不動産フランチャイズを始めるための5つのポイント

不動産業を始める際に個人で開業するか、会社を設立するかで悩むこともありますが、不動産フランチャイズの加入を検討するのもおすすめです。不動産業は、他の業界と比べて業者の信用度が重視されるため、周知度の高い有名なフランチャイズへの加入は大きなメリットがあります。

そこで本記事では、不動産フランチャイズの特徴や、メリット・デメリット不動産フランチャイズを始めるために重要となるポイントを詳しく紹介しています。不動産業の開業に関心がある方は、ぜひ参考にしてください。

不動産フランチャイズとは

不動産フランチャイズの主な仕事は、以下の通りです。

①売買仲介

売買仲介は、不動産の売主と買主、両当事者の間に立ち、話をまとめて契約を成立させる業務です。具体的には、売主の所有する不動産物件の査定を行い、売主と不動産取引の仲介契約を結んだ上で販売価格を決定します。その後、販売物件を宣伝広告し、買手が現れたら、売主・買主の間に立って交渉をまとめ売買契約を成立させます。

その間には、買手を物件の下見に案内する、販売価格の交渉を行う、売買契約の締結や物件の引渡し・清算に立ち会う、などの業務を行います。不動産売買が成功したら、仲介契約で定めた手数料を受け取ります。この仲介手数料が、フランチャイズ加盟店の収入になるわけです。

仲介手数料は、不動産の売主または買主から受け取りますが、売主・買主双方と仲介契約を結んでいる場合は、双方から受け取ることができます。

売買仲介の業務内容を整理すると、以下の通りです。

  • ㋐売却物件の査定
  • ㋑売主と仲介契約を結び、販売価格を設定
  • ㋒売却物件の販売活動(宣伝広告)
  • ㋓買手が見つかったら、物件説明、現地案内
  • ㋔売買契約の締結・手付金の授受立会
  • ㋕物件の引き渡し・清算の立会

②建物管理

建物管理は、不動産の所有者との契約に基づき、物件をハード面から管理する業務です。
建物管理の対象は、主に、アパートやマンションなどの集合住宅が多く、物件のオーナーやマンション管理組合などが契約相手となります。

建物管理の業務内容は、以下の通りです。

  • ㋐玄関オートロック点検
  • ㋑エレベーター点検
  • ㋒給水ポンプ・給水タンク点検・清掃
  • ㋓定期清掃
  • ㋔建物全体の目視点検 など

建物管理では、主に集合住宅の共用部分のメンテナンスを定期的に行い、建物オーナーや管理組合に報告書を提出します。建物管理の対価として、管理料を受け取ります。

③賃貸管理

賃貸管理は、賃貸不動産の所有者との契約に基づき、物件をソフト面から管理する業務です。賃貸管理の対象は、賃貸用不動産であるため、契約相手は賃貸物件のオーナーとなります。

賃貸管理の業務内容は、以下の通りです。

  • ㋐滞納家賃の督促・集金
  • ㋑建物・設備(1戸建ては、屋根・外壁・給湯器・上下水道など、集合住宅は、専用部分の給湯器・エアコンなど)の修繕・交換(業者を手配)
  • ㋒入居者からのクレーム対応
  • ㋓賃貸契約の更新
  • ㋔退去時の清算・リフォーム(業者を手配)
  • ㋕賃貸収支の管理など

賃貸管理では、本来は物件オーナーが行う仕事を代行して、管理料を受け取ります。

④募集

募集は、賃貸不動産の所有者(貸主)との契約に基づき、入居者を募集する業務です。具体的には、貸主の所有する賃貸物件について、貸主と相談して家賃額を決め、物件の宣伝広告を行います。借手が現れたら、貸主・借主の間に立って交渉をまとめ賃貸契約を成立させます。

その間には、物件の下見に借手を案内する、家賃額の交渉を行う、賃貸契約の締結に立ち会うなどの業務を行います。

募集の業務内容を整理すると、以下の通りです。

  • ㋐物件の貸主と相談して家賃額を設定
  • ㋑入居者の募集活動(宣伝広告)
  • ㋓借手が見つかったら、物件説明、現地案内
  • ㋔賃貸契約の締結立会
  • ㋕保証金・家賃の授受立会

通常、この募集業務は単独で受けることは稀で、多くの場合③賃貸管理とセットになっています。すなわち、賃貸物件の入居者募集を請け負う業者が、その後の賃貸管理も行う例が多いのです。

