美容院・理容院のフランチャイズを始める時に大切な3つのポイント
平成30年度の衛生行政報告によると、美容室の店舗数は25万1,140店となって、25万店舗を突破しています。その伸び率は減少したものの増加傾向が続いています。一方で、減少傾向が続いている理容室は、同年で11万9,053店となっています。その結果、美容室と理容室を合わせると37万店を超えています。(厚生労働省『平成30年度衛生行政報告例の概要』)
また、平成28年の経済センサス活動調査によると、美容業の売上は1兆6477億円で理容業の売上は4959億円で合計2兆1437億円の市場規模となっています。前回の平成24年経済センサスと比較すると、美容業は20%増加して理容業は11%増加して、美容業の規模も成長も大きくなっています。(総務省統計局『平成28年経済センサス―活動調査』)
37万店は、コンビニの店舗数5.8万店(2018年時点)と比較しても7倍近い数値です。このような比較からも美容院や理容院の数が非常に多いことが分かります。その美容室や理容室の開業方法の一つがフランチャイズ加盟による開業です。
そこで今回は、美容室や理容院のフランチャイズを検討するために見極めるべき3つのポイントを紹介していきます。
目次
美容・理容のフランチャイズ
美容院や理容院で数年勤務した後に、自分の店舗を持ちたいとの想いで独立を目指す方は非常に多くいます。その際に、どのように独立するかは経営に重要な影響を与えます。そして、独立の方法としてフランチャイズシステムを利用すると、開業や運用のやり方が大きく変わります。
〇フランチャイズとは
フランチャイズで最も知名度が高いのは、セブンイレブンやローソンなどのコンビニ業界です。最近は、低価格帯で素早くカットができる駅前や商業施設などの店舗などを中心にフランチャイズ店舗が増えてきています。
フランチャイズサービスを展開する企業(フランチャイズ本部と呼びます)と契約することで、ブランドや商品や店舗運営ノウハウなどのフランチャイズ本部の持っている店舗開業や集客や店舗運営や経営のノウハウを利用することができます。そのため、1からすべて自分で行う開業と比較すると、開業することの難度を下げることができます。
その代わり、フランチャイズで開業する時にも、開業資金は必要になります。また、フランチャイズ店舗側は決められた方法で毎月ロイヤリティと言われるフランチャイズサービスを利用する対価を支払いすることになります。さらに、経営の責任は経営者にある点は独自の開業と変わりません。
〇のれん分け
店舗開業時にブランドを利用できる点では、フランチャイズ以外に“のれん分け”があります。のれん分けとは、勤務していた店舗の名称やノウハウを利用して独立する方法です。
のれん分けはフランチャイズと似ている部分も多いため、社内フランチャイズとも言われていて、美容院や理容院には多い独立方法です。
勤めていた店舗の雰囲気やサービスが好きだが、独立もしたい方にはメリットの多い方法がのれん分けです。
のれん分けとフランチャイズの大きな違いは、のれん分けは原則従業員が対象であることです。そのため、のれん分けで独立した店舗はすでにサービス面で言えばすでに内容を理解している状況で店舗をスタートすることになります。また、のれん分けではフランチャイズほど店舗運営において制約は少ないことが一般的です。
また、のれん分けを実施する事業者とフランチャイズ本部の面での違いもあります。のれん分けを実施する事業者は、のれん分けで独立する店舗から収益を主たる収益元にはしていません。事業者として、同じブランドの店舗を展開していて、その店舗の事業収益が柱になります。
一方で、フランチャイズは加盟店からのロイヤリティが収益の柱になっているのが一般的です。そのため、フランチャイズ本部はフランチャイズ加盟店が儲からなければ自身も儲かりません。だからこそ、フランチャイズ本部はフランチャイズ加盟店のためにノウハウのブラッシュアップや新商品や新サービスの開発や集客のための広告など様々なサポートを継続的に実施していきます。
〇美容と理容のフランチャイズ店舗数
美容と理容のフランチャイズ店舗数は2019年時点で51社のフランチャイザーと、4,285店舗のフランチャイズ店舗があります。この数値は、前年比で店舗数が▲101店舗となり2.3%減少していることになります*。
