フランチャイズ本部のパワハラにはどう対処すればいい?また自身がパワハラしないためのポイントは?

企業などの職場で大きな課題とされているのが、パワハラを防止することです。特にフランチャイズでは、フランチャイズ本部が資金力・組織力・情報力の各面で加盟店を圧倒しており、また、フランチャイズ契約も本部が有利な内容で締結されている実情があります。このため、立場的に有利なフランチャイズ本部が、加盟店に対しパワハラを行う余地があります。また、加盟店の内部でも、職位の上下関係によるパワハラが発生する可能性は否定できません。

今回の記事では、フランチャイズにおけるパワハラの例をあげ、フランチャイズ本部のパワハラにどう対処すればよいか、また加盟店オーナーがパワハラしないためのポイントは何かについて解説しています。フランチャイズ事業に携わる方は、ぜひ参考にしてください。

フランチャイズ業界のパワハラとは

フランチャイズ業界のパワハラとは

パワハラとはパワーハラスメントの略称であり、厚生労働省では、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義しています。

パワハラには様々な形態がありますが、厚生労働省では、パワハラを以下の6類型に分けています

①身体的攻撃型 相手に対し、殴る・蹴るなどの暴力を振るうタイプです。殴る・蹴るまではしないまでも、胸を掴む、物を蹴とばすなどもこれに当てはまります。
②精神的攻撃型 言葉により、相手に精神的な苦痛を与えるタイプです。他の人がいるにもかかわらず大声で叱る、人格を否定するなどが該当します。
③人間関係からの切り離し型 相手を人間関係から切り離そうとするタイプです。相手が職場で孤立するよう席を遠くに移動させる、必要な情報を1人だけ教えない、飲み会に参加させないなどが該当します。
④過大な要求型 相手に対し、その能力を超えた仕事をさせようとするタイプです。大量の作業を短時間でやらせる、達成できそうもないノルマを課すなどが当てはまります。
⑤過小な要求型 相手の能力を使おうとしないタイプです。気に入らない相手に仕事を与えない、能力があるにもかかわらず雑用だけさせるなどが該当します。
⑥個の侵害型 相手の私的なことに必要以上に干渉するタイプです。アフター5や休日の過ごし方をしつこく訊く、職場外で尾行する、自宅に不必要な電話をかけるなどが該当します。

次に、フランチャイズ業界におけるパワハラについて考えてみましょう。フランチャイズ業界のパワハラは、大きく分けて次の2つの分野に存在します。

フランチャイズ本部が加盟店に行うパワハラ

1つ目は、フランチャイズ本部と加盟店との関係です。フランチャイズ本部と加盟店は、パワハラの定義にあるような同じ職場というわけではありませんが、本部と加盟店というフランチャイズ契約の関係性をみると、職場内と同じくパワハラが起こりやすい環境にあることがわかります。

なぜ、フランチャイズ業界で本部によるパワハラが起こりやすいかは、フランチャイズ契約にその原因を求めることができます。フランチャイズは、形式的には本部と加盟店はそれぞれ独立した経営体であり、法律的にも対等な関係にあるとされています。しかし、ほとんどのフランチャイズ契約は本部に有利な内容で規定されており、実質的な力関係は本部が上になっています。

フランチャイズは、事業の知識やノウハウを持たない素人の個人でも、豊富な資金や事業ノウハウ、高い周知度を有するフランチャイズ本部の力を借りて独立開業することができるシステムです。そのため、フランチャイズ契約も、あらかじめ本部が定めた内容を契約相手の加盟者に承諾してもらうことが前提となっています。その本部が定める契約内容は、加盟店の義務が多く規定されるなど本部が有利なものになっているのです。

契約的に有利な立場にある、しかも事業経験やノウハウを豊富に持っている本部が、加盟店に対し自らの要求を出す際に高圧的になりやすいということは、いわば必然的な現象ともいえるでしょう。

しかし、そのような事情があるとしても、加盟店としては、本部のパワハラに上手に対処していく必要があります。

加盟店オーナーが部下に行うパワハラ

2つ目は、加盟店内部でのパワハラです。加盟店内部でのパワハラは、一般の企業と同じように、上司である加盟店オーナーが従業員に行うパワハラ、または先輩従業員が新人従業員に行うパワハラであるといえるでしょう。加盟店内部でのパワハラは、加盟店オーナーが正しい認識を持ち、防止策を講じることで防ぐことができます。

