデルは、「この立地でこの規模のホテルであれば、年間売上額○○万円、必要経費○○万円、営業利益○○万円を見込むことができる」というホテル経営の標準モデルを意味しています。
フランチャイズでホテル事業を始めようとしても、売上げや利益の目標が明確でなければ、安心してスタートすることが困難です。その点で、ホテルフランチャイズに加盟すれば、標準的なビジネスモデルの提供を受けることができるため、当面はその水準を目標に努力していけばよいことになります。
本部のバックアップを受けることができる
ホテルフランチャイズの強みは、フランチャイズ本部のバックアップを受けることができることです。
ホテル経営を始めると、次のように様々な問題やトラブルが生じる可能性があります。
- 予約が入らない
- 必要経費がかかり過ぎる
- 料理の質が良くない
- 従業員の接客態度が良くない
- 館内清掃が不完全である
- 自館の評判・口コミが良くない
- 客のクレームが多い
- 客とトラブルが発生してしまった など
このような問題やトラブルが発生した場合に、個人経営のホテルであれば、オーナーが1人で試行錯誤して問題を解決していく以外に方法がありません。しかし、ホテルフランチャイズに加盟していれば、このような問題やトラブルに対し、本部の専門スタッフが適時指導や助言を与えてくれるため、オーナーが1人で悩む必要がありません。
経験がなくてもスタートできる
一般的に、どのような事業であっても、その分野に携わった経験がない人が開業しようとすると、多大な苦労やリスクを伴います。未経験者は、自分の独力で事業にかかる知識を習得し、営業のやり方を身に付けていかなくてはならないからです。経験がないということは、それだけ事業に失敗するリスクが増えることにも繋がります。
しかし、フランチャイズに加盟すれば、まったく違う展開が期待できます。これまでみてきたように、ホテルフランチャイズに加盟すれば多くのメリットがあります。特に、①フランチャイズの商標やブランドが利用できる、②フランチャイズ本部から経営ノウハウを提供してもらえる、③本部からビジネスモデルを提供してもらえる、④本部のバックアップを受けることができるなどにより、ホテル経営の経験がない初心者でも安心して開業することが可能となります。
仲間と情報交換ができる
ホテルフランチャイズの良い点は、仲間と情報交換ができることです。ホテル事業では、多くの従業員が携わっています。その中には、ドアボーイのような若者もいれば、マネージャーや調理長のような部門の責任者もいます。しかし、いくら責任者といっても雇用されている労働者であるため、ホテル経営全般について責任を負うわけではありません。ホテル経営全般について責任を負うのは、ホテル経営者であるオーナーです。
ホテル経営も一つの事業であるからには、山もあれば谷もあり、経営が順調な時ばかりではありません。したがって、例え厳しい経営状況にある時でも、ホテルのオーナーは経営の全責任を負い、従業員の生活を守っていかなければなりません。
このような状況で、個人事業でホテル経営を行っているとしたら、経営上の諸問題やトラブル、悩みごとなどについて、オーナーが独力で考えて解決していかなければなりません。この場合にフランチャイズ本部の指導や助言を受けられるとしても、中には本部に言い難い悩みごと、本部と利害が対立するような問題などもあるはずです。そのような本部に相談できない悩みごとについて、個人事業主のオーナーであれば他に相談できる人がいません。
ホテル経営にはこのような課題があることを念頭に置いた上でホテルフランチャイズをみると、フランチャイズには、複数の加盟店オーナーが参加しています。他店のオーナーは、ホテルの立地場所や規模などが異なるとはいえ、皆同一のフランチャイズに所属している仲間であり戦友です。
同じフランチャイズに加盟していれば、ホテル営業のやり方は同じマニュアルに基づいていることになります。フランチャイズによっては、食材や酒類の仕入れ先も同じ業者を指定しているかもしれません。すなわち、複数の加盟店オーナーは、皆同じような土俵に立ち、同じような攻め方や守り方をしていることになります。
したがって、ある加盟店オーナーの悩みごとは、他の加盟店オーナーも共通に抱えている可能性があります。仮に、同じように抱えていなくても、悩みごとの理由や内容は十分に理解してもらえる下地が整っているといえます。
このことから、加盟店オーナー同士が、日頃からホテル事業について情報交換を行い、お互いの悩みごとや抱えている問題について相談・助言し合えば、お互いが助かり、問題解決の糸口が見つかるかもしれません。また、このように情報交換や相談ができる相手がいるということで、加盟店オーナーの孤独感やストレスが軽減されるメリットもあります。