フランチャイズ全体も2019年は初めてフランチャイズ店舗数が減少への転機を迎えた年になっていますが、その前年比は▲0.6%になっているため、美容・理容のフランチャイズは減少していると言えます。
ただし、その逆風の中でも理容院における低価格帯のヘアカット専門店は店舗数が前年比で+6.2%、売上高+9.0%と伸長しています*。
*参照|一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会『2019年度フランチャイズチェーン統計』より
美容院と理容院の全体の店舗数と比較すると、フランチャイズ店は2%未満の状況であるため、フランチャイズを選択している人は多くない状況です。しかし、理容院全体は減少傾向が続いている中で、低価格帯の理容院フランチャイズは増加する新たな動きをみることができます。最近はフランチャイズによって開業することを選択する人は増えていることが分かります。
フランチャイズでの開業・運用の流れ
フランチャイズを利用して美容院や理容院を開業する場合、以下の流れで実施します。
- フランチャイズの選定と契約
- 店舗開業準備
- スタッフの採用と教育
- 集客活動
①フランチャイズの選定と契約
フランチャイズ本部を選ぶ際は複数の説明会に参加をすることがポイントです。最近は新型コロナウイルス感染症の拡大防止のための緊急事態宣言によってリモートなどの説明会も増えており、話を聞くためにかかる時間は短縮できます。そのため、資料やホームページや実際に店舗へ訪れるなどをして、気になる店舗やフランチャイズがあったら積極的に話を聞くことがおすすめです。
その上で、情報を整理していき、各フランチャイズのメリットとデメリットや注意点などを比較していきます。具体的に質問すべき事項も確認しておくと便利です。また、比較の際にはどこを譲らない事項と、また妥協する事項とそのラインを決めておくことも必要です。
〇店舗にいってみる/フランチャイズ加盟店オーナーに聞いてみる
フランチャイズを絞ったうえで、店舗に実際にお客様として来店することも気づきにつながることが多くあります。お客様としてカットやサービスや接客を受けることや他のお客様とのやりとりを見ることができるからです。特に、サービスを受けているお客様が満足しているかどうかは、同じフランチャイズ店舗のサービスを行う場合には必須で知りたいところです。
そして、フランチャイズ店舗のオーナーと知り合える機会があれば、ぜひその機会を生かして状況を確認することを推奨します。売上や利益状況など突っ込んだ質問も可能なら確認します。
〇事業計画と事業資金
美容院や理容院と言っても、どんな店舗にしたいのかは人それぞれです。自分の理想とする店舗イメージを作り上げていきます。そのためには、フランチャイズ本部だけではなく、ショールームなど様々な場所に足を運んでみることが必要です。
店舗イメージができたら開業にかかる開業資金や、その後の事業運営にかかる事業資金について事業計画と資金シュミレイションを行います。事業資金は、できるだけ無理をしないよう注意します。幾らくらい事業資金が必要になるかは、店舗の立地や規模や採用するスタッフの数などで大きく変わってきます。
そのため、どのフランチャイズ本部と共に開業するかによって大きく開業資金も事業資金も異なってきますので、フランチャイズ本部と共に検討していくようにし、独りよがりの事業計画にならないようにします。
フランチャイズ本部が作る事業計画は、各店舗の平均の売上やコストを把握しているため、概ね現実に沿った事業計画を作成することができます。ただし、数値の根拠を一つずつ確認するのは、フランチャイズオーナーの役割になります。そのため、事業計画を作成する時に使う数値すべてその根拠を記載するよう依頼しておきます。
根拠が理解でき、かつ無理のない事業計画で収益が上がるのかを確認していきます。その上で、やりたい美容院や理容院のイメージやコンセプトなどが一致して、かつ条件面でも問題ないフランチャイズ本部を選びます。
②店舗開業準備
店舗を開業するためには、出店エリアを決めることが必要です。出店エリアを決めるためには、商圏分析をする必要があります。商圏分析を簡単に説明すると、店舗がターゲットとするお客様層が多くいてかつできるだけ競合が少ない地域を探します。