不動産フランチャイズのメリット

次に、不動産フランチャイズのメリットについてみていきましょう。

商号を利用できる

不動産フランチャイズに加入する大きなメリットは、フランチャイズの商号を利用できることです。信用力が顧客獲得に大きく影響する不動産業界では、周知度が高い有名なフランチャイズの商号を利用できるメリットは計り知れません。

誠実で熱意を持っていても、周知度が低い不動産業者では、不動産取引の当事者が安心して仲介や管理を依頼することが困難です。認知度が低い業者が顧客を増やしていくには、長い年月をかけて実績を作り、周知度や信用度を高めていくほかありません。

一方、社会的な周知度が高い有名フランチャイズであれば信用力もあり、開業当初であっても、顧客が自分の大切な不動産や資金を安心して任せることができると考えてくれます。

経営ノウハウが提供される

フランチャイズ本部は、以下のように、不動産業を経営するための豊富なノウハウや経験を持っています。

  1. 効果的な集客・折衝方法
    • ・広告媒体の選択、広告のタイミング
    • ・電話のかけ方やタイミング
    • ・顧客に媒介契約(正式な依頼)を結んでもらう営業方法
    • ・顧客に売買契約を結んでもらう営業方法
    • ・顧客に入居契約を結んでもらう営業方法
  2. ジャンル別の業務遂行ポイント
    • ・不動産査定の要領と注意点
    • ・売買仲介の要領と注意点
    • ・建物管理の要領と注意点
    • ・賃貸管理の要領と注意点
    • ・募集の要領と注意点
  3. 従業員の教育方法
  4. 必要経費の削減方法
    • ・人件費の削減方法
    • ・光熱水費の削減方法
  5. 顧客からのクレーム対処法
  6. 顧客とトラブルになった場合の対処法 など

不動産フランチャイズに加入すれば、上記のようなフランチャイズ本部の持つ豊富なノウハウや要領、注意点などを利用することができます。

経営モデルを利用できる

経営モデルは、「店舗の立地や規模別に、通常であれば、売上額や必要経費はどの程度想定され、利益がどの位残るか」という標準的な経営のひな形です。不動産フランチャイズの本部は、このような経営モデルを持っており、随時、加盟店に提供してくれます。

加盟店オーナーは、自分の店舗の立地や規模と照らし合わせ、標準的な経営モデルを目標に店舗運営を行えばよいわけです。

個人経営で不動産業を始めるとしたら、このような経営モデルがどこからも提供されないため、初めのうちは試行錯誤を重ねながら店舗運営を行っていかなければなりません。しかし、フランチャイズで開業すれば、経営モデルを当面の目標にすることができるため、店舗運営における試行錯誤や失敗の危険を回避することができます。

Webシステムを利用できる

不動産フランチャイズでは、物件情報や顧客情報、それらにかかる商談や契約の履歴・内容関連業者の情報などを一元的に管理できるWebシステムが普及しています。

このWebシステムは、加入時に導入が必須となっているフランチャイズもあれば、加盟店オーナーの判断に任されているところもあります。Webシステムを導入・利用する場合は、本部に一定の利用料を払うことになります。

不動産事業は、必要なデータをいかに迅速に取り出して利用できるかが、営業を円滑に進めるための非常に重要なポイントになります。不動産フランチャイズに加入すれば、不動産業における強力な武器であるWebシステムを利用することができます。

強力なサポートがある

不動産フランチャイズでは、店舗運営でいざという時に、本部がサポートしてくれることも大きな強みです。不動産業では、店舗運営上、以下のように様々な問題やトラブルが生じます。

  1. 集客が伸びない
    • ・不動産の売手がいない、買手が集まらない
    • ・不動産の貸手がいない、借手が集まらない
    • ・不動産管理の依頼がない など
  2. 集客できても、契約締結に至らない
  3. 資格を持った専門スタッフが確保できない
  4. 人件費など必要経費がかかり過ぎる
  5. 顧客同士にトラブルが発生
  6. 管理していた建物で事故が発生 など

個人経営の不動産業者は、上記のような問題やトラブルが生じた場合には、試行錯誤しながら独力で解決していかなければなりません。しかし、不動産フランチャイズに加入していれば、店舗が抱える様々な問題やトラブルに対し、本部の経験豊富なスタッフが問題解決のためのサポートを行ってくれます。

不動産フランチャイズのデメリット

次に、不動産フランチャイズのデメリットについてみていきましょう。

加盟金がかかる

不動産フランチャイズに加入するには、フランチャイズ本部に加盟金を支払う必要があります。加盟金の額は、加入するフランチャイズにより異なりますが、おおむね200万円程度が相場となっています。