インバウンド需要が見込める
ホテルフランチャイズでは、将来的にインバウンド需要が見込めるメリットがあります。このメリットは、フランチャイズに加盟するメリットというより、個人事業も含めたホテル経営のメリットといえます。
近年、ホテル業界において格段にニーズが増えてきたのがインバウンドです。インバウンドとは、外国人が旅行で来日することです。インバウンドの需要が高まってきた理由は、①日本の歴史的な遺産や街並みが見直されてきたこと、②日本は、美しい自然と近代的な都会を併せ持つ国であること、③日本食をはじめとするグルメブーム、④日本国内の治安の良さ、⑤日本人の親切さなどによります。
ただし、ここ2~3年は、コロナ禍により海外からの訪日外国人旅行者は激減し、インバウンドによる需要も大きく落ち込んでいます。このコロナ禍は、現時点では収束の時期が見通せない状況となっています。
しかし、コロナ禍が完全に終焉することは困難であるとしても、国の施策や新しいワクチン・治療薬の普及、感染予防に向けた生活上の工夫などにより、訪日外国人旅行者の数は徐々に回復していくことが予想されます。
人口増が見込めない日本では、旅行に対する需要を国内だけで賄っていくことは困難です。このため、コロナ対策を講じながら、いかにインバウンド需要を回復させていくかが重要なポイントとなるでしょう。
ホテルフランチャイズのデメリット
フランチャイズにもデメリットはあります。次は、ホテルフランチャイズに加盟するデメリットをみていきましょう。
加盟金がかかる
フランチャイズに入るには、フランチャイズ本部に加盟金を支払う必要があります。加盟金は、フランチャイズに加盟するために支払う金銭をいいます。加盟金の金額はフランチャイズによって異なりますが、有名ブランドのフランチャイズでは、高額な加盟金を要求されるケースもあります。
フランチャイズでホテル事業を始める場合は、土地・建物取得費や内・外装工事費、備品購入費、従業員の人件費など、かなりのまとまった資金が必要となります。それらの必要資金に上乗せする形で加盟金がかかることから、事業者には大きな負担となります。
ロイヤリティがかかる
フランチャイズに加盟すると、フランチャイズ本部にロイヤリティを支払う義務が生じます。ロイヤリティは、フランチャイズの商標やブランドを利用する対価として支払う金銭で、商標使用料と呼ばれます。通常、フランチャイズに加盟している間毎月かかるものですが、具体的な金額はフランチャイズにより違ってきます。毎月○万円など決まった金額を徴取する定額方式と毎月売上額や利益額の○%など一定の比率でかけられる定率方式とがあります。
ロイヤリティは、仮にフランチャイズ事業が不振で赤字となった場合でも、毎月支払う義務があるため、事業の状況によっては大きな負担となる場合があります。
自由に経営することが難しい
フランチャイズに加盟すると、加盟店オーナーが自分の裁量で自由に事業経営を行うことが難しくなります。
通常、フランチャイズでは、加盟店が行う事業の方向性や営業の方法などが統一的に定められています。加盟店は、フランチャイズ本部が定めた経営方針や経営方法に従って営業しなければなりません。このため、加盟店オーナーが、フランチャイズ本部が定めた経営方針や経営方法と異なるやり方で営業することはできないのです。
例えば、食事サービスなしのビジネスホテルフランチャイズで事業を行う場合、加盟店オーナーであるホテル経営者が勝手に宿泊客に食事を提供し、その料金を宿泊料に上乗せして請求することはできません。
このため、自分の自由なやり方で事業を行いたい、営業内容について外部から指示されたくないなどの人は、フランチャイズ事業には向いていません。
自由に廃業できない
フランチャイズに加盟すると、事業が不振だからといって勝手に廃業することはできません。フランチャイズに加盟する際、加盟者とフランチャイズ本部との間で、フランチャイズ契約を締結しますが、フランチャイズ契約には契約期間が定められており、契約期間中は契約当事者双方が契約内容を遵守する義務があります。しかし、フランチャイズ契約期間中に加盟者が事業を勝手に止めてしまうと、契約で定められた契約内容の履行義務を果たさないことになるため、ペナルティとして違約金を課される場合があります。
社会情勢の影響を受けやすい