性別や年齢別の人口構成を基本として、駅が近い場合には乗降客数、住宅街などの場合には世帯や居住者の特性などから商圏分析をします。安い単価の理容院などは、お客様の数で勝負することになるので人通りの多い駅やスーパーや商業ビルなどの人の集まる場所に店舗を置くことが多くなっています。一方で、価格が比較的高い顧客層へサービスを展開する場合には、少ないお客様数でも顧客当たり単価で売上が決まってくるため、落ち着いてサービスを楽しめる雰囲気でかつ来店がしやすい駅から遠くない立地などが人気です。
〇良い立地や物件でも予算確認は必須
お気に入りの店舗が見つかったら、事前に作成したテナントレンタル費用内で借りることができるかを確認します。高すぎるテナント料金は要注意です。もともとの事業計画にそって予算の範囲でテナントを選ぶ必要があります。
テナント料金が高いことは商圏や立地や店舗自体が優れていることの裏返しになります。そのため、高いことは売上向上に直結すると考えてしまう方もいます。しかし、テナント料が高いことと売上は直結しません。テナント料に直結するのは、費用です。
店舗探しは、根気のいる仕事です。もともと良い立地や店舗は空きテナントになりにくく、空きテナントになるとすぐ成約になるため競争状態です。フランチャイズ本部や不動産会社と協力しながら、こちらの条件に合った物件を長期スパンで探しておく準備期間が必要です。
〇施行と設備設置
開業する店舗が決まったら、施工と設備を設置していきます。フランチャイズ本部側にノウハウが蓄積されている部分であり、任せることができることが多くあります。サロンデザインなどは、フランチャイズ本部と協議しながらフランチャイズのブランドイメージに沿った店舗に仕上げていくことが必要です。
フランチャイズオーナーとしては、自分の店と言う想いから店舗に少しでも自分らしくしたい気持ちが生まれるかもしれません。しかし、来店するお客様はフランチャイズグループが持つブランディングやサービスを期待しているため、お客様の満足を最優先に考えるならばフランチャイズのコンセプトを出していくことが必要です。
③スタッフの採用と教育
開業までには、店舗の準備と同時並行させながらスタッフの準備も行います。スタッフの準備とは、応募と採用と教育です。スタッフの採用なども開業準備などと同じく、フランチャイズ本部がノウハウを持っています。そのため、フランチャイズ本部側と相談・協力しながら、採用人数と予算に応じてスケジュールを組んで進めていきます。
採用においてオーナーの重要な仕事は、採用を決めることになります。面接をして、経歴や人となりや働く目的などをポイントに、一緒に働くことができる人かどうかを見極めます。特に美容や理容の業界で働こうとする場合、現在持っているスキルとあわせて、今後必要となるスキルを取得していく意欲が高いかどうかを見分ける必要があります。
教育は、フランチャイズ本部が実施する研修の内容を事前に理解しておきます。そのうえで、新しく採用するスタッフに研修を受けてもらいます。また、フランチャイズ本部が用意した研修で追加してほしいことや、もしくは自身で別途研修プログラムを用意してスタッフの教育が開店までに間に合うように準備します。
④集客活動
集客活動とは、宣伝と広告になります。美容院・理容院の店がオープンすることは、オーナーにとっては一大事です。しかし、美容院や理容院のオープンはそれほど珍しいものではありません。前述のとおり、美容院と理容院を合わせてすでに37万店もあります。そのため、集客活動をしないと新店での集客に苦戦することになるでしょう。
宣伝や広告は、エリアやターゲットに応じてどのような時期にどのような内容でどんな媒体を使うかなどによって効果が変わってきます。例えば、店舗がある駅を利用する人をターゲットにするのであれば、駅や電車の看板などの広告を利用することで効果が期待できます。また、フランチャイズ本部の規模が全国規模などの場合には、Web広告などで継続的な広告を展開することも多くあります。
フランチャイズのメリットとデメリット
フランチャイズでの美容院や理容院を開業することには、メリットとデメリットがあります。また、開業しようとする人が持っているスキルや経験によって、このメリットやデメリットの影響度が異なってきます。そのため、フランチャイズのメリットとデメリットを理解したうえで、自分の開業や店舗運営に必要度合いを見極めることが必要になります。
メリット
フランチャイズを利用するメリットは大きく、以下の3つになります。
- 経営が安定する
- 開業資金が抑えられる
- 得意なことに特化できる
①経営が安定する