フランチャイズ本部によるパワハラの例

フランチャイズ本部によるパワハラの例

次に、フランチャイズ本部が加盟店に行うパワハラには、どのようなものがあるかをみていきましょう。

過大な要求

フランチャイズ本部によるパワハラで多いのが、過大な要求です。具体的には、①売上げが少な過ぎるので、もっと上げるよう要求する、②集客のために、看板を持って店の前に立つよう要求する、③従業員の応対が良くないので、何とかするよう要求する、④店の床や壁をもっと綺麗にするよう要求するなどがあります。その多くが、加盟店の売上げをより伸ばそうとするもので、その要求自体はフランチャイズ本部として間違ってはいません。

問題は、①加盟店の営業努力を正しく把握した上で要求しているか、②本部として、売上げ向上のノウハウやコツをしっかりと教えているか、③要求水準が、加盟店の能力に見合っているかなどにあります。

その理由は、加盟店の営業努力をあまり把握せずに一方的に要求を押し付ける、または、本部として売上げ向上のノウハウやコツをあまり教えていないのに、営業努力が足りないと批判するなどの例があるからです。

さらに、加盟店の能力などお構いなしに高い水準を要求するなど、本部の権力を背景に高圧的な態度をとるなどもあります。

このような場合、本部の目から見て不足している点や工夫が必要な個所があれば、一方的に要求するのではなく、「○○すると〇〇になるので、その方が良い結果が出るでしょう」と助言という形で伝えればパワハラにはなりません。

解約の強要

加盟店の売上げが不振続きで向上の見込みが困難であるなど、加盟店に営業を続けてもらうメリットがなくなった場合などに、廃業するように圧力をかけるケースなどが該当します。

また、加盟店オーナーが本部の指導方法について批判や意見を提出するなどして、加盟店と本部の関係がこじれた場合などに、オーナーを辞めるよう要求されるなどのケースもあります。本部としては、口うるさく本部を批判するオーナーに辞めてもらい、グループの結束を高めていこうとする狙いがあります。

更新の拒否

契約更新を拒否する場合もあります。やはり、加盟店の売上げが振るわず改善する見込みがない場合は、契約期間の満了を待って契約更新をしないという方法です。パワハラの例としては、①合理的な理由がないのに契約を更新しない、②契約を更新することを引き換え条件にして、無理難題を要求するなどがあります。

フランチャイズ契約書では、「契約期間満了前の一定期日までに、当事者の一方または双方による申入れがないときは、契約は自動的に〇年間延長するものとする」などと定められる例が多く、その場合は、当事者の一方または双方が更新拒否の意思表示をすれば、更新をしなくてよいとも読み取れます。

しかし、契約は、当事者双方の利益を不当に侵害しないことを前提に締結されるということからみると、例え当事者の一方による更新拒否の意思表示により契約解消の形式的要件が満たされたとしても、その意思表示に合理性がなければ、契約を終了させるのは難しいのではないでしょうか。

加盟店は、フランチャイズ契約の締結により、多大な資金を使って開業し、フランチャイズ事業による収益が生活の基盤となっていることは否定できません。したがって、契約の更新を不本意にも拒否されることは、生活基盤そのものを失うことになってしまいます。加盟店の売上げが不振で改善の見込みがないということが、はたして契約を更新しない合理的な根拠となり得るのかは、難しいところです。

本部のパワハラに対処するポイント

本部のパワハラに対処するポイント

それでは、本部のパワハラに対処するには、何がポイントになるかを見ていきましょう。

契約前に契約内容を精査する

1つ目のポイントは、フランチャイズ契約を結ぶ前に、契約内容を精査することです。その理由は、加盟店とフランチャイズ本部とのトラブルは、多くの場合、フランチャイズ契約の内容にかかる場合が多いからです。本部は、加盟店に対し、契約で定めた内容に従って履行することを求めます。仮に、加盟店が契約で定めたことを守らなければ契約違反になる旨を警告し、直ちに是正を図るよう要求します。その過程で、本部の高圧的な言動などがパワハラと捉えられる場合があるのです。