ホテルフランチャイズは、その時々の社会的な情勢の影響を受けやすいデメリットがあります。身近な例では、コロナ禍による影響を挙げることができます。新型コロナウィルスによる感染症の世界的な流行による海外渡航の制限や国内移動の自粛などの影響で、訪日外国人観光客・出張者、国内旅行者などが大きく減少し、ホテル業界は苦境に立たされています。
今後も、新型コロナウィルス以外の新しい感染症が流行すれば、同じような移動制限がなされる可能性があり、その場合には、ホテル業界にも影響が及ぶでしょう。
感染症以外にも、戦争やテロ、自然災害などにより旅行客や出張者が減少する危険性はあります。仮に、日本が戦争に巻き込まれる、日本国内で大規模なテロが発生するなどの事態となれば、訪日外国人観光客や国内旅行者などが減ってしまう可能性があります。
また、大地震や津波などの自然災害により、被災地域を中心に旅行需要が減少してしまうこともあるでしょう。東日本大震災による原発事故の影響で、福島地方を中心に旅行需要が減少した例もあります。
このように、ホテル経営は、予期できない社会的な事件や事象などその時々の社会情勢の影響を受けやすい分野といえます。
失敗した時のダメージが大きい
ホテルフランチャイズは、経営に失敗した場合に受けるダメージが大きいというデメリットがあります。ホテルフランチャイズで起業しようとすると、以下のような開業費用が必要となります。
①加盟金 | フランチャイズに加盟するために支払う金銭で、その額はフランチャイズにより違ってきます。 |
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②物件取得費 | ホテル用の土地・建物の取得費です。自己所有の土地に自分で建物を建設するケース、新たに土地を購入して建物を建設するケース、土地・建物を一括して購入するケースなど、方法は様々です。 |
③物件改修工事費 | 土地に駐車場や外構、植木などを整備する、または、建物の内・外装をホテル向けに改修するための工事費用です。 |
④備品購入費 | ホテル用のベッド、テーブル、椅子、厨房設備など、備品を購入する費用です。一部の備品については、リースを使う方法もあります。 |
⑤消耗品費・その他費用 | 消耗品を含めたその他の費用です。 |
⑥広告宣伝費 | ホテル開業をPRするための費用です。実際にかかる費用は、広告媒体の種類や掲載頻度などにより違ってきます。 |
上記は、開業準備のために最低限必要な資金ですが、実際に開業するにあたっては、⑦従業員の人件費、⑧光熱水費、⑨食材の仕入れ費用などが新たにかかってきます。
上記の開業費用は他業種のフランチャイズでも必要ですが、ホテルフランチャイズでかかる費用は、他業種のフランチャイズと比較して高額になる傾向があります。その理由は、以下の通りです。
①他業種と比べ店舗規模が大きい
ホテルフランチャイズでは、敷地面積が最低でも100坪以上(駅前など)、場合によっては数百坪から1,000坪以上(郊外など)必要となります。また、利用客に宿泊してもらうため、建物の部屋数や全体規模も大きくなります。さらに、料理を提供する場合は、厨房設備や食堂も必要になります。
②まとまった物件改修工事費がかかる
土地に駐車場や外構、建物の内・外装をホテル向けに改修するには、まとまった費用がかかります。従前にホテルとして使っていた物件を取得すれば費用を抑えられますが、それ以外の用途の建物をホテルに改修するのは容易ではありません。ホテルとして使うためには、利用客の各部屋を独立させ、バス・トイレ・洗面所を設ける必要があります(上下水道の配管、電気の配線も必要)。このため、既存の建物を撤去して、新しく建築する方が安く済む場合もあります。
③まとまった購入備品費がかかる
ベッド、テーブル、椅子などの備品は、宿泊人数に応じて必要となります。また、備品はある程度の高級感を演出するため、最低限のグレードを維持しなければなりません。さらに、厨房設備一式やレストランの照明、装飾品にも費用が必要です。
④人件費、光熱水費、食材仕入費用など必要経費が大きい
ホテルでは、まとまった人数の人件費がかかります。また、全館で使用する光熱水費や食材仕入費用など必要経費が大きくなります。
以上のように、ホテルフランチャイズでは、開業のための費用、および開業後の営業にかかる必要経費ともに、他業種のフランチャイズに比較して高額になる傾向があります。他業種のフランチャイズは、店を構えないで自宅で営業できる無店舗型やオーナーが自分1人だけで開業できるタイプの仕事が多くあり、開業費用や営業費用を抑えることが可能です。
しかし、ホテルフランチャイズは、実際に利用客に宿泊してもらう実店舗や快適なサービスを提供するための従業員が必要です。そして、その店舗規模や従業員数も、同じ実店舗型フランチャイズであるコンビニなどと比べても、格段に大きくならざるを得ません。