美容院や理容院を立ち上げてまず克服しなければいけない課題は集客です。前述のとおり、美容院や理容院の店舗数は非常に多くあります。店舗が多いことは競合が多いと言うことです。競合が多いと、集客を競うことや顧客の奪い合いに発展しやすくなります。
美容院・理容院の立ち上げ時には新規顧客の集客が重要になります。新規顧客を集めて、そこからリピーターとして継続的に来店していただけるお客様にすることで安定的な経営が実現できるからです。
フランチャイズを利用すれば、既存事業の看板や商品などのブランドを活用できます。集客には、知名度があるサービスや店舗名などブランド力が必要です。同じ広告を行っても、その知名度やブランド力によって集客効果や反響は異なってきます。0からブランド力を育成していく必要がない点はフランチャイズの大きなメリットです。
また、ブランド力が活用できるのは集客だけではありません。美容・理容の店舗運営で欠かせないスタッフですが、そのスタッフを集める上でも活用できます。美容院や理容院において、スタッフのカットの技術はもちろん重要ではありますが接客のやり方などが顧客の定着度や利益に直結し、経営の安定に寄与します。
できるだけ優秀なスタッフを採用しようとすると、多くの募集者を集めてその中で厳選していくことになります。知らない店舗より知っている店舗名やブランドやサービスのコンセプトを理解した応募者が増えることもフランチャイズを活用するメリットになります。フランチャイズによっては、その知名度を利用して大々的に求人広告などを行うことを実施してくれる企業もあり、個人経営よりも広告における露出度が高いことも良い人材の採用にプラスの影響です。
また、フランチャイザーによってはスタッフの研修までをカバーしてくれる場合もあります。どうしてもスタッフの研修や教育は、小規模店舗だと後回しになることや、体系だった効率的なものにならない傾向があります。しかし、研修自体をパッケージにしている場合には、覚えるポイントや強化すべきポイントを抑えて教育を受けることができるので、効率的かつ効果的な人材育成につながることが期待できます。
②開業資金が抑えられる
美容院や理容院の開業のためには、テナントを借りる、内装工事を行う、シャンプー台やスタイリングチェアなどの専門器具を設置する、洗濯機やエアコンなどの設備を用意することなどが必要になります。その他、スタッフの雇用や宣伝広告やシャンプーやパーマやカラー用品なの材料の購入も必要になります。
そのため、美容院や理容院の開業時に必要な資金は2000万円前後とその他の業種の開業資金より高くなる傾向があります。この資金は事前に自身の貯蓄や日本政策金融公庫などの金融機関から調達するなどの方法で集めることが必要ですが、2000万円を集めることは決して簡単ではありません。
フランチャイズで開業することで、開業資金を抑えることができます。個人で開業を使用とする場合には、全て一人でやらなければいけなくなるため、コストは割増しになります。フランチャイズの場合には、仕入れる量が多くなる為単価を下げる交渉が可能です。一方、個人の場合には仕入れる量はどうしても少量となるため単価が高くなる傾向があります。特に、設備などの導入費用を抑えることができることは単価が大きいものが多いので、削減効果も大きくなることがあります。
また、開業資金の大小ではないですが、資金調達方法のノウハウや自社リースやクレジットなどを活用できる場合もあり、資金調達方法や支払い方法の幅を広げられることもフランチャイズによる開業のメリットとなります。
③得意なことに特化できる
経営は簡単ではありません。特に美容や理容の世界ではカットなどの専門技術が高いが、経理や税務などの経営上必要な知識が不足している方もいます。このような場合には、せっかく集客がうまく行っているのに、利益が残らないことやすべてを自分でやるためプライベートな時間が確保できにくくなります。
総合的な経営ノウハウまでを提供できるフランチャイズ本部のサポートを受けることで、分からないことを学ぶ時間を短縮することができます。自身の店舗や会社を経営者としての判断や切り盛りすることは自身でやることは変わりません。しかし、何をしたらよいか見当がつかない状況になることや不明点を不明点のままにすることを無くすために、フランチャイズ本部やそのアドバイザーのサポートは大きなメリットとなります。