ロイヤリティがかかる

ロイヤリティは、フランチャイズの商標使用料です。フランチャイズに加入すると、フランチャイズの商号や屋号を利用できますが、ロイヤリティはその対価として、毎月フランチャイズ本部に支払う金額です。ロイヤリティの算定は、毎月定額でかかる固定制売上の〇%を支払う変動制とがあります。

算定方式は、フランチャイズによって異なりますが、金額でおおむね10~30万円程度が相場となっています。

出店エリアが制限される

不動産フランチャイズでは、加盟店の出店エリアが制限される場合があります。これは、加盟店の営業区域が重なり競合してしまうのを避けるためです。不動産フランチャイズを選ぶ際は、自分が希望する地域に出店することができるかを確認することも重要です。

本部の方針に従う必要がある

フランチャイズには、それぞれの営業戦略や経営方針があるため、フランチャイズに加入すると、その方針に従う必要があります。不動産フランチャイズでは、本部の営業戦略や経営方針に逆らった営業はできないと認識しておく必要があります。

(例1)営業内容が適合しない場合

Aさんは、不動産会社に勤務した経験があり、不動産関係の資格も持っています。Aさんは、会社を辞めて独立する際に、とりあえず不動産の賃貸管理業を展開するフランチャイズに加入しました。

Aさんは、その後賃貸管理の事業が軌道に乗ってきたため、売買仲介の分野にも手を広げたいと考えるようになりました。そのため、売買仲介の事業計画を作り、フランチャイズ本部に打診しましたが、本部から了解を貰うことができませんでした。

これは、加盟店オーナーが事業分野を広げようとしても、加入しているフランチャイズの営業内容に適合しなかった例です。このような場合は、将来計画を十分に検討し、当初から賃貸管理と売買仲介の両方を扱っているフランチャイズに加入するのが正しい選択です。

(例2)売買仲介フランチャイズの場合

Bさんは、不動産の売買仲介業を展開するフランチャイズに加入しています。当フランチャイズの営業マニュアルでは、顧客への物件案内は、必ず従業員2名で行うとされています。案内役が2名の理由は、1名が車の運転役、他の1名が顧客への説明役であること、および物件内に立ち入るため従業員の安全性を考慮しているとのことです。

しかし、Bさんは、自分は男であり1名でも不安がないこと、人件費を節約するために従業員数を最低限にしたいことなどを理由として、自分1名で案内できる旨を提案しましたが、本部の了解は得られませんでした。

これは、物件案内の方法について、本部と加盟店オーナーとの考え方に違いがある例です。
本部が了解しない理由は、1名で案内をする場合、車の運転をしながらでは物件の説明が十分にできないこと、物件内で従業員が犯罪に巻き込まれた場合に、フランチャイズの信頼や評価に大きく影響してしまうことなどです。

不動産フランチャイズを始めるためのポイント

次に、フランチャイズを始めるためのポイントについてみていきましょう。

「何をやるか」を決める

不動産フランチャイズを始める場合は、まず「何をやるか」を決めることがポイントとなります。一口に不動産業といっても、その幅は非常に広く、上でみたように様々な事業ジャンルに分かれています。

  1. 売買仲介
  2. 建物管理
  3. 賃貸管理
  4. 募集

上の各ジャンルで、どの事業をやりたいか、自分の能力や経験と照らし合わせてどの事業に適性があるかを見極めることが非常に重要です。

それでは、どの事業ジャンルをやるかを決めるに際しての注意点をみていきましょう。

①売買仲介

売買仲介は、不動産業のメインに位置付けられるジャンルです。しかし、不動産取引は売買金額が大きく、売主、買主ともに失敗が許されない人生の一大事業と捉えているため、間違いが許されないシビアな業務といえます。

まず、不動産取引や契約、税金についての法律的・専門的な知識が必要となります。不動産は、その売買のやり方次第で税額が変わる場合があるため、売主、買主に適確なアドバイスを与えることが仕事となります。また、その時々の社会・経済情勢や不動産相場などを勘案しながら、売買価格や値引き額などについて、売主・買主に有益なアドバイスや注意喚起を行うことも重要です。

さらに、売買契約でトラブルが発生した場合は、法律の専門家を紹介するなど、迅速かつ適確な措置を講じなければなりません。

売買仲介を業務とするには、宅地建物取引士および宅地建物取引業の免許が必要です。
宅地建物取引士は不動産の売買・仲介を行う場合に、また、宅地建物取引業免許は宅地建物取引業を営むために必要な資格です。