このため、事前にフランチャイズ契約書を十分に読み込んで、疑問箇所は質問するなどして、完全に理解・納得しておくことが求められます。とはいっても、一般的にフランチャイズ契約書は本部がひな形を作成しており、その内容は本部側に有利なものになっている例が多いのが実情です。フランチャイズに加盟するためには、本部側に有利な契約内容に同意して署名する必要がありますが、少なくとも、加盟店がどのような権利・義務を負うのか、契約に違反した場合のペナルティはどのようなものかなどについて、十分に理解しておくことが重要です。

フランチャイズ契約書の内容が頭の中で整理されていれば、本部が無理なことを言ってきても、加盟店がその要求に従う義務があるかないかの法的な判断ができるようになります。

問題点を確認する

実際にパワハラを受けた場合、それに対処するには、問題点の確認が重要なポイントになります。本部から叱られた、批判された、パワハラを受けたなどと感じた場合は、何が問題なのかを確認することが先決です。

パワハラは、自分の地位や権力を背景にして相手を攻撃するものです。しかし、いくら地位や権力を背景にしていても、攻撃の材料がなければパワハラはできません。フランチャイズ本部のスタッフがパワハラをしようにも、事業に熱心に取り組み、工夫して業績を上げている加盟店には、攻撃する材料が見つかりません。

本部がパワハラを行う場合は、売上げが振るわない、集客状況が悪い、客とトラブルがあるなどの問題を抱えている場合に、その問題を取り上げて、「1週間で売上げを倍にしろ」、「通りに出て客を引っ張ってこい」「今日中に手土産を持って客の家に謝りに行け」と横暴な要求を突き付けてくるのです。

したがってパワハラを受けたと感じた場合は、「何が問題だったのか」、「どの問題を口実にされたのか」、についてしっかりと確認することが肝心です。そして、パワハラをされるような問題やトラブルが確かにあると認識できる場合は、一旦良い方に解釈し、これは本部が指導を行ってくれたと受け止めるよう努めます。

逆に、口実にされるような問題やトラブルがない場合は、そのことを本部側にしっかりと説明する必要があります。例えば、店の売上げが順調に伸びているにもかかわらず、「1週間で売上げを倍にしろ」と言われたら、各月の売上額のデータを示して好調に推移している旨をねばり強く説明します。

契約に抵触するか検討する

次に、攻撃の材料にされた問題やトラブルが、フランチャイズ契約に抵触するかどうかを確認します。

売上げが振るわない、集客状況が悪い、客とトラブルになったなどの問題を抱えている場合は、「確かに問題を抱えているが、そのことがフランチャイズ契約に抵触するか」ということを調べる必要があります。フランチャイズ契約に抵触しない問題であれば、本部側がその問題をネタにして高圧的に要求を出してきても、黙って従う必要はありません。

まず、売上不振は、フランチャイズ事業を成功させるために解決しなければならない大きな課題で、本部の指導・助言の対象となります。しかし、加盟店の売上不振が直接フランチャイズ契約違反に該当するかというと、そうではありません。契約内容の定め方にもよりますが、通常は、本部が売上不振を理由に契約を解除することはできません。

ただし、売上げを向上させるために、本部の指導・助言は受ける必要があります。この指導・助言は、あくまでも教示やアドバイスという性格のもので、高圧的に命令されたり要求されたりする次元とは別物です。

2番目の集客状況の悪さも同様で、本部の指導・助言は受けながら、客数を増やしていくことが求められますが、それは店舗経営からみた課題であり、フランチャイズ契約に抵触しているからではありません。

3番目の客とのトラブルですが、トラブルの内容によっては、フランチャイズの信用やブランドに影響する可能性もあるため、慎重に対応する必要があります。トラブルの内容次第では、「今日中に手土産を持って客の家に謝りに行く」ことが必要なケースも否定できません。フランチャイズ店舗にとって、客とのトラブルは、内容次第で大きな問題に発展する場合があるため、ある程度は本部から強い口調で批判されたり要求されたりすることがあるでしょう。しかしそれも、あくまで本部の指導・助言の範囲にあれば許されることであり、それを超えたパワハラには臆する必要はありません。