やらなければいけないことをできるだけ短縮することで、サービス質の向上や顧客満足度を上げるための施策に着手することができます。また、専門技術をさらに磨くための自身のスキルのブラッシュアップやスタッフに指導する時間を作ることもできます。
〇経営者の起業後の課題をサポート
これらのフランチャイズのメリットを活用することは、経営者の起業後の課題をクリアするサポートになります。中央省による経営者の起業後の課題トップ3は、『質の高い人材の確保』『資金調達』『販売先の確保』になります*。販売先の確保はお客様になります。
質の高い人材の確保や販売先の確保については、フランチャイズのブランディングや採用活動がサポートしてくれます。また、資金調達も同様にノウハウの提供や仕組みの提供をしてくれるフランチャイズもいます。これらのことから起業時の課題を一人では解決しにくいと思う起業家はフランチャイズを検討することは有益と言えます。
*中小企業庁『中小企業経営環境実態調査』(2010年)
デメリット
フランチャイズを活用して美容院や理容院を開業することにはデメリットもあります。デメリットもメリットと同様に経営者の特性や持っているスキルや経験によって影響度は異なってきます。以下がフランチャイズのデメリットになります。
- 自身が思う店舗や店舗運営ができない
- ロイヤリティの支払い義務が発生する
- 閉店する場合、契約違約金が発生することもある
①自身が思う店舗や店舗運営ができない
美容院や理容院を独立して自分の店を持ちたい、と思う際にはどんな店でも良いと“こだわりがない”起業する人は少ないです。こんな店にしたい、こんなサービスを提供したい、と言う想いから自分の店舗を持つ方が大半です。
しかし、フランチャイズではブランドイメージやビジネスコンセプトを守る必要があります。フランチャイズ店舗へ来店する人は、どこでも同じサービスが受けられる安心感を持っています。そのため、1店舗でもブランドイメージなどにそぐわない店舗があると、ブランドイメージはフランチャイズチェーン全体に影響を与えます。
フランチャイズ店舗オーナーはフランチャイズ本部と共にブランドイメージやビジネスコンセプトに沿った事業展開を行うことに注意を払う必要があります。つまり、店舗の外装や内装や店舗名やサービス内容などオーナーであったとしても自由に決めることはできず、フランチャイズ本部のマニュアルや指示に従う必要があります。
また、営業時間や定休日についても定められています。また、サービス内容だけでなく、カラーリング剤やその他の使用する商品なども決まったものを使用することが定められています。場合によっては自分の意に反するものを使い続けることもあるかもしれません。
起業や開業は簡単ではありません。経営が軌道に乗るまでは様々な我慢が必要になるタイミングもあります。そんな時に支えになってくれるのは“やる気”であり、自分の店である“喜び”などの感情的な面が多くあります。フランチャイズに加盟したものの、その自由度の低さにストレスを感じていては“やる気”を失うことに繋がりかねません。それでは、せっかくの起業が良い結果に結びつかなくなります。
そのようなことにならないように、起業することや開業することでどのようなことを実現したいのか、を事前に整理しておきます。そのうえで、自身が希望するブランディングやビジネスコンセプトに近いフランチャイズであるかどうかをよくフランチャイズ本部と確認したのちに決定をすることが必要です。また、どうしても自分のやろうとしている店舗がフランチャイズでは実現できないと感じる場合には独自の開業を目指すことをお勧めします。
②ロイヤリティの支払い義務が発生する
フランチャイズでブランドを利用できることや経営ノウハウや店舗運営などのアドバイスなどを受けられるのは、無料ではありません。フランチャイズ契約を行うと、フランチャイズ本部へロイヤリティの支払いの義務が発生します。一方、独自で経営をしている店舗であれば、フランチャイズへのロイヤリティは発生しません。
フランチャイズサービスを受ける対価がロイヤリティになるため、ロイヤリティを支払いしてもフランチャイズを受けるメリットがないとフランチャイズ契約を行う意味がありません。
このため、フランチャイズ契約を検討する際にはロイヤリティのシュミレイションをしっかりと行うことが必要です。もし、このロイヤリティのシュミレイションをおざなりにする態度や計算根拠を示さない数値を持ってくるフランチャイズ本部ならば要注意です。