売買仲介は、不動産業界に勤めた経験があり資格を持っている、不動産取引の豊富な経験があるなどの方を除いては、初めからオーナー自身が担当するのではなく、経験豊富な有資格者を雇用して営業する方が安全です。

②建物管理

建物管理は、不動産物件をハード面から管理する業務です。管理の対象は、アパートやマンションなどの集合住宅が中心で、建物の共用部分の維持管理が仕事となります。玄関オートロック点検やエレベーター点検、給水ポンプ・給水タンク点検・清掃など、電気・機械、水道・配管などの専門的な知識や技術が必要となる業務です。

必要な資格は、マンション管理士や管理業務主任者となります。マンション管理士、管理業務主任者ともに、建物オーナーや管理組合に対して、適宜・適切に集合住宅の維持管理について報告やアドバイスを行う必要があります。

なお、フランチャイズによっては、技術的な対応が困難な場合にサポートを行ってくれるところもあります。

建物管理は、①の売買仲介と同じく、技術や経験を必要とするジャンルであるため、経験豊富な有資格者を雇用して、点検や管理については自店対応できる体制を整えることが必要です。しかし、それは、不具合発見時の交換・修繕のすべてを自分の店舗で行うことではありません。設備の不具合発見時の交換・修繕は、建物管理業務の範囲外となります。

(例)
マンションの建物管理を請け負う業者Aは、共用部分の設備(玄関オートロック、エレベーター、給水タンクなど)の点検を請け負っています。定期点検の際に、エレベーターと給水タンクに不具合を発見したため、社内で検討した結果修繕が必要と判断し、その旨をマンション管理組合に報告しました。

建物管理業者Aから報告を受けたマンション管理組合は、組合の理事会で両設備の修繕を行うことを決定しました。このため管理組合は、設備の修繕ができる業者(電気工事や水道工事の専門業者など数社。技術・資格があれば、Aも加わることは可能)に見積合せを実施し、それぞれの設備について修繕依頼する業者を決定しました。

③賃貸管理

賃貸管理業務は、賃貸住宅の管理を請け負う仕事です。入居者が家賃を滞納した場合の督促や集金、賃貸している建物・設備にトラブルが生じた場合の修繕・交換、入居者からのクレームがあった場合の対応、入居者退去時の家賃・保証金の清算、リフォーム、毎月の賃貸収支管理などが仕事となります。

建物・設備が故障した場合の修繕・交換や退去時のリフォームなどは、専門業者に連絡手配して工事してもらうのが一般的です。

賃貸管理業務は、①売買仲介、②建物管理に比較すると、ハードルが低いジャンルです。
滞納家賃の督促・集金や建物・設備の修繕・交換の手配、クレーム対応などは、法的なトラブルに発展しない限りは、未経験者でも対応が可能です。

また、賃貸収支の管理は、賃貸住宅の所有者に代わって、毎月の家賃・礼金などの収入と必要経費を記帳・管理する仕事で、特別な知識や資格は不要です。

賃貸管理を行う上で重要なことは、入居者から設備故障の連絡やクレームがあった場合に、迅速かつ誠意をもって対処することです。また、家賃滞納が発生した場合も、滞納が累積してしまう前に、可能な限りスピーディーかつ小まめに督促を行い解消することが肝心です。

④募集

募集業務は、賃貸住宅の入居者を募集する仕事です。まず、物件の所有者と相談して家賃額を設定し、宣伝広告を行います。入居希望者が現れたら、物件の紹介や案内を通じて賃貸契約を成立させます。

募集業務は賃貸の仲介ですが、売買の仲介と異なり、未経験者でも対応可能なジャンルです。募集業務は、通常、③の賃貸管理とセットで営業している例が多いこともあり、開業するなら、③賃貸管理と④募集の両方を取り扱う方法も候補となります。

「事業のスケール」を決める

2番目のポイントは、「事業のスケール」を決めることです。開業にあたり、事業のスケールを決めることは極めて重要です。なぜなら、事業のスケールにより、開業資金や開業後の運営経費が大きく違ってくるからです。

事業のスケールとは事業の範囲・規模であり、具体的には次のものをいいます。

  1. 難しい業務を取り扱うか、取り扱わないか
  2. 営業範囲を広くするか、限定するか
  3. 取扱物件を広くするか、限定するか

①難しい業務を取り扱うか、取り扱わないか

ここでいう難しい業務とは、上でみてきた「売買仲介」および「建物管理」の仕事です。
これらの業務は、専門的な知識や技術、資格、経験などが必要とされ、未経験者だけでは対応が困難です。