以上のように、攻撃の材料にされた問題やトラブルが、フランチャイズ契約に抵触するかどうかを確認し、問題・トラブルが契約違反になるおそれがない場合は、パワハラに服する必要はありません。逆に、問題・トラブルを解決するための適切な指導や助言を本部に対して要求することができます。

しかし一方で、攻撃された材料が、フランチャイズ契約に抵触するような問題である場合は、早急に是正・改善措置を講じる必要があります。例えば、唐揚げの加盟店が、指定された調理法を守らずに手抜き調理を行っていた場合は、そのことがフランチャイズの信用やブランド価値を失墜させる契約違反の行為と捉えることができるため、どのように激しく叱咤されても甘んじて受け入れなければならないでしょう。

毅然と対応する

パワハラには、基本的に毅然と対応することが肝心です。本部のパワハラまがいの行為に対しては、①何が問題なのか、相手は何を材料にして攻撃してきているのかを確認する、②その材料がフランチャイズ契約に抵触するのかどうかを検討するの2ステップを踏むことで、しっかりと対処することができます。

フランチャイズ契約違反を問われかねない問題やトラブルに対する本部の批判や叱責、強い要求に対しては、ある程度は許容して受け入れることも必要で、問題やトラブルの早期解決・改善を図ることが先決です。

しかし、フランチャイズ契約に抵触しないような問題を口実にして攻撃してくるパワハラに対しては、まったく従う必要はなく毅然とした対応をとることが求められます。すなわち、契約上問題にならないような点を口実にパワハラを行ってくることは、単なる言いがかりと解釈し、常識的に対応するのが間違いのない方法といえるでしょう。

話合いで解決できなければ法的な解決で

パワハラの厄介なところは、それを行っている側に自覚がない場合もあることです。こちらが注意しても、聞く耳を持たないどころか激高してしまう場合もあります。本部が無理難題を要求し加盟店が拒否した、あるいは、加盟店が行う行為を本部が認めないなどの場合に、話し合いでは解決できず、法的なトラブルに発展するケースがあります。

本部が要求し加盟店が拒否した場合は本部が訴えを起こし、加盟店が行う行為を本部が認めない場合は加盟店が訴訟を提起するパターンが多くみられるところです。

そのような場合でも、自分の方に落ち度がなく相手が無理難題を押し付けていると判断したら、怯まずに必要な手続きを進めていくことが大切です。

加盟店の売上げが振るわず改善する見込みがない場合に、本部がフランチャイズ契約の更新を拒否し、加盟店が納得できずに法的な争いに発展する例もあります。

これまで実際に争われた裁判では、当事者の一方が契約関係を解消させようとして、契約期間満了前の一定期日までに更新拒否の意思表示を行った場合、形式的には契約解消の要件を満たすものの、それだけでは解消が認められず、「契約を解消させてもやむを得ないと認められる事由」「取引関係の継続を期待し難い重大な事由」「正当な事由」が必要であるとする判例が多く存在しています。そして、最近の裁判所は、契約を継続し難いやむを得ない事由がない限り契約更新が原則であると判断する傾向になってきています。

したがって、自分に契約違反などの重大な落ち度がないにもかかわらず契約の更新を拒否された場合、「出るところに出たら負けない」という自信を持つことも必要です。

以上のことからも、合理的な理由がないのに契約を更新しないというケースだけでなく、契約更新を引き換え条件に無理難題を要求するパターンのパワハラに対しては、臆することなく毅然と立ち向かうことが肝心です。

加盟店におけるパワハラの例

加盟店におけるパワハラの例

加盟店におけるパワハラは、一般的な官公庁や企業と同じく、雇用関係上の職位の上下関係から発生するものが多くを占めています。すなわち、加盟店オーナーが部下である従業員やアルバイトに対して行うもの、先輩の従業員が後輩に対して行うものとなります。

攻撃(身体的・精神的)

攻撃は、身体的な攻撃と精神的な攻撃に分けられます。身体的な攻撃は、暴力を振るって相手を攻撃するものです。例えば、フランチャイズ加盟店で、忙しい最中にアルバイトが要領を得ない働き方をしているため、オーナーが、「早くしろ」「もっと沢山運べ」などと言ってお尻を蹴ったり、頭を小突いたりすれば、相手の受け止め方次第ではパワハラになってしまいます。