まとまった額の開業費用や営業経費がかかるホテル事業で、経営がうまくいかずに失敗した場合に、オーナーが被る損失は、他業種のフランチャイズに比べ大きくなってしまいます。そのため、ホテルフランチャイズに乗り出す場合、生半可な気持ちではなく、用意周到に準備を整えておく必要があります。
ホテルフランチャイズで成功するためのポイント
それでは、次にホテルフランチャイズで成功するためには、何がポイントになるかをみていきましょう。
事業の方向性を決める
まず、事業を始めるには、その骨格から決めていく必要があります。最も重要な骨格を決め、それに基づいて末節部分を設計していくのです。一口にホテル経営といってもその範囲は広く、以下のようなジャンルに分かれています。
①ビジネスホテル
都市部にあり、主にビジネスマンの出張時の宿泊に用いられるが、観光客なども受け入れる。
②シティホテル
都市部にあり、ビジネスマンや観光客が滞在するのはビジネスホテルと同様であるが、グレードや料金がビジネスホテルより高く設定されている。
③リゾートホテル
観光地やリゾート地にあり、観光客をメインに受け入れている。
④モーテル
国道や県道沿いにあり、休憩客や宿泊客を受け入れている
まず初めに、自分が目指すホテル事業が上記の中でどれに該当するかについて決めることが先決です。
事業の方向性に合うフランチャイズを見つける
自分が目指すホテル事業の方向性が決まったら、次は、事業の方向性に合うフランチャイズを見つけていきます。自分が目指すホテル事業を進めるためには、その方向性に合ったフランチャイズに加盟する必要があるからです。
自分が目指すホテル事業の方向性がリゾートホテルであるにもかかわらず、ビジネスホテルやシティホテルのフランチャイズに入っても、自分の夢や計画は達成できません。方向性の違うフランチャイズに間違って加盟した場合には、事業を推進していくモチベーションを維持することが難しくなってしまうでしょう。
このことから、自分が目指すホテル事業の方向性に合うフランチャイズを選ぶことは、非常に重要なポイントなのです。
快適なサービスを提供するフランチャイズを見つける
次に、事業の方向性に合うフランチャイズが見つかったとしても、そのフランチャイズが快適なサービスを提供できるグループかどうかという問題があります。ホテル経営を安定させ、事業を成功に導くためには、利用客に「快適なサービス」を提供できるかどうかがポイントです。
快適なサービスというのは、ホテルの立地環境や宿泊価格なども含めたものであり、例えば、「この宿泊価格で、このように美味しい料理を食べることができ、部屋からの眺望もすばらしい。従業員の接客も行き届いている」と利用客に言わせることができれば、そのホテルは快適なサービスを提供していることになります。
そのホテルフランチャイズが、快適なサービスを提供できているかどうかは、外側から見ただけではわかりません。例え、そのホテルのパンフレットを読み、建物や提供料理の写真を見ても、本当に快適なサービスを提供してくれるかは、内側に入ってみなければ何とも言えないのです。
そこで、自分が目を付けたホテルフランチャイズには、実際に滞在してみることをおすすめします。これは、ホテルに入ってラウンジでお茶を飲むなどということではありません。最低でも1泊、できれば2~3日宿泊して、提供される料理を食べ、大浴場があれば利用し、滞在客としての満足度を自分で測定するのです。
なお、この場合にただ漫然と滞在するのではなく、事前にチェックリスト(評点表)を作っておき、それに基づいて客観的な審査を行うことが肝心です。体験宿泊には宿泊コストがかかってしまうという反論もあるでしょうが、自分がこれから加盟するフランチャイズを選考するための審査費用と考えれば、安いものです。
「同じホテルフランチャイズでも、沢山の場所にあるから全部は回れない」という意見もあります。それはもっともな意見で、すべてのホテルを回る必要はありません。ホテルフランチャイズでは、部屋の規格や提供する料理の内容、従業員の接客マナーなどは、マニュアルである程度統一されているはずです。このため、ホテルフランチャイズの中で1~2か所体験宿泊すれば、そのフランチャイズが提供しているサービスの水準を把握することができます。
市場調査・将来予測を行う
ホテル経営で、市場調査や将来予測を行うことは、極めて重要です。市場調査とは、自分が経営しようとするホテルの種類や立地、規模、料金設定などからみて、ニーズがあるか、集客は見込めるかを調べることです。集客が見込めるとしたら、月別に何人程度の客が集まるか、どのような客層が中心になるかという分析も必要です。