このため、売買仲介や建物管理のジャンルを取り扱うのであれば、それぞれのジャンルに応じた有資格者を雇用することになります。従業員数が増えれば、広い営業所が必要になり、事業規模も大きくなります。

逆に、売買仲介や建物管理などの専門的なジャンルを取り扱わないのであれば、有資格者の雇用も必要なくなり、加盟店オーナー1人だけで開業することが可能となります。この場合、自宅を営業所にして1人で開業ということで、営業場所の賃借に要する経費を節約できます。

②営業範囲を限定するか、広くするか

営業範囲をどうするかによっても、事業の範囲・規模が異なってきます。極端な話ですが、営業範囲を日本全国と広く設定すれば、それなりの量の仕事を受注できる可能性があるため、従業員にかかる人件費なども増えます。

逆に、営業範囲を周辺地域などのように狭く限定すれば、従業員なしで開業することも可能です。なお、フランチャイズによっては、営業範囲に規制をかけているところもあるため、事前に確認しておく必要があります。

③取扱物件を限定するか、広くするか

不動産事業の取扱物件は、以下のように様々です。

  • ㋐土地のみ
  • ㋑建物のみ
  • ㋒1戸建て住宅
  • ㋓1棟アパート・マンション
  • ㋔区分所有マンション
  • ㋕商業店舗
  • ㋖オフィス
  • ㋗駐車場

取扱物件は、業務のジャンルによっても制約を受けます。売買仲介や賃貸管理では、ほとんどの種類の不動産を取り扱うことができますが、建物管理ではアパートやマンションなどの集合住宅が主な対象となります。

多様な種類の不動産のうち、そのすべてを取り扱うのか、それとも、マンションなど特定の種類に限定して専門性を高めていくかを決める必要があります。取り扱う不動産の種類を広く設定すれば、それだけ受注件数が増える可能性があり、従業員の雇用が必要になります。逆に、取り扱う不動産の種類を限定すれば、オーナー1人による開業も視野に入ってきます。

「フランチャイズ」を選ぶ

「何をやるか」と「事業のスケール」を決めたら、フランチャイズ選びに進みます。数ある不動産フランチャイズのうち、どこに加入するか。その選び方も重要なポイントです。

ここでは、フランチャイズ選びの注意点をみていきましょう。

①自分の計画にマッチしたフランチャイズを選ぶ

同じ不動産フランチャイズでも、その業態や経営方針などは様々に異なっています。

例えば、不動産の売買仲介に力を入れているフランチャイズや建物管理を中心に運営しているフランチャイズなど、その営業ジャンルは多様です。また、同じ売買仲介でも、1戸建て住宅を得意としているフランチャイズもあれば、マンション取引に重点を置いているところもあります。

自分が建物管理の分野に詳しく、ハード管理を中心に営業したいと計画していたにもかかわらず、売買仲介に重点を置くフランチャイズに加入してしまったら、自分の思い描いていた青写真を完成させることが難しくなってしまいます。

フランチャイズ選びでは、加入後に自分が何をやりたいのか、自分にはどのような計画があるのかなどをしっかりと認識し、自分の計画に適合するフランチャイズを選ぶことが重要です。

②集客力があるフランチャイズを選ぶ

集客力が優れていることは、不動産フランチャイズ選びの最も重要なポイントです。

不動産売買は巨額の資金を投じることから、当事者は間違いが許されない状況に置かれています。また、不動産賃貸は、売買に比べて動く資金は小さいものの、借り手の生活拠点移動という大事業を伴うもので、これもまた失敗ができません。
さらに、建物管理では管理ミスが重大な事故に繋がる危険があり、賃貸管理でも家賃など大切なお金の管理を任せることになります。

このように、売買や賃貸など不動産の契約行為を行うこと、また、不動産の管理を任せることは、それらの当事者にとって、大きな決断を必要とするとともに、間違いがあってはならないものです。

このような重要な分野の仲介・管理を任せる不動産業者について、当事者は、「信用力がある業者であれば間違いがない」と考える傾向にあります。悪徳業者に騙されないためにも、また、実力がない業者に任せて後悔しないためにも、「不動産業者は信用が第一」と当事者は思っています。

このような当事者の思いが背景としてある中で、有名大手の不動産フランチャイズは、テレビ・新聞・雑誌・広告・ネットなど様々な広告媒体を使って大規模な宣伝広告を行い、集客を図っています。

そのため、有名大手の不動産フランチャイズは周知度が高く、有名になるにつれて信用度も上がっていきます。「有名で社会的に認知された業者であるから間違いはない」=信用があると捉えられるのです。