〇ロイヤリティの計算方式
ロイヤリティの計算方式は、法律で定められた方法があるわけではありません。そのため、フランチャイズ本部がその計算方法を決めることになります。大きく定額方式と変動方式があります。
定額方式は、毎月決まった金額を支払う方法です。これであれば、計算は非常にシンプルになります。また、利益が大きく出た時にも定額であるため負担は少なくて済みます。一方で、定額であるがゆえに、利益が出ない時期にも支払いすることが求められます。
変動方式は、売上額や粗利などに応じてロイヤリティが計算されます。例えば、『売上の〇%をロイヤリティとする』とする場合、売上額の増減に応じてロイヤリティも増減します。売上などが少ない時には、ロイヤリティの負担が少なくなるのはメリットですが、売上が多い際にはロイヤリティの負担も大きくなる点はデメリットになる時もあります。
そして、売上に応じてロイヤリティが決まる場合に最も注意しなければいけないのは、売上が多くても利益が残らないタイミングです。つまり、売上に応じて費用がかさむ場合には、利益があまり残らない状況になります。それでも売り上げに応じてロイヤリティが発生すると、ロイヤリティの支払いによって最終的には赤字になってしまうことも考えられます。
ロイヤリティを支払うこと自体は、前述のとおりフランチャイズサービスの対価であるため、問題はありません。ただし、ロイヤリティの計算方式を正しく理解して納得してフランチャイズ契約を締結することが必要です。そのためには、経営状態が良好な状況や苦しい状況など様々な状況下でのロイヤリティの金額計算をするシュミレイションをフランチャイズ契約前に実施しておくことを推奨します。
③閉店する場合、契約違約金が発生することもある
フランチャイズ契約においては、契約違約金について定めているものが多くあります。契約違約金は、事前に定められた期間内に契約を解除した場合にフランチャイズ本部から請求を受ける違約金です。
契約違約金は、フランチャイズ本部は加盟店に提供するサービスやシステムなどの開発や運用、新規店舗オープンの準備から実際の店舗運営へのアドバイスや設備調達など様々な先行した投資が必要になります。その先行投資を事前に定めた契約期間にロイヤリティを受け取ることで回収していくビジネスモデルになっています。そのため、契約期間内の解約については、契約違約金がかかる契約が大半です。
契約違約金自体も、ロイヤリティと同じように必ず契約前にその内容を理解が必要です。ただし、必ず払わなければいけないロイヤリティとは異なり、定められた期間に解約をすることでしか発生しない契約違約金の説明は必ず受けるものの認識が薄くなりがちです。フランチャイズ契約を締結してこれから開業しようとする時に店舗経営がうまく行かなくなった時の想定はしにくいためです。
〇競業禁止の条項
フランチャイズ契約条項における競業禁止の条項が含まれている場合が多くあります。これは、フランチャイズ契約を終了してから定められた期間について競合するビジネス(類似事業)をすることを禁止する条項です。禁止事項であるため、競合にあたる事業を実施した場合に違約金が設定されています。
ビジネスのノウハウを提供するフランチャイズ本部の立場からは、フランチャイズ契約終了後に類似事業を行う目的でノウハウを吸い取られるリスクをカバーするための条項になります。一方で、美容院や理容院などの専門スキルが必要な事業を行う場合にはどうしても次に事業を行う際も類似事業に該当することになるケースが多くなります。
〇フランチャイズ本部との協議
契約違約金や業況禁止などフランチャイズ契約条項は、いくつかの確認すべき事項があります。そして、それらの事項は公平になるよう契約を締結する前にフランチャイズ本部と協議することができます。そして協議の結果、修正した内容の上フランチャイズ契約の締結をすることもできます。
また、協議に臨む姿勢で、そのフランチャイズ本部の本気度を測ることもできます。そのため、フランチャイズ契約についてはその内容を1つずつ理解し、不明な点や分からない点は説明を求めるようにします。そのうえで、不利に感じる事項については相談を行うことが必要です。
フランチャイズを選んだほうが良いヒト
フランチャイズで開業をした方が良い人は、まずフランチャイズ本部のコンセプトやサービスと自身のやりたいことがマッチする人になります。