精神的な攻撃は、言葉の暴力で相手を追い詰めていくものです。加盟店オーナーが従業員に対して、「そんなことも知らないで頭が悪いな」「親にどういう育てられ方をしたのだ」と暴言を吐くなどのパターンです。精神的なパワハラは、相手の人格を否定して心に傷を付ける場合があるため、絶対に行わないように気を付ける必要があります。

要求(過大・過小)

過大な要求は、相手の能力を超えて過大な要求を行うパワハラです。例えば、飲食店オーナーが部下に対し、大量の皿洗いを短時間で行わせる、大人数の料理を1人で調理させる、営業時間が終わった後1人で店全体の清掃をさせるなどはパワハラに該当します。

一方、過小要求は、相手の能力に見合った仕事を与えないパワハラです。飲食店オーナーが、調理士免許を持つ調理人に清掃ばかりやらせる、気に入らない従業員に仕事をさせないなどが該当します。

切り離し

加盟店でも、切り離し型のパワハラは起こり得ます。オーナーが特定の従業員だけを標的にして、必要な情報を与えない、話をせず無視するなどをすると、パワハラに該当する可能性があります。

また、特定の従業員を自分と切り離すだけでなく、他の従業員とも離そうとするのも同じです。特定の従業員だけ仲間外れになるよう仕向ける、1人だけ席を遠くに移すなども問題となります。

個の侵害

個の侵害は、相手の個人領域=プライバシーを侵す行為です。プライバシーの侵害は、侵害の種類や程度により、単なる迷惑行為から果てはストーカー並みの行為まで、非常に幅が広くなっています。

例えば、勤務時間外に加盟店オーナーが従業員に電話をかけて仕事の話をするなどは、迷惑行為で収まるかもしれません。しかし、従業員に対し、休日に何をしていたか、誰と会っていたかなどをしつこく尋ねるのは、個の侵害に該当します。さらに、勤務時間外に従業員を尾行する、従業員の住居を見張るなどは、ストーカーとみなされても仕方がない行為です。

自身がパワハラしないためのポイント

自身がパワハラしないためのポイント

それでは、加盟店オーナー自身がパワハラしないためのポイントをみていきましょう。

叱るのでなく育てる

自分が部下に対してパワハラをしないために気を付けるポイントはいくつかありますが、それらの土台となる考え方が、「部下を育てる」ということです。

フランチャイズに限らず一般の企業でも同様ですが、上に立つ者は、業務の進捗状況や営業成績などが頭の中の大分を占めていることから、業務の進捗に遅れが生じた場合や営業成績が振るわないときに、部下を叱咤しがちになります。それは、部下を叱って業務の遅れを取り戻そうとする、または営業成績を上げようとする動機から来るもので、いわゆる仕事熱心が高じてパワハラに繋がる場合があるわけです。初めから部下をいじめることが目的のパワハラも確かにありますが、パワハラの多くは、このように仕事をうまく進めようという気持ちが勇み足となって起こるのです。

仕事をきちんと進めよう、業績を上げようという気持ちは決して間違ってはいませんが、そこに1つ欠けているものがあります。その欠けているものが、人を育てる=人材育成という考え方です。

フランチャイズでも一般企業でも、店や会社の業務を確実に進め、業績を上げるのは従業員である人です。その人間を育てることをしなければ、業務の円滑な進捗や業績の向上を期待することは困難です。人間はロボットや機械ではないため、初めは仕事を迅速に進めることができません。また、物を沢山売って業績を上げることもできません。初めはできなくても失敗を糧にして自己学習し、上司や先輩社員から仕事のコツや経験談などを教わることで、次第に1人前の従業員になっていくのです。

このことから、仕事がうまくいかなかったときや業績が振るわなかった場合に、単に部下を叱るのではなく、早く1人前の従業員として仕事や営業を立派にできるよう部下の育成に力を入れるという考え方を持つことが重要です。