一方、現時点でニーズがあり集客が見込めても、将来的に成長が期待できない場合もあります。ホテルが、将来的に成長していくことができるかについて、見極めておくことが求められます。
これらの市場調査や将来予測を、一般の素人が専門的に行うのは無理があります。したがって、市場調査・将来予測を行うことは重要なポイントですが、フランチャイズに加盟しようとする人が、独力で市場調査や将来予測を行わなければならないという意味ではありません。
ホテルフランチャイズの本部では、自分の業界について、市場調査や将来予測を行う専門部署を持っており、市場調査や将来予測についての資料やデータを要求すれば、それらを提供してもらえるはずです。当然、フランチャイズに加盟しようとする人が出店を計画しているエリアでの市場調査や将来予測についても、本部の方から資料やデータの提供を受け、説明もしてもらえるはずです。
肝心なことは、この市場調査や将来予測についての説明を受け流すのではなく、疑問点があれば徹底的に質問し、理解する覚悟で臨んでもらいたいということです。市場調査や将来予測で集客や将来予測に疑問符が付く案件は、営業リスクが決して小さくないことから、これまで準備してきた大切な資金を投資することができないからです。
このことからも、フランチャイズの選定にあたっては、フランチャイズ本部の持っている資料やデータを最大限利用し、担当者からも十分な説明を受けられるよう先方に要求することが大切です。
立地条件を重視する
ホテル経営を安定させ、成功に導くためには、優良な立地条件を満たすことが重要です。
優良な立地とは、利用客のニーズが十分に見込めることです。利用客のニーズが見込めれば、自然に人が集まってきます。
それでは、利用客のニーズとは何でしょうか。利用客のニーズは一つではなく、客層によって異なります。
例えば、出張でホテルを利用するビジネスマンの場合、①空港に近い、②新幹線の駅に近い、③在来線ターミナル駅に近い、④高速道路のインターチェンジに近い、⑤ビジネス街に近いなどの立地条件を満たすビジネスホテルを探すでしょう。または、飲み会で終電を逃してしまったサラリーマンの場合、飲み屋街に近い立地のビジネスホテルに泊まろうとします。
カップルや家族で贅沢感を味わいたい人達の場合、①商業地区に近い、②大きい公園が近い立地のシティホテルを予約するかもしれません。
あるいは、夏休みなどの長期休暇で旅行しようとする場合、①観光地にある、②海辺が近い、③高原にあるなどの立地を満たすリゾートホテルを探そうとします。
このように、利用客のニーズは単一ではなく、客層によって異なります。この場合の客層とは、同じ目的を持つ人をグループ分けしたものをいいます。利用客のニーズは客層によって異なるため、様々な立地条件を有するホテルが必要とされるのですが、ここで忘れてはいけないことがあります。
それは、どのような客層にも必要とされないと判断される場所には、ホテルを建ててはいけないということです。仮に、そのホテルが素晴らしい外観や内装を備えており、従業員の教育が行き届いているとしても、出張のビジネスマンや終電を逃した会社員、贅沢感を味わいたいカップル、長期休暇で旅行しようとする人達などのうち、誰もが必要としない立地のホテルは繁盛しないということです。
もっとも、先にあげた客層のグループは大雑把に分けたに過ぎず、綿密に分類すれば、もう少しマシな分け方ができるかもしれません。
ここで危惧されるのが、ホテルの敷地を所有している地主の方々です。地主の方は、元々土地を所有しているため、開業資金を抑えた起業が可能です。しかし、最も重要なことは、その所有している土地は、ホテル利用者のニーズを満たすことができる立地条件を備えているかどうかです。元々土地を所有していて土地代がかからないからといって、ホテル利用者のニーズを満たすことができない土地にホテルを建設しても、とても成功は期待できないでしょう。
逆に、土地を持っていない人は、白紙の状態から土地を探すことができます。先入観や雑念がない分、冷静に優良な立地場所を探すことができるかもしれません。
以上のように、ホテル経営を安定させ、成功に導くためには、優良な立地条件を満たすホテルにすることが重要です。
ウイズコロナ戦略を立てる