不動産を購入しようとする場合は、名もない不動産業者に頼むより、有名な大手に依頼する方が間違いないと大多数の人が考え、その結果、周知度が高い有名大手は集客力も高くなります。

不動産業では、「組織的に宣伝広告を展開している有名大手業者=信用度が高い=集客力がある」という図式が、他の業種に比べ顕著に成り立つのです。
不動産フランチャイズを選ぶ際は、有名大手業者=集客力があることを認識するのが重要なポイントです。

③ノウハウが充実しているフランチャイズを選ぶ

フランチャイズに加入すると、フランチャイズ本部が持つ事業経営のノウハウを提供してもらえます。

フランチャイズが提供してくれる経営ノウハウには、次のものがあります。

  • ㋐効果的な宣伝・集客方法
  • ㋑不動産業を進める上で必要な知識・注意点
  • ㋒客への接遇・連絡方法
  • ㋓従業員など人件費の節約方法
  • ㋔光熱水費など必要経費の節約方法
  • ㋕客からのクレーム・トラブル対処方法

経営ノウハウは、加盟店の運営にとって非常に重要です。フランチャイズにより、提供してくれる経営ノウハウの種類や内容などが異なるため、ノウハウが充実しているフランチャイズを選ぶことが重要です。

④システムが充実しているフランチャイズを選ぶ

不動産事業では、物件情報や顧客情報、それらにかかる商談や契約の履歴・内容、関連業者の情報などを一元的に管理できるWebシステムが普及しています。

Webシステムは、不動産業に必要な様々な情報を一元管理できる仕様になっていますが、その仕様や使い勝手はフランチャイズによって様々に異なります。

Webシステムは、不動産業を運営するにあたり、効率的に営業を展開していく上で必須の備品であることから、情報量が豊富で使い勝手が良いシステムを用意しているフランチャイズを選ぶことが重要です。

⑤サポート力があるフランチャイズを選ぶ

フランチャイズのメリットは、加盟店へのサポート力があることです。加盟店が困ったときにどのような支援をしてくれるかについて十分に確認した上で、フランチャイズを選ぶことが肝心です。

フランチャイズ本部のサポートには、以下のような種類があります。

㋐経営サポート

事業運営が軌道に乗らず、収益が向上しない場合などに、事業経営に精通した本部のスタッフが、経営面での指導・アドバイスを行ってくれます。経営面での指導・アドバイスは、集客を増やして収入を向上させる対策、人件費や光熱水費の削減など支出を抑制する対策の両面から行います。

㋑人材サポート

不動産フランチャイズの運営では、宅地建物取引士などの専門スタッフが必要です。その専門スタッフが急に辞めて後任が見つからない場合などに、フランチャイズ本部が有資格者を紹介してくれます。

㋒経済サポート

加盟店の開業直後は、店舗経営が軌道に乗る前の不安定な時期であり、運転資金にも余裕がありません。そのような場合に、フランチャイズによっては、ロイヤリティの割合を下げるなど金銭的な支援を行ってくれるところもあります。

㋓トラブルサポート

不動産事業を運営していると、金銭に絡んだ様々なトラブルがあり、中には法律的な争いに発展するケースもあります。

そのような場合に、フランチャイズ本部の法律に精通したスタッフがトラブルの解決に向けて支援を行ってくれます。

⑥適応力があるフランチャイズを選ぶ

不動産事業は、その時々の社会・経済情勢により大きな影響を受けます。

例えば、昨年からのコロナ禍を背景として、テレワークが普及してきたことにより、首都圏郊外の住宅に対する需要が上昇しています。テレワークにより、都心のオフィスに出社する必要がなくなり、自然環境が豊かな首都圏郊外(東京多摩地区、神奈川県、埼玉県、千葉県など)に移住したい人が増えているのです。

このことから、不動産業においても、従来の東京23区内や駅近物件重視の方針から、首都圏近郊も含めた戦略に転換する流れも出てきています。また、住宅設計の分野では、感染症予防の目的で、玄関に手洗い器を備える、各部屋に空気清浄機を設置するなど、衛生面に配慮した建物も考案されています。

このように、コロナ禍だけをみても、住宅販売や賃貸、住宅設計の分野で変化が生じていることから、不動産業もその時々の社会・経済情勢に適応した経営戦略が求められます。将来、どのような社会・経済状況の変化が生じるかはわかりませんが、その変化に対して素早く適応し、加盟店の経営を守ってくれるフランチャイズを選ぶことが重要です。

「資金計画」・「収支計画」を立てる

フランチャイズ選びが終わったら、資金計画を立てることが非常に重要です。資金計画は、開業に要する資金がいくら位かかり、それをどのように調達するかの計画です。また、開業資金の計画を立て終わったら、開業後の事業収支計画も立てておきます。