美容院や理容院はこだわりをもって店舗やサービスを実施したい方が多くいます。そのため、フランチャイズの制約をネガティブに捉える方もいます。ただし、フランチャイズであっても個人の独立開業であっても、目指すところはお客様に受け入れてもらうサービスであることに変わりはありません。
その意味でフランチャイズビジネスは、お客様に受け入れられるサービスをノウハウ化しています。素直にフランチャイズ本部の指導や指示のとおりに実行できる人がフランチャイズオーナーに向いています。
〇自己責任
フランチャイズはフランチャイズ本部と2人三脚で店舗の開業から運営までを実施していきます。そのため、経営の責任について曖昧に思ってしまうオーナーも出てきてしまいます。しかし、自身の店舗の経営の責任はオーナーにあります。
フランチャイズのオーナーは、フランチャイズ本部のアドバイスや意見を素直に聞くことも必要ですが、最終的な意思決定は自身で行う必要があります。フランチャイズオーナーであっても経営者です。日々、意思決定が必要になります。それらの意思決定をフランチャイズ本部やそのノウハウに従って、自己責任のもとで実施できる人がフランチャイズに向いていると言えます。
〇マニュアルやノウハウを実行することが楽しめる
フランチャイズオーナーになることは、マニュアルに従ってビジネスを行うことになります。美容や理容も同様です。フランチャイズビジネスは、どれだけマニュアルにそった行動をおこないながらノウハウを実現できるかに事業の成否がかかってくる面もあります。そのマニュアルに沿いながらも、そのこと自体を楽しめることが必要です。例えば、接客については、マニュアルやノウハウはあるものの、やはり楽しみながら実施するかしないかで効果は変わっています。
また、マニュアル自体やノウハウも完ぺきではありません。現在の変化のスピードが速く、かつその変化の幅が大きい時代の中ではマニュアルやノウハウも適応するために変化することが求められます。その時に、どのようにマニュアルを変化させていくべきかを考え続けて、フランチャイズ本部と共に試行錯誤できる人もフランチャイズオーナーに向いていると言えます。
〇フランチャイズオーナーに向いていない人
フランチャイズオーナーに向いていない人は、自分のやりたいようにやることに重きを置く人です。フランチャイズ本部との基本的な契約を守れそうにない人はフランチャイズオーナーには向きません。
また、フランチャイズ本部に頼り切ってしまう人も向きません。自分で行動や意思決定をすることをせず助言ばかりを求めて、決定できなくなってしまう人は最終的には自己責任で事業ができなくなってしまいます。
そうなると、さまざまなアドバイスを取捨選択できなくなり、店舗運営がぶれてしまう結果にもなります。あくまで、事業や店舗運営はオーナーが最も詳しい自負をもち、必要なアドバイスを取りに行くよう姿勢でフランチャイズ本部と付き合う姿勢が必要です。
また、フランチャイズで開業すれば経営することが楽になる、と思う人も要注意です。経営はチャンスも多いですが、リスクも多くあります。一つ一つのチャンスを実現させて、リスクを回避していくことはやりがいもありますが、苦労もあります。
フランチャイズのマニュアルやノウハウやアドバイスではカバーできない問題も大小あります。現実的にフランチャイズ本部とともに事業を行うことが独自の店舗運営より楽になることもありますが、それはノウハウやマニュアルを実行する努力の結果と言う側面があります。
美容院や理容院を展開するフランチャイザー
実際にフランチャイズ本部はどんなものがあるのか、またその加盟店条件はどのようになっているのか、参考になりそうなフランチャイズ本部を紹介します。美容院や理容院のフランチャイズと言っても、様々な店舗やサービスがあることを理解すれば、自分のやりたい店舗やサービスを一緒に実現できそうなフランチャイズを探すことができるかもしれません。
美容院のフランチャイズ本部
EARTH
首都圏を中心に全国展開を行っていて、知名度が非常に高いフランチャイズが、『HAIR&MAKE EARTH』です。知名度だけではなく1989年の創業以来安定的な成長を続けて、フランチャイズオーナーは2018年時点で100人を超えて、美容院としては日本最大規模を誇ります。