近年のコロナ禍により、ホテル業は大きな苦境に立たされています。今後は、新型ワクチンや新薬の開発、感染防止の観点に立った生活様式の変化などにより、コロナ禍は次第に収束していくとの見方もあります。しかし、これまでの感染者数の推移などをみる限り、コロナウィルスが短期間で駆逐されることは期待し難いでしょう。むしろ、コロナ禍を一定の水準以下に抑えながら、社会経済活動を元のレベルに回復させていく、いわばコロナウィルスとの共存社会へ移行することになってくるでしょう。
そうであるならば、ホテル業界においても、コロナウィルスとの共存を前提とする経営形態を模索し、確立していかなければなりません。ホテル業界のウイズコロナ戦略は、以下の点をポイントに考えていく必要があります。
①ホテル館内の感染予防対策 | 換気や消毒などの感染予防対策を標準化する |
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②宿泊客が減少した場合の対策 | 今後も、移動の自粛などにより宿泊客の急減が起こり得ることを前提に、経営体力を付けておく |
③休業する場合の対策 | 休業する場合の従業員の扱い、仕入先への対応などを標準化しておく |
④予約キャンセルへの対策 | 大量の予約キャンセルへの対策、キャンセル料の検討などを行っておく |
⑤風評被害への対策 | 感染者発生などの際の風評被害への対策を検討しておく |
⑥助成金の申請 | 売上減少への救済措置である各種助成金などの申請が、スピーディーに行えるよう準備しておく |
⑦生活様式の変化に伴う新しいホテル経営 | コロナ禍でテレワークが普及してきたことにより、広い住居で一定の部屋数を確保し、テレワーク専用のスペースを作ろうとする人が増えています。その結果、都心にある職場に近い住居から、ゆとりを求めた郊外型住居へと人気が移ってきています。また、自宅内に仕事スペースがない人のため、テレワークデスクを貸し出す店も現れています。 |
このような生活・仕事様式の変化に応じ、ホテル業界も新しい仕事のやり方を支援することができる余地があります。例えば、空室やロビーの一角を日中に限ってテレワーク用に格安で利用してもらうなどの方策について、サービス方法や料金設定の工夫など検討する価値があるのではないでしょうか。
いずれにしても、ホテル業界は、将来的にコロナウィルスとの共存を図る方向で知恵を絞る時期にきています。
集客に力を注ぐ
ホテルフランチャイズでは、集客活動が非常に重要です。集客は、部屋の稼働率に直接結び付くため、ホテル経営の浮沈のカギを握っているといっても過言ではありません。そして、その集客活動は宣伝広告という形で行われています。
ホテルフランチャイズでは、フランチャイズ自体のPRはフランチャイズ本部が行っています。フランチャイズ本部は、豊富な資金力を背景に、テレビ、新聞、雑誌、ネット、チラシなどの媒体を使って宣伝を行います。
一方の加盟店オーナーは、自店のPRを行うことが必要ですが、どのような宣伝広告を行えば費用対効果からみて効率的なのかを十分に検討しなければなりません。
ネット広告の場合には、フランチャイズ本部のサイトに傘下のホテル一覧が紹介されており、そこから各加盟店のサイトに入ることができる場合があります。その場合は、各加盟店の紹介内容も本部で決めた仕様に統一され、各加盟店の個性がわかり難い場合も多くみられます。
しかし、そのようなケースでも、各加盟店は本部のサイトとは別に、独自に自店のサイトを立ち上げることは可能です。フランチャイズ契約に抵触しない範囲で、加盟店オーナーが、独自のサイトで個性的なホテルの紹介を行えば、大きな集客効果を見込むことができます。
この場合、自店紹介のサイトは作りっ放しではなく、常に最新のニュースや話題を掲載して更新していくことが重要です。閲覧者のために、優良で新しい情報を常に提供していかなければ、ネットの検索上位に表示されることが難しくなってしまいます。
また、ネット検索で使用されるキーワードも、一定数はサイト内に入れ込んでおく必要があります。例えば、ホテル検索の場合、閲覧者は、「ビジネスホテル、新宿、サウナ」、「ビジネスホテル、横浜、安い」、「シティホテル、札幌、ワイン」などのキーワードを使って検索してくるため、それにヒットするキーワードをサイト内に埋め込んでおく必要があります。ただし、必要以上に過剰な数のキーワードを入れると、管理者から不適正とみなされる場合があるため注意が必要です。
通常、ネットの検索で閲覧者が見ようとするのは、初めの1~2ページ位までです。それより下位に表示されるサイトは、いくら凝って目立つように作っても、見ようとする人が極端に減ってしまいます。集客のためには、優良なサイトを立ち上げることが必要ですが、検索エンジンに上手くマッチさせるサイト作りの手法も身に付けておくことが求められます。