「叱るのも育てるうちだ」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。そのとおりで、部下を育てる場合に叱ることが必要な場合も確かにあります。肝心なのは、単に怒りに任せて叱るのではなく、「よく覚えておけ。もう同じ失敗はするなよ」と、あくまでも部下を育てる動機を気持ちの底に置くことが肝心なのです。

「部下を育てる」という思いを常に持っていると、仮に部下を叱らなければならない場合でも、自然とパワハラにはならないものです。

客観的な視点から指導する

2つ目は、客観的な視点から指導することです。客観的な視点とは、物事を第3者的な視点から見るということです。戦場で自分が相手と戦っているとしましょう。その戦いを、別の人間が丘の上から見る、上空を飛んでいる鳥の目で見るということで、自分の主観を挟まないということです。その理由は、自分の主観を入れてしまうと、考え方に柔軟性がなくなるとともに、気持ちが熱くなり過ぎてしまうからです。

例えば、加盟店のオーナーが仕事の進め方について従業員を指導する場合、自分の考えを熱く語る人がいますが、その場合に相手の理解が得られないと、その熱い気持ちが怒りに変わっていき、最後はパワハラ的な攻撃になってしまうことがあります。そうなる原因は、オーナーが自分の考えを主観的に捉え、「自分の考えは間違っていない。何が何でも教えてやらなければ」などと思い込んでいることです。そのため、自分の考え方に対して相手の理解が得られないと、気持ちが熱い分次第に激高して、最終的に殴ってしまうなどのパワハラに及んでしまうのです。

このことからも、部下を指導する際は、自分を無関係の第3者に置き換えて、「このオーナー(自分)の言っていることは、どうなのだろうか。部下の行動は、間違っていたのか」と冷静になって考え直してみることが大切です。

そのように、客観的な視点から見る習慣をつけると、「自分の考えはもちろんよくわかるが、相手の言うことも一理あるな」と、柔軟な思考ができるようになります。柔軟な思考ができるようになると、自分の考えに凝り固まって熱く指導することも減っていくはずです。

共に考える姿勢で指導する

3つ目は、共に考える姿勢で指導することです。人間の能力には限りがあり、いくら経験を積んだ人間でも、考え間違いや思いつかないことが多くあります。フランチャイズの仕事も同様で、加盟店オーナー1人の能力には限度があります。仕事のことで部下を指導する際も、自分が絶対に間違っていないということはあり得ず、実際に間違った指導を行ってしまう可能性も多々あります。

しかし逆に、部下の指導で、自分の考えに自信が持てないあまり、はっきりと内容を伝えることができないのも大きな問題です。

したがって、指導の際は、しっかりとした自分の考えや意見を持つことが前提ですが、相手の声にも耳を傾け、一緒に考える姿勢を持つことが重要です。これは、単に相手の声に耳を傾ける姿勢=ポーズをとる方が良いという意味ではなく、相手に良いアイデアや素晴らしい考えがないかどうか本気で情報収集を行うということです。

1人で考えるより、2人・3人で考える方が良いアイデアや思考が生まれる可能性が高いことからも、仕事上の問題解決や改善を図ろうとする場合などは、共に考える姿勢を持ちながら指導を行うことが重要です。

人格を否定しない

人格を否定しないことも重要なポイントです。人格の否定は、精神的な攻撃に区分され、具体的には次のような行為になります。

①人間の本質的な部分を否定する

人間の本質的な部分である身体、性格、能力などを否定するもので、例えば、「顔が悪い」、「背が低い」「性格が悪い」「育ちが良くない」、「頭が悪い」などの言葉が該当します。

②私生活を否定する

相手の私生活を否定・批判するもので、例えば、「どうせデートする相手もいないようだから、日曜日でも出勤できるだろ」「こんなこともできなくて、どのような家庭で育ったのだ」「君と一緒に食事に行ってくれる人がいるなんて、慈善家みたいだ」などが該当します。

③否定的な言葉を発する

バカ、無理、無駄、ダメなど否定的な言葉を発して相手を傷付けるもので、例えば、「何もできないバカな奴だ」「君と一緒に組むのは死んでも無理」「君と話しても時間の無駄だ」「ダメって何回言ったらわかるの。本当にダメ人間ね」などが該当します。