加入するフランチャイズが決まることにより、具体的な加盟金額やロイヤリティの額、その他資金面に影響を与える加入条件などが決まってくるので、資金計画や事業収支計画を作ることが可能になります。

①資金計画

ここでは、標準的な店舗の開業費用を紹介します。

【不動産フランチャイズの開業費用】

項目 説明 金額
加盟金 フランチャイズ本部に支払う加盟金 200万円
物件賃借費 店舗を賃借するための費用 家賃20万円/月
保証金1月分+礼金1月分+初月分家賃1月分
60万円
工事費 店舗の内装、看板設置、錠前工事などの費用 70万円
設備費 デスク、椅子、ロッカー、パソコン、電話など 70万円
保証金 フランチャイズ本部に支払う保証金
ロイヤリティが払えない時のために預ける
100万円
資格取得費 事業を行うために必要な資格取得費用 10万円
合計 510万円

この開業費用510万円のうち、自己資金で賄える部分を除いた金額が融資利用額となります。例えば、自己資金が210万円あれば、開業費用510万円-自己資金210万円=300万円となります。

事業を始めると予想外の出費も想定されるため、少し余裕が持てるように融資額を申請するとよいでしょう(この場合、融資希望額を400万円にするなど)。

なお、上記の費用で、加盟金や保証金の額は、加入するフランチャイズによって変動します。物件賃借費・工事費なども、自宅で開業する方や自分で店舗の場所を提供できる場合は、大幅に圧縮することが可能です。

②収支計画

不動産業の収支は、事業内容の種類(売買仲介か建物管理か賃貸管理かなど)によって異なりますが、ここでは、標準的な例として、1月間の売上額を400~500万円程度に見込んでいます。

なお、売上収入は、

  • ㋐売買仲介の場合=仲介手数料
  • ㋑建物管理・賃貸管理の場合=管理料
  • ㋒募集=仲介手数料

となります。

また、標準的な不動産フランチャイズの運営経費は、以下のようになります。

【不動産フランチャイズの運営費用 / 月】

項目 説明 金額
ロイヤリティ フランチャイズ本部に支払う商標利用料 20万円
賃借料 店舗の家賃 20万円
人件費 従業員の給料、アルバイトの賃金
有資格者40万円/月×4人
160万円
システム利用料 フランチャイズ本部に支払うWebシステム利用料 10万円
宣伝広告費 宣伝用パンフレット、チラシなどの費用 30万円
合計   240万円

運営費用の中で、大きなウェイトを占めるのが人件費です。これは、売買仲介では宅地建物取引士、建物管理ではマンション管理士などの専門的な有資格者を雇用する必要があるからです。

収支計画では、売上額から必要経費である運営費用を差し引いた残りが営業利益になります。さらに、営業利益から融資返済額や税金を差し引いた残りが手残り利益となります。

上の例で、1月間の売上額を450万円とすると、売上額450万円-必要経費240万円=営業利益210万円となり、毎月の融資返済額と税金が合わせて40万円とすると、営業利益210万円-融資返済額・税金40万円=手残り利益170万円となります。

手残り利益から逆算して、毎月の売上額が最低いくら必要であるかを算出しておくことも重要です。

「他店との差別化」を図る

不動産業を始めるにあたっては、サービスの内容を工夫して他店との差別化を図っていくことが極めて重要なポイントです。

その理由は、例えフランチャイズ加盟店であっても、ただ漫然と普通の業務を行っているだけでは、業界での競争に勝ち抜いていくことが難しいからです。

サービス内容の工夫には、例として次のものをあげることができます。

  1. 顧客への積極的な提案・助言
    • ・その時々の社会・経済情勢や相場動向を見据えた不動産の売り時・買い時
    • ・これからの不動産投資(地域・種類など)
    • ・不動産を高く売る方法、安く買う方法
    • ・不動産投資における節税方法
    • ・住み替えの手順や注意点
    • ・これからのニーズに適合する賃貸住宅経営(宅配ボックス・ペット可・感染症予防など)
    • ・家賃設定と空室リスクの関係
    • ・春先を見据えた賃貸住宅の募集
    • ・建物が長持ちする修繕サイクル
    • ・マンションの大規模改修を見据えた準備方法 など
  2. 高齢者向けサービスの拡充
    • ・単身高齢者でも入居できる賃貸住宅の案内
    • ・老人ホーム入居のために自宅を売却したい高齢者への提案
    • ・定年退職後に地方に移住したい高齢者への案内
    • ・定年退職後にカフェや飲食店を開業したい高齢者への案内 など
  3. 女性向けサービスの拡充
    • ・単身女性でも安心して入居できる賃貸住宅の案内
    • ・アパート・マンションのセキュリティ対策の提案
    • ・ペットが飼える賃貸住宅の案内
    • ・ペット仕様の住宅(猫の遊び場・犬の洗い場設置など)の案内 など
  4. コロナ共存社会における住宅の案内
    • ・テレワークに適した住宅エリアの案内
    • ・テレワークに適した住宅設計の提案
    • ・感染症予防に配慮した賃貸住宅の案内
    • ・首都圏近郊の販売住宅・賃貸住宅の案内