EARTHの特徴は、店内に友人同士や恋人などと一緒にヘアメイクができるペアブースやプライベートブースなどのユニークなブースを用意していることです。もちろん、バリアフリーブースや子供連れでも安心してヘアメイクが楽しむことができるプレミアムチャイルドブースなど、来店したくなる楽しいブースやサービスを展開しています。
また、ヘアメイクだけにこだわらず、来店するお客様のニーズに応えるサービスも提供しています。リラックスができる空間の中で、専門ネイリストのサービスを受けることができるネイルブースや、エクステブースなども展開しています。ヘアメイクだけにこだわらず、お客様のニーズを拾っていく姿勢はニーズの変化が早い現状に適応することができる体制と言えます。
EARTHが展開している独立支援制度が『ドリーム7ステップパートナーシステム』です。これは、店舗のスタイリストから始まって、基本給から歩合制へ給与体系が変わり、その後に店長職を経験します。そして最終的にパートナーシップ契約を締結し、フランチャイズオーナーとして店舗を経営していきます。こののれん分けに近いフランチャイズシステムを活用することで、独立とその後の店舗運営までをトータルにサポートすることに成功しています。
その上で、EARTHはそのフランチャイズ店舗の運営方法を店舗オーナーの個性を発揮できる環境を提供しています。例えば、全店舗で料金設定は統一していますが、割引設定は各店舗で決定することができます。また、その上でフランチャイズオーナーとの対話を重視し、年に9回オーナー会議を実施するなどして、経営者の意見がフランチャイズ全体に届く運営をしています。
11cut
2001年から2020年までの20年間脅威の成長と実績を積み重ねてきたのが、『11cut(イレブンカット)』です。2000年の売上は5000万円からスタートし、2019年には99億円まで実に198倍の成長率となっています。これはスピーディでカジュアルプライスのコンセプトで美容室を展開してきたことが顧客ニーズをつかんだ結果と言えます。
サービスのコンセプトは、煩わしい予約不要で、メニューも価格もシンプル(カットは一律1,500円)として、時間をかけないスピーディなサービスを展開しています。その結果、時間がなくしかし美容と価格に敏感な顧客層を獲得することに成功しています。
また、11cutは直営店での経験が豊富であるため、物件開発や出店コストの削減など様々なノウハウを蓄積することに成功しています。特に出店コストは一般の美容室と比較すると30%程度コストを抑えることに成功しています。
また、異業種経験しかない方でもフランチャイズオーナーになれるほど充実した、美容師スタッフ教育システムを構築しています。求められる品質を維持し、スピーディに多くのお客様へサービス対応ができる店を実現させるために重要になるのはスタッフと、そのスタッフを育てるための教育システムです。11cutには、この美容師スタッフ教育システムがあるので、加盟店オーナーが異業種の経験しかない方でもスムーズな店舗運営と収益を獲得できます。
理容院のフランチャイズ本部
髪や
少子高齢化が進む日本社会の中で、ニーズが高くなっているのが訪問美容理容サービスです。高齢の方や介護を受けている方がいる福祉や医療の施設やご家庭にお伺いして美容や理容サービスを展開しています。訪問福祉美容理容サービスを通じて社会貢献ができ、肯定者の自立と地域社会とのつながりを目指すことができるフランチャイズです。
訪問福祉美容理容を行うための設備を完備した移動理美容自動車『エムロード』や、オーダー管理システム『アンジュ』などの開発に力を入れています。また、訪問介護資格と美容・理容の資格の両方をもつ理美容福祉士制度を確立させ、訪問介護を待つ方のニーズに応えるスペシャリストの育成プログラムを構築しています。
まとめ
今回は、美容院や理容院をフランチャイズによって開業したい方に向けて、フランチャイズの仕組みやその開業までのステップと、フランチャイズのメリットデメリットと、特徴のあるフランチャイズ本部を紹介しました。
フランチャイズ自体は、開業するための方法の一つです。安定した経営が行いやすい点やビジネスノウハウを体系だって学びながら経営ができる点など、フランチャイズだからできるメリットは多くあります。また、フランチャイズオーナー同士の連携などは、孤独になりがちな経営者にとってはかけがえのない情報交換の場になっていることも少なくありません。
美容院・理容院の開業をしたいという時は、経営や運営の方法を確認する意味も含めてフランチャイズのやり方も把握するが大切です。