相手の人格を否定する人は、実は自分に自信がなく相手を嫉妬しているケースがあります。その自信のなさや嫉妬心を隠すために、相手に対して攻撃的になるのです。部下の人格を否定しても、良いことは一つもありません。部下の心は深く傷付き、気持ちはあなたから離れていってしまいます。乱暴な言葉を吐いたオーナーである自分も、気持ちが晴れたかというと、そんなことはありません。部下に対し、言ってはいけないことを言ってしまったという後悔の念に縛られ、それ以降はその部下とまともな会話ができなくなってしまうかもしれません。そのようなことを続けていると、優秀な従業員が育たず、他の仕事に逃げて行ってしまう可能性もあります。仮に店に残ってくれても、パワハラを行う上司の下ではモチベーションも上がらず、とても良い仕事は期待することができません。挙句の果ては、そのような職場の空気が影響して、客足が減って売上げが伸びず、フランチャイズ事業を続けていくことが難しくなってしまうかもしれません。

仕事がうまくいかずストレスが貯まっているときに、部下がミスをしてしまうと、つい言葉使いが乱暴になってしまうことがありますが、そのような場合には、一旦深呼吸をして心を落ち着けることが肝心です。

部下がミスした場合は、「部下も一生懸命やっている」という言葉を胸の内で反芻してみると、相手の人格を否定するような言葉の暴力もなくなります。

プライバシーを侵害しない

プライバシーを侵害しないことは、極めて重要なポイントです。人は、単にきつい小言を言われるだけの場合に比べ、自分のプライバシーを侵される方が何倍もの恐怖心を抱きます。プライバシーは、例え親子や夫婦であっても、侵すことが許されない砦のようなものです。プライバシーの侵害には、私生活の侵害や個人情報の漏えいなどがあります。

例えば、加盟店の従業員が勤務を終了して帰宅した後、オーナーが仕事上の要件で従業員の自宅または携帯に電話を入れるのは問題ありませんが、仕事上の必要がないにもかかわらずしつこく電話をするなどは問題となる場合があります。

①仕事に関係ない要件の電話は慎む

仕事に関係がない話で、やたらと部下の自宅に電話を入れることは、部下の私生活を侵す行為に該当する可能性があります。

②急ぎでない要件の電話は慎む

特に急ぎではない、翌日でも間に合うような要件で電話を入れることは慎みましょう。

また、他人に知られたくない個人情報を漏えいすることも、プライバシーの侵害に当たります。加盟店オーナーが、従業員の学歴や住所、年収などの個人情報を他人に漏らすこと、ネット上に従業員の写真を勝手に掲載することは、プライバシーの侵害となります。

その他、加盟店でプライバシーの侵害に該当する可能性がある行為には、以下のものがあります。

①従業員に勤務時間外の行動を申告させる

従業員の勤務時間外の行動は完全な私生活であり、それを探ろうとすることはプライバシーの侵害に当たる可能性があります。

②従業員の机の中を調べる

業務上の必要性があり適切な方法で行えば、プライバシーの侵害にはなりません。しかし、好奇心や嫌がらせの目的で行えば、プライバシーの侵害に該当します。

③従業員に身長・体重の申告を求める

加盟店オーナーは従業員を雇用している関係から、その健康状態は常に把握することが必要です。しかし、健康状態に関係がない身長や体重を知ろうとするのは、プライバシーの侵害に当たる可能性があります。

④店内に盗聴器を仕掛ける

仕事場であれば問題ないでしょうが、更衣室やトイレに仕掛けるとプライバシーの侵害に該当します。

⑤従業員に来たメールを勝手に見る

加盟店の備品であるパソコンに来た従業員宛のメールをオーナーが勝手に見ても、問題はありません。加盟店のパソコンは仕事用に設置してあるもので、業務連絡のメールを見てもプライバシーの侵害にはならないからです。しかし、従業員の個人携帯を勝手に開いてメールを見ることは、プライバシーの侵害です。

プライバシーを侵害しないためには、加盟店オーナー自らが常に注意を怠らないようにする必要がありますが、職場内の誤解やトラブルを避けるために、従業員に対し、事前に以下の点を説明しておくと良いでしょう。