上記は、不動産の所有者や取引の当事者が抱いている疑問や不動産関係で社会的にニーズがある項目です。

これら社会的にニーズがあるジャンルについて、顧客からの照会を待っているのではなく、あらかじめ提案書・案内書を作成しておき、積極的な営業により売り込んでいくのです。そうすれば、新たな顧客を開拓でき、その顧客から自店の特徴が口コミで伝わることで店舗の評価に繋がっていきます。

上記の項目の中では、高齢者や女性向けのサービスに特別に力を入れ、活路を開いていく方法も効果的でしょう。

近年、企業の定年退職後に、田舎で野菜作りを始めたい、地方の特産品を使った飲食店を開きたいという方が増えています。住み慣れた都会から地方に移住して、畑仕事の傍ら飲食店を開くなどの分野では、不動産業者が提案や手伝いができる部分が多くあります。

今後は、元気な高齢者が増える一方であることから、高齢者に的を絞った提案事業は将来性が大いにあるといえるでしょう。

また、動物好きの女性が多いことから、ペットが飼える賃貸住宅や猫の遊び場、犬の洗い場などを設置した住宅を紹介する、いわゆるペット関連事業も将来性があります。ペットは家で飼うものであり、ペットと家とは切り離すことができません。当然、そこには、不動産業者が参加できる部分が多くあるはずです。

女性にかかわらず、ペット人気は今後も高い水準を維持していくでしょう。

さらに、現在のコロナ禍は、そう簡単に収まる保証はありません。今後は、コロナに適応・共存できる社会を整備していく必要があり、それは不動産業界にも求められている課題です。

コロナ共存ジャンルは、これからの不動産業においても大きなテーマになるでしょう。

この「他店との差別化」を図ることは、特徴ある営業を行う上で非常に大切なポイントです。人々の不動産にかかるニーズを探り、その中で、多くの人が持っているニーズを選別し、それに応えられる提案や助言を積極的に提供していくのです。不動産業は、顧客がその提案や助言の内容を実現していく過程で、道案内や手伝いを行う仕事なのです。

まとめ

本記事では、不動産フランチャイズを始めるための重要なポイントとして、以下の5つをあげました。

  1. 「何をやるか」を決める
  2. 「事業のスケール」を決める
  3. 「フランチャイズ」を選ぶ
  4. 「資金計画」・「収支計画」を立てる
  5. 「他店との差別化」を図る

①「何をやるか」と②「事業のスケール」を決めることにより、自分が始める不動産事業のジャンルや内容、事業規模の大枠が見えてきます。

それらの大枠を決めた上で、②フランチャイズ選びに進みます。ここでは、①「何をやるか」と②「事業のスケール」で決めた大枠=自分の青写真・計画に適合するフランチャイズを選ぶことが肝心です。
もっとも、フランチャイズの加入条件が、自分で決めた②「事業のスケール」(営業範囲・取扱物件)と完全にはマッチしない場合もあるため、その点は総合的に検討して是非を判断します。

加入するフランチャイズが決まったら、より計画を具体化するために、④「資金計画」・「収支計画」を立てます。この資金計画、収支計画を立てることにより、いよいよ不動産事業が現実的・実践的なものに姿を変えてきます。

そして最後に、開業に向けて⑤「他店との差別化」を検討します。他店と異なる魅力ある店舗を創るために、サービスの内容に知恵を絞る努力を惜しんではいけません。この、⑤「他店との差別化」を工夫することこそが、数ある不動産業者の中で生き残り、成功していくための非常に重要なポイントです。

この⑤「他店との差別化」は開業後ではなく、必ず開業前に検討・準備しておき、開業と同時にすぐに動き出せる体制をとることが重要です。

以上、不動産フランチャイズを始めるためのポイントを紹介しましたが、1つずつ着実に進めていけば、きっと自分の青写真に沿える開業ができることでしょう。