  1. 仕事上必要で急ぎの場合は、勤務時間外に電話連絡することがある
  2. 仕事上必要で急ぎの場合は、適切な方法で、従業員の机の中を調べることがある
  3. 加盟店の業務用パソコンに来たメールは、本人以外でも閲覧することがある
  4. 客とのトラブル防止や接客状況を把握するため、店内に盗聴器を設置することがある

日頃からコミュニケーションをとる

最後のポイントは、日頃から部下とコミュニケーションをとることです。コミュニケーションは、職場で仕事を快適に楽しく行うために不可欠のものです。コミュニケーションは、仕事に必要な情報を相手に伝え共有する、作業の段取りを事前に打ち合わせておくことでスムーズに進行させるなどの役割を持っていますが、そればかりではなく、時に笑い話をしたり冗談を言い合ったりして、職場の雰囲気を和やかにしてくれる効果があります。

さらに重要なのは、コミュニケーションをとることによって、相手の人柄や考え方、価値観などを理解することができることです。「この人は、こういう考え方なのか」、「あの人は、やり甲斐を大切にしているのね」など、会話を通じてお互いを理解し合うことが可能になるのです。

パワハラの難しい点は、された人はパワハラだと感じているが、行った方はパワハラとは思っていないところです。往々にして、普段はこまめなコミュニケーションをとろうとしない人が、突然部下に対して、ああしろ、こうしろと言い始め、それがパワハラと受け止められてしまうことがあります。

日頃からコミュニケーションをとっていないため、部下にはこの上司が何を考えているのかがよく分からないことも原因です。これが、いつも周囲との意思疎通を大切にしている上司であれば、部下はその上司の考え方や価値観をよく理解しているので、多少きついことを言ってもパワハラにならないケースもあります。

さらに、普段から部下とよく会話していれば、逆に部下の考えや行動を理解できるので、きつく命令を下す必要はなく、普通に伝達すれば済むということもあります。

いずれにしても、パワハラは、昨日まで楽しかった職場である日突然発生するというものではありません(例外として、人事異動で新しい上司が来た途端に、パワハラが始まるというケースはありますが)。パワハラが起きるのには、その起きる下地があるのです。

その下地の多くは、普段からコミュニケーションがあまりとられず風通しの良くない職場で、上司が何を考えているかを部下がわからない、逆に部下が思っていることを上司が知らないという世界でしょう。そのため、職員のモチベーションが上がらず不満を抱えながら仕事を行っており、その仕事でミスがあって叱る際に、上司は部下のことに構っていられない、部下も素直になれないなどの要因が重なり、ついに上司の堪忍袋の緒が切れて暴力沙汰になるという展開は大いに可能性があります。

常日頃から、コミュニケーションをとり風通しの良い職場にしておけば、お互いが相手の考えていること、思っていることをある程度わかる社会となり、パワハラが発生する確率は格段に下がるでしょう。

まとめ

フランチャイズ本部のパワハラに対処するポイント

フランチャイズ本部のパワハラに対処するポイントは、①契約前に契約内容を精査する、②問題点を確認する、③契約に抵触するか検討する、④毅然と対応する、⑤話合いで解決できなければ法的な解決で、となります。

フランチャイズ本部のパワハラは、フランチャイズ契約の内容に関わる場合が多く、そのため、①契約前に契約内容を精査しておくことが重要になります。また、実際にパワハラを受けた際は、②問題点を確認した後、③契約に抵触するか検討することが必要です。

そこで、契約に抵触しない問題をネタにしたパワハラには、④毅然と対応することが肝心です。しかし、契約違反などの大きな問題を抱えている場合は、多少のパワハラは容認し、問題解決を図ることを優先します。そして、⑤話合いで解決できなければ法的な解決に移りますが、過去の裁判事例などを勉強しておけば、本部の不当な要求に負けない力を付けることができるでしょう。

加盟店オーナーがパワハラしないためのポイントは、①叱るのでなく育てる、②客観的な視点から指導する、③共に考える姿勢で指導する、④人格を否定しない、⑤プライバシーを侵害しない⑥日頃からコミュニケーションを取るとなりますが、この中で最も重要なポイントは、⑥日頃から、こまめにコミュニケーションをとり、皆で助け合って楽しく仕事ができる職場を創っておくことでしょう。